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身勝手な予告状8
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汐音を伴って、放課後の腰越高校へと向かう。
在校当時は毎日登っていた急坂を登るのも、半年ぶりの事になる。
あの頃は余裕だったのに、少し疲れた。
対照的にぴょんぴょんと飛び跳ねるような汐音を見て、普段の自分の運動不足を呪った。
腰越高校に到着して私達が向かうのは昇降口……ではなく、そのすぐ横にある入口、守衛室に向かう。
在校生でもない、職員でもない者は必ずここを通らなければならないのだ。
昇降口と比べて狭い入口を入ると、右手にカウンターのような物があり、その前にやる気のなさそうな若い男が座っていた。
勤務態度はあまり良くないようで、隠すことなくスマホをポチポチいじっている。
私達が男の前に立っても、若い守衛はこちらに目を向けることもしない。
「あの、すいません。卒業生なんですけど、久しぶり先生に会いたくなって来たんですけど」
若い守衛はこちらを一瞥することなく、一枚の紙が挟まれているガバンをこちらに放り投げるように差し出してきた。
ちょっとあなた態度が悪いんじゃない!と、注意しようとカウンターに身を乗り出した時、汐音に肩を掴んで止められた。
「愛ちゃん」
たしかにここで問題を起こしたら本末転倒。もしかしたら帰らさせられてしまうかもしれない。
気持ちをぐっとこらえて、飲み込み、大人の対応を取ることにした。
その時、ほんの一瞬だけ、若い守衛がいじっているスマホの画面が見えた。
画面には乱高下を繰り返す折れ線グラフのような物が表示されている。どうやらその折れ線グラフはリアルタイムで反映されているようで、私が見た瞬間に大きく下に向かって沈み込んで行った。
それを見た若い守衛は小さく舌打ちをすると、ガリガリと頭を掻いた!
そして乱暴にスマホをカウンターに放り投げると、私と汐音に向かって言ったのだ。
「で、どうすんの?入るの、入らないの?」
横柄な態度にかなり腹が立ったけど、里奈の事を思いぐっと堪えた。
「入ります」
そそくさと画板に挟まれた入校表にサインをすると汐音を伴ってさっさと校内に入ることにした。
「なんなの?あの態度。とても腹が立つわね」
守衛が胸に付けた名札に書かれていた四文字『たかみち』を深く胸に刻みこむ。
なだめるためか、バカにするためかはわからないけど、汐音が私の頭を後ろからなでた。
「ちょっとやめてちょうだい」
「偉いよ。愛ちゃん。昔なら絶対に怒ってたよね」
なんでかわからないけど、汐音に撫でられただけで怒りの気持ちはしゅんと萎んで行き、急に恥ずかしさが上回ってきた。
汐音の行動にはなんの態度を示す事もなく、私は数歩前を歩いた。
向かっているのは職員室だ。
職員室に入る前、作戦会議のおさらいを軽くした。
「良い?汐音は岡部先生に挨拶をしながら、周囲の机の上を探って。経済新聞が置かれていないかどうか。私は山本先生に挨拶しながら周りの机を探る」
現段階でわかっている犯人のヒントは脅迫状に使われていた経済新聞。
脅迫状を作るためだけにわざわざ経済新聞を仕入れるとも思えないし、普段から経済新聞に触れている人物から探っていこうと思ったのだ。
高校生が経済新聞を読んでいるとも思えないし、わざわざ犯行のためだけに経済新聞をあえて入手するとも思えなかったためだ。
ちなみに岡部先生と言うのは、汐音が三年感お世話になった元担任の先生で、山本先生と言うのが私が三年間お世話になった先生だ。
「もちろん。わかってるよ」
やたら楽しそうにしている汐音が、リノリウム張りの廊下をトントンと体を上下させながら歩いて行く。
その背後から私も続く。
夕暮れの放課後。
文化祭を控えた腰高は少し浮ついた雰囲気だった。
私達も過去に経験したからわかる。
この時期は皆がソワソワ、ワクワクしているのだ。
校内の現状を見て、このようなイベントを潰そうとしている人物が余計に許せなくなった。
職員室前までたどり着き、お互いに顔を見合わせた私達二人は、頷きあってからノック、そして扉をゆっくりと開いた。
在校当時は毎日登っていた急坂を登るのも、半年ぶりの事になる。
あの頃は余裕だったのに、少し疲れた。
対照的にぴょんぴょんと飛び跳ねるような汐音を見て、普段の自分の運動不足を呪った。
腰越高校に到着して私達が向かうのは昇降口……ではなく、そのすぐ横にある入口、守衛室に向かう。
在校生でもない、職員でもない者は必ずここを通らなければならないのだ。
昇降口と比べて狭い入口を入ると、右手にカウンターのような物があり、その前にやる気のなさそうな若い男が座っていた。
勤務態度はあまり良くないようで、隠すことなくスマホをポチポチいじっている。
私達が男の前に立っても、若い守衛はこちらに目を向けることもしない。
「あの、すいません。卒業生なんですけど、久しぶり先生に会いたくなって来たんですけど」
若い守衛はこちらを一瞥することなく、一枚の紙が挟まれているガバンをこちらに放り投げるように差し出してきた。
ちょっとあなた態度が悪いんじゃない!と、注意しようとカウンターに身を乗り出した時、汐音に肩を掴んで止められた。
「愛ちゃん」
たしかにここで問題を起こしたら本末転倒。もしかしたら帰らさせられてしまうかもしれない。
気持ちをぐっとこらえて、飲み込み、大人の対応を取ることにした。
その時、ほんの一瞬だけ、若い守衛がいじっているスマホの画面が見えた。
画面には乱高下を繰り返す折れ線グラフのような物が表示されている。どうやらその折れ線グラフはリアルタイムで反映されているようで、私が見た瞬間に大きく下に向かって沈み込んで行った。
それを見た若い守衛は小さく舌打ちをすると、ガリガリと頭を掻いた!
そして乱暴にスマホをカウンターに放り投げると、私と汐音に向かって言ったのだ。
「で、どうすんの?入るの、入らないの?」
横柄な態度にかなり腹が立ったけど、里奈の事を思いぐっと堪えた。
「入ります」
そそくさと画板に挟まれた入校表にサインをすると汐音を伴ってさっさと校内に入ることにした。
「なんなの?あの態度。とても腹が立つわね」
守衛が胸に付けた名札に書かれていた四文字『たかみち』を深く胸に刻みこむ。
なだめるためか、バカにするためかはわからないけど、汐音が私の頭を後ろからなでた。
「ちょっとやめてちょうだい」
「偉いよ。愛ちゃん。昔なら絶対に怒ってたよね」
なんでかわからないけど、汐音に撫でられただけで怒りの気持ちはしゅんと萎んで行き、急に恥ずかしさが上回ってきた。
汐音の行動にはなんの態度を示す事もなく、私は数歩前を歩いた。
向かっているのは職員室だ。
職員室に入る前、作戦会議のおさらいを軽くした。
「良い?汐音は岡部先生に挨拶をしながら、周囲の机の上を探って。経済新聞が置かれていないかどうか。私は山本先生に挨拶しながら周りの机を探る」
現段階でわかっている犯人のヒントは脅迫状に使われていた経済新聞。
脅迫状を作るためだけにわざわざ経済新聞を仕入れるとも思えないし、普段から経済新聞に触れている人物から探っていこうと思ったのだ。
高校生が経済新聞を読んでいるとも思えないし、わざわざ犯行のためだけに経済新聞をあえて入手するとも思えなかったためだ。
ちなみに岡部先生と言うのは、汐音が三年感お世話になった元担任の先生で、山本先生と言うのが私が三年間お世話になった先生だ。
「もちろん。わかってるよ」
やたら楽しそうにしている汐音が、リノリウム張りの廊下をトントンと体を上下させながら歩いて行く。
その背後から私も続く。
夕暮れの放課後。
文化祭を控えた腰高は少し浮ついた雰囲気だった。
私達も過去に経験したからわかる。
この時期は皆がソワソワ、ワクワクしているのだ。
校内の現状を見て、このようなイベントを潰そうとしている人物が余計に許せなくなった。
職員室前までたどり着き、お互いに顔を見合わせた私達二人は、頷きあってからノック、そして扉をゆっくりと開いた。
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