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モンブランの悪魔13
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昔話にでてくるような、非現実的な出来事は実際に起こったりしない。それが私の知る限りの常識。
山姥なんて見たこともなければ、喋るカニやサルなんて当然いないし、月に帰るお姫様だって存在しない。
だけど……
今、眼の前には怯えた様子で五頭竜の目撃情報を語る二人の女子生徒の姿があった。
時刻は六時過ぎ。腰高祭にやってきたお客さんも出払って、閑散とした体育館。
明日の出し物の準備をしていた所、五頭竜?に遭遇したらしい。
あいにく他の生徒は出払っていたとの事。そんなうまい話があるかしら?と思いながらも話の先を促す。
「もう一度確認するけれど、あなた達二人は、この舞台上で五頭竜を目撃したのよね?」
「はい。間違いなく巨大な五頭竜でした。伝承で見たことがあったので間違いないです。一つの体から頭が五つ生えていました」
頭が五つあるから五頭竜と呼ばれている訳で、そこの特徴を踏まえて五頭竜と判断をしたのならば、そこを否定するのはおかしな話しよね。ともすれば確認しなければいけないのは━━━━
「巨大って、どのくらいの大きさだったのかしら?」
たしか……杉浦くんが制作をした模型は、だいたい二メートルもないくらいだったわね。
模型を紛失した場所、目撃された場所が同じ場所だし、今回目撃された五頭竜は同一のものだろうと私は考えた。
人によっては二メートルでも巨大と感じるはずだ。ニメートル近い身長の人が歩いていたらそう感じるように。
押し黙っていたもう一人の女子生徒が舞台の方を指差し、続けて言った。
「この、舞台より……大きかったと思います」
「この、舞台……より?」
私は舞台に視線を向ける。
だいたい横幅は20メートルくらい。
これより大きいとなると……体育館の入口が縦2メートルの横5メートルほど。当然そんな巨大な物が入る事はできない。
それなのにあたりを見渡してみても、窓や扉が破損した様子はない。
「その五頭竜をどこで、あなた達は目撃をしたの?」
女子生徒二人は揃って舞台の方を指差す。
「舞台上って事?」
二人揃って私の言葉に頷く。
それはおかしい。舞台より大きな五頭竜が舞台上に収まるはずが無い。さっきも考えた事だけれど、破壊せずに舞台より大きな物が入るはずはないのだ。
「あなた達、『五頭竜はこの舞台より大きい』そう証言したわよね?」
「はい。間違いありません。舞台からはみ出る程の大きさでした。サイズ感にあまりにも驚いたので見間違えるはずがありません」
「見間違いではないと?」
「はい」
二人の顔を交互に見比べても真っ直ぐな澄んだ瞳が見つめ返している。……嘘をついているような様子は一切ない。
彼女達の言葉を信じるのならば、収まるはずのない大きさの物が、周囲を壊すことなく舞台上に収まっていたと言うことになる。
「あなた達は━━━━」
きっと、なにかを勘違いしている。言おうとして途中でやめた。
もしかしたら彼女たちは不思議の国のアリス症候群でもおこしてしまっていたのかもしれない。
勘違いではなく、実際に体験した事ならばそれは本人達にとっては事実なのだ。
他に何か勘違いをしてしまう要因があったのかもしれないけれど。
「なんでしょう?」
かしこまった様子で片方の女子生徒がそう聞き返してきた。
咄嗟に質問を考えて関係のない事を聞いてみた。
「あなた達のクラスではどんな出し物をやるのかしら?」
「クラスの出し物じゃないんですよ。私達は二人でオリジナル曲を披露するんです」
「あー、そうだったわね。すっかり忘れていたわ。二日目は有志だものね」
一年たっただけで失念してしまうなんてうっかりしていたわ。腰高祭は例年、体育館では一日目はクラスの出し物をやり、二日目は有志が出し物をやる。今年も例に漏れずそうだったようね。
「はい。もしよかったら見に来て下さい。これ、どうぞ」
そう言って、二人が差し出して来たのはプログラム表だった。
「この上から三番目の『cynical』ってやつです」
「……cynicalね」
私が押し黙ってしまったさっきの状況がまさにcynicalね。
自分でも冷笑を浮かべてしまっているとわかるほど口角が上がってしまっている。
決して二人を嘲笑っている訳では無い。自らを戒める冷笑。
私の表情の変化に、二人は戸惑ったように顔を見合わせているのを見て我に返った。
「あ、ごめんなさいね。必ず見に来るわ」
「良かったです。楽しんで頂けるように全力で歌います」
二人とガッチリと握手を交わしている最中に、背中をちょんちょんとつつかれた。
「……なにかしら立花くん」
私の背後で置物とかしていた立花くんが、神妙な面持ちで口を開く。
「大変だ。また五頭竜が目撃されたらしい」
「はあ?」
「だから、また目撃されたんだよ!急ぐぞ」
そう言うと、強引に私の腕を引いた。抵抗したい所だけれど、がっちりした体格の立花くんに私が勝てるはずもない。
「明日、楽しみにしているわ」
立花くんに引きづられながら、cynicalの二人に別れを告げる。
そんな私の姿を見た二人は頬を引きつらせて、微妙な表情をしていた。
山姥なんて見たこともなければ、喋るカニやサルなんて当然いないし、月に帰るお姫様だって存在しない。
だけど……
今、眼の前には怯えた様子で五頭竜の目撃情報を語る二人の女子生徒の姿があった。
時刻は六時過ぎ。腰高祭にやってきたお客さんも出払って、閑散とした体育館。
明日の出し物の準備をしていた所、五頭竜?に遭遇したらしい。
あいにく他の生徒は出払っていたとの事。そんなうまい話があるかしら?と思いながらも話の先を促す。
「もう一度確認するけれど、あなた達二人は、この舞台上で五頭竜を目撃したのよね?」
「はい。間違いなく巨大な五頭竜でした。伝承で見たことがあったので間違いないです。一つの体から頭が五つ生えていました」
頭が五つあるから五頭竜と呼ばれている訳で、そこの特徴を踏まえて五頭竜と判断をしたのならば、そこを否定するのはおかしな話しよね。ともすれば確認しなければいけないのは━━━━
「巨大って、どのくらいの大きさだったのかしら?」
たしか……杉浦くんが制作をした模型は、だいたい二メートルもないくらいだったわね。
模型を紛失した場所、目撃された場所が同じ場所だし、今回目撃された五頭竜は同一のものだろうと私は考えた。
人によっては二メートルでも巨大と感じるはずだ。ニメートル近い身長の人が歩いていたらそう感じるように。
押し黙っていたもう一人の女子生徒が舞台の方を指差し、続けて言った。
「この、舞台より……大きかったと思います」
「この、舞台……より?」
私は舞台に視線を向ける。
だいたい横幅は20メートルくらい。
これより大きいとなると……体育館の入口が縦2メートルの横5メートルほど。当然そんな巨大な物が入る事はできない。
それなのにあたりを見渡してみても、窓や扉が破損した様子はない。
「その五頭竜をどこで、あなた達は目撃をしたの?」
女子生徒二人は揃って舞台の方を指差す。
「舞台上って事?」
二人揃って私の言葉に頷く。
それはおかしい。舞台より大きな五頭竜が舞台上に収まるはずが無い。さっきも考えた事だけれど、破壊せずに舞台より大きな物が入るはずはないのだ。
「あなた達、『五頭竜はこの舞台より大きい』そう証言したわよね?」
「はい。間違いありません。舞台からはみ出る程の大きさでした。サイズ感にあまりにも驚いたので見間違えるはずがありません」
「見間違いではないと?」
「はい」
二人の顔を交互に見比べても真っ直ぐな澄んだ瞳が見つめ返している。……嘘をついているような様子は一切ない。
彼女達の言葉を信じるのならば、収まるはずのない大きさの物が、周囲を壊すことなく舞台上に収まっていたと言うことになる。
「あなた達は━━━━」
きっと、なにかを勘違いしている。言おうとして途中でやめた。
もしかしたら彼女たちは不思議の国のアリス症候群でもおこしてしまっていたのかもしれない。
勘違いではなく、実際に体験した事ならばそれは本人達にとっては事実なのだ。
他に何か勘違いをしてしまう要因があったのかもしれないけれど。
「なんでしょう?」
かしこまった様子で片方の女子生徒がそう聞き返してきた。
咄嗟に質問を考えて関係のない事を聞いてみた。
「あなた達のクラスではどんな出し物をやるのかしら?」
「クラスの出し物じゃないんですよ。私達は二人でオリジナル曲を披露するんです」
「あー、そうだったわね。すっかり忘れていたわ。二日目は有志だものね」
一年たっただけで失念してしまうなんてうっかりしていたわ。腰高祭は例年、体育館では一日目はクラスの出し物をやり、二日目は有志が出し物をやる。今年も例に漏れずそうだったようね。
「はい。もしよかったら見に来て下さい。これ、どうぞ」
そう言って、二人が差し出して来たのはプログラム表だった。
「この上から三番目の『cynical』ってやつです」
「……cynicalね」
私が押し黙ってしまったさっきの状況がまさにcynicalね。
自分でも冷笑を浮かべてしまっているとわかるほど口角が上がってしまっている。
決して二人を嘲笑っている訳では無い。自らを戒める冷笑。
私の表情の変化に、二人は戸惑ったように顔を見合わせているのを見て我に返った。
「あ、ごめんなさいね。必ず見に来るわ」
「良かったです。楽しんで頂けるように全力で歌います」
二人とガッチリと握手を交わしている最中に、背中をちょんちょんとつつかれた。
「……なにかしら立花くん」
私の背後で置物とかしていた立花くんが、神妙な面持ちで口を開く。
「大変だ。また五頭竜が目撃されたらしい」
「はあ?」
「だから、また目撃されたんだよ!急ぐぞ」
そう言うと、強引に私の腕を引いた。抵抗したい所だけれど、がっちりした体格の立花くんに私が勝てるはずもない。
「明日、楽しみにしているわ」
立花くんに引きづられながら、cynicalの二人に別れを告げる。
そんな私の姿を見た二人は頬を引きつらせて、微妙な表情をしていた。
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