万年ネタ切れ作家、勇利愛華の邪推録

さいだー

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夜の海岸に現れる龍の謎14

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「ようやく認めるのね」

「認めるよ。別に私悪い事してないし」

 汐音はチラッと舌を出して、全く悪意はないと示してみせた。

 実際のところ、汐音に悪いところはないのだから、責める必要もないのだけれど。

「あなたが依頼を出したのだから、全てここで解き明かして構わないのよね?」


「うん」

「おいおい。二人だけわかってるって感じで、俺は全く何がなんだかわからないんだけど!?」

 立花君が横から割り込んでくるも、「良いから黙って聞いとけ」と杉浦君が制してくれた。


「では、まず今回の由比ヶ浜、五頭竜目撃事件ですが、奏汐音さん。あなたの自作自演で間違いありませんね?」

「えっ!?そうなのか奏ちゃん!?」

「だから、良いから黙って聞いとけって!」

 身を乗り出してまた割り込もうとする立花君を再度、杉浦君が制する。
 一つ私からも注意しておいたほうがいいかもしれない。

「ちょっと黙っていてくれるかしら?」

「お、おう」

 消沈気味に頷くと、身を引いて、ソファーに体を埋めた。

 それを見届けてから再度汐音に質問を投げかける。

「そうよね。汐音」

「うん。そうだよ」

「汐音が認めたのなら、これで全て解決って事にはなるのだけれど、立花君がそれじゃあ納得してくれないと思うから順序立てて邪推を披露しても良いかしら?」

「うん。どうぞ」

「この話は、里奈ちゃんと私が知り合う前から始まっていた。恐らく、五頭竜の捜索をさせようと思いついたのは、汐音、あなたが里奈ちゃんから演劇で使う五頭竜を模型の制作を依頼されたすぐ後の事じゃないかしら?」

「そうだよ」

 大きな瞳を瞬かせながら、一つ頷く。

「動機は簡単ね。海外に赴任してしまう里奈ちゃんのお父さんに、盛り上がった演劇を観てもらうため。汐音の性格を考えたら自らが関わった演劇が盛り上がりに欠けるなんて事は許せないはずだから」


「里奈ちゃんって誰だよ?」

 立花君がボソリと囁くように言った。恐らく黙ってろと言われたのを気にしているのね。

「里奈ちゃんってのは、立花君が戻って来る前に押し付けられた依頼の依頼主」

「そ、そうなのか」

 立花君には相槌だけで返して話を戻す。

「……じゃあ、続けるわよ。そこで汐音は考えた。演劇を盛り上げるにはどうしたら良いのかを。━━━━そこで目をつけたのが里奈ちゃんのクラスが行う演劇の内容だった。『弁天様と五頭竜』この辺りでは昔から語り継がれている昔話よね」

 五頭竜はかつてこの辺りの地に災いをもたらしたと言う。人々を困らせていた五頭竜は、江の島の隆起と共に現れた弁天様に一目惚れをし、求婚をした。

 しかし、悪行を繰り返していた五頭竜は求婚を断られた。
 弁天様を諦められない五頭竜は改心する事を決め、弁天様の元を再度訪れる。

 それからは人間を守る良い龍になったというお話だ。

 現在では五頭竜大神として崇められている。

「汐音は、五頭竜が人々を困らせていたと言う一節を利用する事にしたのよね。
 でも、これはあくまでも立花君を動かす為の口実で、実のところは立花君が聞き込みをしながら広告を配るのが一番の目的だったのではないかしら?
 そうすればなかったはずの目撃情報が周知されて、広告の内容にも目がいきやすくなるわ」


「……正解。そこまでピタリと当てられるとなんか怖いよ」

「汐音と何年友達やっていると思っているのよ」

 言いながら汐音にデコピンをお見舞いしてやった。

「いたっ」

 実際、犯人が汐音で無かったのなら、ここまでの邪推はできなかったと思う。
 きっと、私はどこかで間違えていた。初めて里奈ちゃんに遭遇した時のように。

「でも、一つわからない事があるのよね」

「なに?」

「なんで、五頭竜の模型を飛ばしたの?立花君に目撃させる必要はなかったはずよ。そんな事をしなくたって、立花君は噂話を勝手に広めてくれるじゃない?」

「おいおい。それじゃあ俺がピエロみたいじゃないかよ!」

 ピエロみたいじゃなくて、まんまとピエロを演じさせられていた事にはまだ気づいていないらしい。

「あー、それはね。飛ばす練習をしておく必要があったの」

「練習……?なんのためによ?」


「里奈ちゃんのクラスでやる演劇の演出で、五頭竜をドローンに吊るして飛ばす予定なの。観客席側からドーンとステージ側に。あっこれサプライズだから秘密にしておいてね」

「練習くらい学校でさせてもらえば良いじゃない」


「へへへ」

 汐音は何かを企んでいるような笑みを浮かべた。
 その瞬間に悟ってしまった。これはきっと良くないことの前触れだ。

「やっぱりさ、やめておいた方がいいんじゃないか?もし操縦ミスって客席に突っ込んだら偉いことになるぞ」

 杉浦君がごもっともな事を言うが、彼は基本汐音の言いなりだから止められやしないだろう。
 とう言うか、ちょっと待って!

「まさかだけど、許可を取っていない……なんて事は無いわよね?」

「へへへ」

「『へへへ』じゃないわよ。質問に答えなさい」


「許可取ろうとしたんだけどー、取れなかった。だから、隠れて練習して飛ばすことにしたの。きっと当日は盛り上がるよ!」

 私は思わず目を覆った。杉浦君も同じ反応をしていた。

「なるほど!だから隠れて暗闇に紛れて飛ばす練習してたんだな!さすが奏ちゃん。ナイスアイディーアだよ!」

「でしょ!」

 バカ二人が共鳴している。立花君はもうどうしようもないから置いておくとして、汐音は時折、本当にこの子大丈夫かな?と思う事がある。

 普段からアホな子なのだけれど、たまにこんな調子になってしまうのだ。

「ダメよ汐音!もう子供じゃないんだから、バカな事はやめなさい」

「里奈ちゃんのタメだよ?」

「ダメよ!」

「お父さん……」


「ダメ!」

 食い気味に説教をすると、珍しく汐音が怯んだ。

「わ、わかったよ」

「えー良いじゃんか。面白そうなんだしさ」

 唯一、汐音擁護に回る立花君には、メデューサもびっくりの眼差しをプレゼントすると、俯いて何も喋らなくなった。

「良い。私は明日から忙しくて来れないけど、バカな事は絶対にしちゃダメだからね」


「「はい」」

 バカ二人の返事を聞くと、杉浦君も安心したように二つ頷いていた。
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