パンドーラ -タンスの魔術師-

小鉢 龍(こばち りゅう)

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タンスの魔術師

彼の夜

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街並みから灯りが消え、静寂だけがゆっくりと横切っていく。

雲は散見されるが、大きく丸い月がはっきりとした姿で夜空に鎮座している。

何かを恐れるかの様に虫や鳥の気配すらもなく、何かを楽しむかのように月明かりは街を仄かに照らす。

「本当にこの子は君に似ているね」

住宅街の一角にある共同マンションの一室から、穏やかな夫婦の声が聞こえる。

「そうかしら?あなたに良く似た凛々しい子よ?」
「はは、こんなに可愛いのに僕似はよして欲しいものだな」
「だから、こそあなたに似ていて欲しいのよ」

2人はベビーベッドで寝息をたてる赤ん坊を愛しそうに見つめ、そんな他愛のない会話をする。

そして、顔を見合わせて、ゆっくりと襖を閉じていく。

リビングからの明かりが閉ざされ、僅かばかりに漏れ出る光の筋。

その時、なぜかカーテンが揺れ、少し赤みを帯びた月光が赤ん坊を照らした。

赤ん坊は穏やかに目を覚まし、にぱっと笑ったかと思うと、何も無い宙に手を伸ばす。

『ああ良い子だね。さぁ、君には開けられる。そう、早く鍵を解いて』

なぜその子に、それを開ける力があったのかは定かでは無い。

偶然に、タイミングが合ってしまっただけだったのかもしれない。

ただ、一つだけ確かなこととなのは、その箱は開いてはいかないものだったということ。

「だーあ、うー」
『ああ良い子だね。良い子だね』

誰に知られることも無く、その箱は開かれる。

詰め込まれていた『厄災』が飛び出し、世界のルールを書き換えていく。

そして、全ての『厄災』が出たその箱には、ただ一つ『希望』だけが残った。
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