31 / 42
三章
4
しおりを挟む黒髪に赤眼。見間違えるはずがない。オスカーだ。王となっても顔色の悪さは相変わらずだ。
オスカーは拾った骨を捨て、足で踏み潰した。
「この男の死体は、私が買い取りました。兄上が好みそうな愛らしい顔でしたので」
「骨からまさに生きているかのように見せるとは。さすが古代魔法に手を出すだけはある」
「こんなの、はた目からそう見えるように幻影魔法を掛けていただけです。兄上が本来の魔力を有していたならば、これは骨に見えていたでしょう」
一歩、近づいてくる。オスカーは腰に剣を佩いているが、まだ抜いてはいない。剣を抜かずとも、魔法で、アーネスト共々を一瞬で殺せてしまう力を持っている。
「ライトゴーンに行っていたのではないのか。よくぞ生きて帰ってこれたな」
「行っておりません。ずっとあの骨を通して、兄上を監視してました」
「操っていたのか」
「さすがに王宮からでは遠すぎて操作出来ませんから」
ということは一週間、オスカーはずっとアネモネを操っていたことになる。アネモネを通してアーネストと話をしていたのはオスカーだったのか。
「政務もせず私とお喋りしていたとは暇人め。そんなに術式について話したかったのか」
「私の知識についていける者はおりません。お陰で有意義な時を過ごせました」
「随分と殊勝に振る舞っておったな」
「お好きでしょう?ああいうの」
一歩、近づいてくる。その歩みが遅いのは、足に魔法陣を展開しているからだ。
アーネストが気づいた時には、足元の地面が割れていた。
間一髪でレイフがアーネストを押し倒して逃れる。アーネストが顔を起こしてさっきまでいた場所を見ると、そこは地面から岩が突き出ていた。
「一思いに殺してやろうとしたのに、あんなに不様で醜く足掻くなど、とても兄上とは思えませんでした」
「処刑の時の話か?」
「あんまりにもいつもの兄上ではなかったので、つい我を忘れて中止してしまいました。あれほど後悔したのは、後にも先にもありません」
また地面が光る。今度はアーネストを持ち上げて、レイフは攻撃を逃れる。アーネストはイエローから奪った剣を持っていた。ブレスレットの制約で、レイフは剣が重く感じて持てず、また自身にも強い負荷がかかり組み手も出来ない状態だった。
「重くないのか?」
「重いです」
と言いつつアーネストを抱えまま、次々と攻撃を避けていく。その身のこなしは全く負荷がかかっているとは思えなかった。
「そなたやはり術式を削っていたのだな」
「いいえ」
「でないとこんなに動けんだろう」
「動けます」
「噓つけ」
無駄話のせいか、繰り出される内の一つの攻撃が避けきれず、かすめる。レイフは咄嗟にアーネストを庇い、脇を強かに打ち付けた。
「レイフ!」
「かすり傷です」
砂ぼこりが舞う。いつの間にかオスカーを見失っていた。役には立たないだろうが、一応、剣を構えておく。
「早く殺しておけばよかった」
直ぐ耳元で囁きが聞こえる。
「──なっ!」
「遅い」
オスカーの刃が光る。一閃の後、砂ぼこりの中に一筋の線が出来る。
アーネストは来る痛みに耐えようと目を閉じていた。だが痛みはやって来ない。恐る恐る目を開けてみると、辺りはまだ砂ぼこりで視界が悪かった。
目には見えずとも音は聞こえた。金属がこすれる嫌な音。アーネストは持っていた剣が手元に無いことに気づいた。
「この邪魔者め!兄上をたぶらかした下郎が!」
オスカーの叫び声。霧が晴れる。アーネストに背を向けるレイフの姿。
レイフは剣を取り、オスカーとつば迫り合いをしていた。アーネストが持っていた剣だ。
「貴様、なぜ剣が使える…!術式を破ったのか…!」
レイフは答えず、難なく押し切ると間合いを詰めてトドメを刺そうとした。咄嗟に防御魔法で防いだものの、反動までは殺せず、オスカーは後ろに倒れた。
距離を取られるとこちらが不利になる。それをレイフも重々分かってはいる。だが足にかけられた魔法陣が邪魔して、結局は追い詰められなかった。
レイフが魔法陣を剣で切り無力化している内に、アーネストは近づく。あまり離れると危険だ。
「剣を使いこなしておるではないか」
「鍛えましたから」
さらりと言った言葉が理解出来なかった。
「きたえ…?」
「鍛えました」
「きた…?…え…?」
「鍛えました」
こうです、とレイフは素振りする。
「重かったですが、重くなるだけでしたので、鍛えれば何とか扱えるまでは持っていけると思いまして、密かに鍛錬しておりました」
「鍛えた、のか?それだけ?」
「それだけです」
とんでもない力技だ。力こそ全て。パワー。
日々を勉学や術式の研究に勤しんできたアーネストにとって、学びから解決を得る手法を取ってきた。そんな何も考えずとりあえず力で解決されると、知性とか理性とか馬鹿らしくなってくる。
脳筋だ。筋肉馬鹿だ。馬鹿と罵ってきたが、本当に馬鹿だ。
いや、それで今まで命を繋いできた。馬鹿にしては駄目だ。
「夜、アーネスト様の部屋の見張りの内に寝て、昼間に森に行って鍛錬しました」
「見張りの内に寝て…?立って寝てたのか?」
「戦争で身につけました。案外眠れますよ」
それじゃあ見張りの意味がないではないかと思ったが、心臓の音まで聞こえる持ち主だ。侵入者がいたら直ぐに目を覚まして応戦するくらいは出来るのだろう。
「すごいな」
それだけしか言えない。
316
あなたにおすすめの小説
【完結】トリップしてきた元賢者は推し活に忙しい〜魔法提供は我が最推しへの貢物也〜
櫛田こころ
BL
身体が弱い理由で残りの余生を『終活』にしようとしていた、最高位の魔法賢者 ユーディアス=ミンファ。
ある日、魔法召喚で精霊を召喚しようとしたが……出てきたのは扉。どこかの倉庫に通じるそこにはたくさんのぬいぐるみが押し込められていた。
一個一個の手作りに、『魂宿(たまやど)』がきちんと施されているのにも驚いたが……またぬいぐるみを入れてきた男性と遭遇。
ぬいぐるみに精霊との結びつきを繋いだことで、ぬいぐるみたちのいくつかがイケメンや美少女に大変身。実は極度のオタクだった制作者の『江野篤嗣』の長年の夢だった、実写版ジオラマの夢が叶い、衣食住を約束する代わりに……と契約を結んだ。
四十手前のパートナーと言うことで同棲が始まったが、どこまでも互いは『オタク』なんだと認識が多い。
打ち込む姿は眩しいと思っていたが、いつしか推し活以上に気にかける相手となるかどうか。むしろ、推しが人間ではなくとも相応の生命体となってCP率上がってく!?
世界の垣根を越え、いざゆるりと推し活へ!!
刺されて始まる恋もある
神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
無理です!僕は絶対にこんな屑駄目王子の嫁になりませんからね?
竜鳴躍
BL
見た目と才能を隠していた第二王子と第一王子の婚約者候補のラブコメ?王家ざまあ。番確定なのに未成熟で分かってない主人公(受)とすれ違いの攻。あげく第一王子は変装した弟に恋をするし、たいへんです。
※前半あらすじ?
「なんでウチは公爵なのぉ!?」ハイリ5歳は絶望した。ちょっと顔が綺麗なだけで傲慢な第一王子。外面が良いだけの悪魔の婚約者候補に選ばれてしまう。ハイリは男の子だけどΩでお嫁に行く。だから女の子に混じって、実家の爵位と年齢から選ばれてしまった。死にそうになったところを助けてしまったり、あまりのアホさにやらかす男を助けてしまい、なんとか自分だとバレないように裏工作するハイリ。見た目と才能をひた隠しにして、どうにかこうにか誰かに第一王子を押し付けようとするのだった。
☆短編になりました。
美丈夫から地味な俺に生まれ変わったけど、前世の恋人王子とまた恋に落ちる話
こぶじ
BL
前世の記憶を持っている孤児のトマスは、特待生として入学した魔法術の学院で、前世の恋人の生まれ変わりであるジェラード王子殿下と出会う。お互い惹かれ合い相思相愛となるが、トマスの前世にそっくりな少女ガブリエルと知り合ったジェラードは、トマスを邪険にしてガブリエルと始終過ごすようになり…
【現世】凛々しく頑強なドス黒ヤンデレ第一王子ジェラード✕健気で前向きな戦争孤児トマス
(ジェラードは前世と容姿と外面は同じだが、執着拗らせヤンデレ攻め)
【前世】凛々しく頑強なお人好し王弟ミラード✕人心掌握に長けた美貌の神官エゼキエル
(ミラードはひたすら一途で献身的溺愛攻め)
※前世の話が、話の前半で合間合間に挟まります
※前世は死に別れます
※前世も現世も、受け攻め共に徹頭徹尾一途です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる