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再会①

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 男爵がいつもの時間に訪れると、アニーは既にいなかった。ヒルダから手紙を受け取る。世話になったというありきたりな文言。直ぐに読み終えて詰め寄る。

「彼女はどこへ」
「聞かれたら東へ行ったって答えろって言われてたんだよ。本当かどうか分からないけどね。ただ、」
「ただ?」
「地図を買ってた。ハインツ地方の」

 ハインツ。聞いたことがある。東に位置して手つかずの自然が広がっているとか。外国から来た男爵にはそれくらいの知識しか無かった。

「他には何か言っていたか」
「あのの口は軽くないよ。身請けの話、断られたんだろ?こないだも言ったけど借金とかじゃないんだ。理由わけありなんだから、そっとしといてやりな」

 ただの女と違うのは、最初に会ったときから分かっていた。上流階級が使う発音、洗練された所作。あれで理由わけありでない訳がない。自分しか相手をしていないのなら、別の手段でここに滞在していたことになる。
 
 彼女には目的があった。それを達成するためにこの場を離れたのなら、妨げになるような行為をすべきでない。そう結論づけた。



 ──屋敷に戻る。従者が迎えて、客が来ておりますと言った。
 従者に黒のローブを預けながら、客間へ向かう。使用人に扉を開けさせて中に入ると、そこには一人の老紳士が立っていた。

「座って待っていればいい。いい歳なんだから」
「年寄りと見くびってもらっては困りますな」
「今日はたまたま早く帰ったんだ。本当ならもっと遅かった」

 アニーがいない以上、他の朗読者を頼む気にもなれず、そのまま帰宅していた。ヒルダから返却された本は、今頃、従者の手によって自室に運ばれているだろう。

「それは虫の知らせというやつですかな」
「見つかったのか」
「ただの噂ですが、行ってみる価値はあるかと」

 老紳士は一枚の紙を広げた。それは地図だった。ある地点を指差す。

「ここには女神が棲んでいて、何の病も癒やすと言われております。ただ、聖域と呼ばれる土地ゆえ、開発がされておらず、人が立ち入るのは困難らしいのです」
「どこだそれは」
「ハインツ地方にありますカリスという樹海です」

 不思議な縁があるものだと思った。ハインツ地方といえば、あの娘が持っていたという地図と同じだ。
 地図に目を通す。確かに、ハインツと記載がある。

「女神か…」

 独り言のつもりが、老紳士が拾い上げる。

「あらゆる魔術師の祈祷でも、殿下の眼病を癒やすことは出来ませんでした。呪いをかけたのが女神ならば、呪いを解くのもまた、女神かと」


 邪魔な前髪を払い除ける。除けた黒髪から、金の瞳が現れる。それだけならばただの、珍しい瞳で終わる。だが男爵の片目には、一つの眼球に二つの瞳孔が重なっていた。


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