3 / 50
1
中年男性と女子生徒の怪しい関係2
しおりを挟む
あまりに唐突な事だったから思わず、悲鳴のような物をあげてしまった。
まるで、か弱い女の子みたいな。不覚だ。
「きゃっ」
ここで、私にこんな幼稚じみた事をする人物なんて一人しか思い浮かばない。
「汐音。もうこんな子供みたいな事はもうやめてちょうだい。私たちはもう十九才なのよ」
そう言いながら視界を塞ぐ手を払い除け、侮蔑の意味を込め目を細め振り返ると、件の犯人である奏汐音は小学生男子が黒板消しを教室入口にしかけ、それを知らずにスーツ姿で扉を開いてしまった、やる気に満ちた新任教師のやるせないやり場のない怒りを目の当たりにしたようなニヤケ面を浮かべていた。
「そんな怒る事ないじゃん。横座っていい?」
私が答える前に汐音はカウンター席の椅子を引き、腰をおろした。
「好きにすればいいじゃない」
「もう、愛ちゃんは素直じゃないんだから。昔からそうだよね」
私の腕によりかかるようにしながら汐音は言った。
全く。本当に仕方のない子ね。
奏汐音は昔からこうだった。
物心付く前から既に私達は友人関係だった。
汐音が私のことをどう思っているかはわからないけれど、親友だと言っても良い存在だと私個人は思っている。
いや、きっと汐音もそう思ってくれているはず。
私が起こしたあんな事件も笑って許してくれたのだから。
……なんて今はこんな事を考えている場合じゃなかったわね。
肩に寄りかかってくる汐音を定位置に押し戻すと、汐音はマジマジと私を見つめてきた。
とても綺麗な瞳だ。茶色味がかった虹彩の外側が、皆既日食の縁取りのように緑色掛かっている。
同性の私からみてもかなり可愛い顔立ちをしていて、思わず吸い込まれそうだなと思った。
今まで何度もこうして見つめ合った事があるけれど、何度も同じ感想を抱く。
ここ最近は少し大人めいてきた雰囲気もあるけれど、少し不思議な魅力のある少女。それが私が抱く汐音への総評だ。
劣等感を感じるような事は正直に言えばある。でも、それで、奏汐音を嫌いになるような事はない。
「で、先生どうなの?進捗状況は」
言いながら汐音は、鼻腔をくすぐる甘い香りを漂わせながらサラサラの髪を近づけてきた。そして、私の眼の前に置かれたノートパソコンを覗き込む。
「って、あれ、なんにも書いてないじゃん」
「しょうがないじゃない。他に気になる事があったのだから」
「気になる事?」
私は汐音に小声で決して振り返らないように伝えてから、ノートパソコンに文字をカタカタと打ち込む。
本人達に聞かれる訳にもいかない。
『私の後ろのテーブル席に座っている男性と、女の子の二人組、もしかしたらパパ活なのかもしれなくて、どうしたものか頭を悩ませていたらなんにも進まなかった』
私の打ち込んだ文章を見た瞬間、警告を無視して汐音は一切戸惑う事なく、振り返る。
「ちょっと汐音」
すぐにこちらを向くように目で訴えるが、汐音は私の所作なんて気にすることなく、席を立ち上がると、ツカツカと件のテーブル席へとまっすぐに歩いていく。
えっ!?嘘でしょ。昔から無鉄砲な所がある子だったけど、まさかここまでだったなんて。
静止する暇もなかった。
そして、汐音は中年男性と無愛想に会話をしているリナの肩に手を置いた。
「やあリナちゃん。こんな所で会うなんて奇遇だね」
私に向けられた物と全く同じ笑顔だ。
汐音から全く悪気は感じられない。
「あっ、奏先輩。こんにちは」
先程までの無表情が嘘のように瓦解する。
リナは汐音に満面の笑顔で対応していた。
と言うかちょっと待って、汐音とリナは知り合いなの!?
リナがこちらに振り返ったおかげで、胸につけられているリボンの色がわかった。
腰越高校では、すぐに学年が判別できるように、学年別でリボンの色が分けられている。
リナのつけているリボンは緑色。
つまり、リナは一年生だということになる。去年まで私と汐音もつけていたリボンと同じ色だ。
私達とリナの在学期間は被っていない。
それなのに、汐音とリナは顔見知りで、なおかつ、リナは汐音の事を先輩と呼んだ。
つまり、先輩後輩関係だと、リナは理解しているという事。
汐音は何を思ったか、私の方に振り返ると、おいでおいでと手招きをした。
当然リナの視線が私に注がれる。中年男性もにこやかな笑顔でこちらを見ていた。
もう、行かないわけには行かない雰囲気だった。
私は気を引き締める為に一度深く息を吸い込んでから立ちあがる。
まるで、丸腰で敵陣に乗り込む兵隊の気分だった。
まるで、か弱い女の子みたいな。不覚だ。
「きゃっ」
ここで、私にこんな幼稚じみた事をする人物なんて一人しか思い浮かばない。
「汐音。もうこんな子供みたいな事はもうやめてちょうだい。私たちはもう十九才なのよ」
そう言いながら視界を塞ぐ手を払い除け、侮蔑の意味を込め目を細め振り返ると、件の犯人である奏汐音は小学生男子が黒板消しを教室入口にしかけ、それを知らずにスーツ姿で扉を開いてしまった、やる気に満ちた新任教師のやるせないやり場のない怒りを目の当たりにしたようなニヤケ面を浮かべていた。
「そんな怒る事ないじゃん。横座っていい?」
私が答える前に汐音はカウンター席の椅子を引き、腰をおろした。
「好きにすればいいじゃない」
「もう、愛ちゃんは素直じゃないんだから。昔からそうだよね」
私の腕によりかかるようにしながら汐音は言った。
全く。本当に仕方のない子ね。
奏汐音は昔からこうだった。
物心付く前から既に私達は友人関係だった。
汐音が私のことをどう思っているかはわからないけれど、親友だと言っても良い存在だと私個人は思っている。
いや、きっと汐音もそう思ってくれているはず。
私が起こしたあんな事件も笑って許してくれたのだから。
……なんて今はこんな事を考えている場合じゃなかったわね。
肩に寄りかかってくる汐音を定位置に押し戻すと、汐音はマジマジと私を見つめてきた。
とても綺麗な瞳だ。茶色味がかった虹彩の外側が、皆既日食の縁取りのように緑色掛かっている。
同性の私からみてもかなり可愛い顔立ちをしていて、思わず吸い込まれそうだなと思った。
今まで何度もこうして見つめ合った事があるけれど、何度も同じ感想を抱く。
ここ最近は少し大人めいてきた雰囲気もあるけれど、少し不思議な魅力のある少女。それが私が抱く汐音への総評だ。
劣等感を感じるような事は正直に言えばある。でも、それで、奏汐音を嫌いになるような事はない。
「で、先生どうなの?進捗状況は」
言いながら汐音は、鼻腔をくすぐる甘い香りを漂わせながらサラサラの髪を近づけてきた。そして、私の眼の前に置かれたノートパソコンを覗き込む。
「って、あれ、なんにも書いてないじゃん」
「しょうがないじゃない。他に気になる事があったのだから」
「気になる事?」
私は汐音に小声で決して振り返らないように伝えてから、ノートパソコンに文字をカタカタと打ち込む。
本人達に聞かれる訳にもいかない。
『私の後ろのテーブル席に座っている男性と、女の子の二人組、もしかしたらパパ活なのかもしれなくて、どうしたものか頭を悩ませていたらなんにも進まなかった』
私の打ち込んだ文章を見た瞬間、警告を無視して汐音は一切戸惑う事なく、振り返る。
「ちょっと汐音」
すぐにこちらを向くように目で訴えるが、汐音は私の所作なんて気にすることなく、席を立ち上がると、ツカツカと件のテーブル席へとまっすぐに歩いていく。
えっ!?嘘でしょ。昔から無鉄砲な所がある子だったけど、まさかここまでだったなんて。
静止する暇もなかった。
そして、汐音は中年男性と無愛想に会話をしているリナの肩に手を置いた。
「やあリナちゃん。こんな所で会うなんて奇遇だね」
私に向けられた物と全く同じ笑顔だ。
汐音から全く悪気は感じられない。
「あっ、奏先輩。こんにちは」
先程までの無表情が嘘のように瓦解する。
リナは汐音に満面の笑顔で対応していた。
と言うかちょっと待って、汐音とリナは知り合いなの!?
リナがこちらに振り返ったおかげで、胸につけられているリボンの色がわかった。
腰越高校では、すぐに学年が判別できるように、学年別でリボンの色が分けられている。
リナのつけているリボンは緑色。
つまり、リナは一年生だということになる。去年まで私と汐音もつけていたリボンと同じ色だ。
私達とリナの在学期間は被っていない。
それなのに、汐音とリナは顔見知りで、なおかつ、リナは汐音の事を先輩と呼んだ。
つまり、先輩後輩関係だと、リナは理解しているという事。
汐音は何を思ったか、私の方に振り返ると、おいでおいでと手招きをした。
当然リナの視線が私に注がれる。中年男性もにこやかな笑顔でこちらを見ていた。
もう、行かないわけには行かない雰囲気だった。
私は気を引き締める為に一度深く息を吸い込んでから立ちあがる。
まるで、丸腰で敵陣に乗り込む兵隊の気分だった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる