1 / 1
タンスの魔術師
彼の夜
しおりを挟む街並みから灯りが消え、静寂だけがゆっくりと横切っていく。
雲は散見されるが、大きく丸い月がはっきりとした姿で夜空に鎮座している。
何かを恐れるかの様に虫や鳥の気配すらもなく、何かを楽しむかのように月明かりは街を仄かに照らす。
「本当にこの子は君に似ているね」
住宅街の一角にある共同マンションの一室から、穏やかな夫婦の声が聞こえる。
「そうかしら?あなたに良く似た凛々しい子よ?」
「はは、こんなに可愛いのに僕似はよして欲しいものだな」
「だから、こそあなたに似ていて欲しいのよ」
2人はベビーベッドで寝息をたてる赤ん坊を愛しそうに見つめ、そんな他愛のない会話をする。
そして、顔を見合わせて、ゆっくりと襖を閉じていく。
リビングからの明かりが閉ざされ、僅かばかりに漏れ出る光の筋。
その時、なぜかカーテンが揺れ、少し赤みを帯びた月光が赤ん坊を照らした。
赤ん坊は穏やかに目を覚まし、にぱっと笑ったかと思うと、何も無い宙に手を伸ばす。
『ああ良い子だね。さぁ、君には開けられる。そう、早く鍵を解いて』
なぜその子に、それを開ける力があったのかは定かでは無い。
偶然に、タイミングが合ってしまっただけだったのかもしれない。
ただ、一つだけ確かなこととなのは、その箱は開いてはいかないものだったということ。
「だーあ、うー」
『ああ良い子だね。良い子だね』
誰に知られることも無く、その箱は開かれる。
詰め込まれていた『厄災』が飛び出し、世界のルールを書き換えていく。
そして、全ての『厄災』が出たその箱には、ただ一つ『希望』だけが残った。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
醜悪令息レオンの婚約
オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。
ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、
しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。
このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。
怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
〈本編完結〉わたくしは悪役令嬢になれなかった
塚本 結理
ファンタジー
「返しなさい! その体はわたくしのものよ!」
ある日ルミエラが目覚めると、転生者だという女に体を奪われていた。ルミエラは憤慨し、ありとあらゆる手を尽くして己の体を取り戻そうとする。
これは転生者に人生を奪われたひとりの少女のお話。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる