万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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夜の海岸に現れる龍の謎11

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「それにしてもよくあんな謎をひょいひょいと解けたもんだな!奏ちゃんの人選は間違ってなかったって事だ!」


 手放しで私の事を褒める立花君に少し、いや、かなりの苛立ちを覚えていた。

 なんせ今回立花君には、別行動を申し出ていた。それなのにあの場にやってきてしまった。
 結果的には彼の持っていたメモ帳に助けられたんだけど……

 デートの申し出をされて、それを断れずにノコノコと着いてきてしまった私にも腹が立つ。

 二重の意味で私は腹を立てているのだ。

 立花君とやってきたのは、いつもの海を見晴らせるカフェの一番奥の席。

 あいにく今日は那奈の姿はなくて、ダンディなマスターが給仕をしてくれた。

「で、なんで来たわけ?別行動にするって話しだったわよね」

 苛立ちを隠すことなく不満をぶちまけてみたけど、それでも立花君はニコニコと笑っていた。

「うん。そういう怒った顔も可愛いよ」

「なっ!?」

 思わず私は言葉を失ってしまう。

 歯の浮くような恥ずかしいセリフを面と向かって言うなんて、やっぱり立花君はどうかしているわ。

 私を見つめてただニコニコとする立花君に無性に苛立ちを覚えて、右手の人差し指と薬指を突き立てて目を潰してやった。


「イテテテテテ!目潰しする事ないじゃんかよ」

「五頭竜を前にして釣りを優先した罰よ」

「……それに関してはぐうの音も出ねえけどよ、他にもやりようあんじゃん」

「黙りなさい」

「……はい」

 私の叱責を受けて、大人しくなった立花君を見ていたら、こんな事をしている自分がとてもくだらなく感じられた。

 ネームの期限も迫っているし、もう一つの謎を解く必要もある。時間が無いのに私はいったい何をしているのだろう。

 自らに向く怒りを押し込めて、私は口を開いた。

「……で、立花君。あなたは、由比ヶ浜で五頭竜を目撃したと言っていたわね。その時の詳しい状況を順を追って、もう一度教えて貰えるかしら」


「お、おう。あの時は釣りをしながら五頭竜が現れるのを待ってたんだ。なんとなく暇で翔から渡されたメモ帳を見てたんだ」


「うん。それで」

「そうしたらよ。急にプロペラ音みたいなのが聞こえて来てよ。慌てて音のする方を見たんだ」

「そこに五頭竜がと」

「そうなんだ。真っ白だった」

「色が確認できるほどまだ明るかったって事?」

 あの辺りには街灯はない。夜になったら真っ暗になってしまうはずだわ。

「いや、そういうわけじゃなくて、夜だったんだけどよ、俺、頭にライトを付けてたんだ。洞窟とか探検する時に付けてるようなあのライトだ」


「なるほど」

 探検家が装着しているあのライトね。なんとなく想像はできたわ。でも、となると━━━━


「音がしてからライトを付けて間に合ったっていうこと?」

「いや、最初から付けてたんだ。メモ帳を読むために」

「なるほどね」

 一つ頷いてから、もう一つ質問を続ける。

「色が白だってわかったのなら、大きさはどれくらいだったのかしら?」

 立花君は頭をポリポリとかいた後、申し訳無さそうに答える。

「それが、はっきりとわかんねえんだ。大きいような小さいような。俺鳥目だからさ。暗い所だと遠近感がよくわからなくなっちゃうんだよ」

 初耳だわ。立花君は夜盲症だったのね。それなら大きさがわからなくてもせめられないわね。

「そう。それなら仕方がないわね。じゃあ、次に聞かせてもらいたいのは、汐音から、何か頼まれたりしたことはなかったかしら?」

「うん。奏ちゃんから……?ああ一つ頼まれたぜ。これを配ってくれって」

 ポケットからしわくちゃになってしまった広告のような物を取り出すと、それを私に手渡してきた。

 広告の冒頭に記されているのは『弁天様と五頭竜』という文字列。

 読み勧めていくと、腰高祭で披露される一年生クラスの演劇であることがわかった。

「なんでこれをあなたが配っていたのよ?」

 配らせる汐音も汐音だ。

「なんか『セットの制作を手伝ったから、宣伝もしてあげたい』みたいな事言ってたぜ」

 ああ。たしか杉浦君が、里奈ちゃんのクラスの手伝いをしているとは聞いていたけれど、これの事だったのね。


「そうだとしたら、大体の事はわかった。まったく呆れるわね。あの子には……」

「わかったって何がだよ?」

「事の顛末。五頭竜が目撃された謎の話の全貌よ」

「はっ!?たったこれだけでわかったのかよ?」

「おそらく、聞き込みをしても、目撃情報は一切なかったんじゃないかしら?」

「そ、そうだけどよ。なんでわかったんだよ!?」

「なんとなくね。あと、二つ。立花君には確認して貰いたい事がある。今すぐに『すぎうら』に戻って、汐音に今から言う事を確認してきて欲しいの。きっとあの子は、私には正直に話さないと思うから」

「ああ。もちろんいいぜ。俺は何を聞いてくればいいんだ!?」


「それは━━━━」
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