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第一章 クレセントの街

牢屋

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「ねぇハルさん、あの地震に関係してるってホントなの?」

見張りがいなくなった隙にオレは隣の牢屋にいるハルさんに話しかける。正面は金属の柵だけだから声は筒抜けだ。

「そんなわけないでしょう。あの地震で私は父を亡くしてるのに。何かの間違いよ。」

不安を紛らわせるように会話をしていたら、向かいの牢屋から

「おい、うるせーよ!!静かにしろ!!」

と怒鳴られてしまった。

向かいに誰かいるなんてまったく気づいていなかったレンは「ごめんなさい」とつぶやきながらその人を見た。

あれ?オレよりも小柄で、え??子ども??左足と右腕は添え木があてられて包帯で固定されてるから、おそらく骨折してて頭とと左目にも包帯で固く巻かれていて重症だな、とかじろじろ見ていたら

「ずっとこっちを見てるんじゃねぇよ!!集中できねーだろうが!!」

また怒鳴られた。

ん?集中?と思い少しだけ視線を向けたら頭のあたりが薄く光っているのが見えた。たぶん回復魔法を使って治療してるんだろう。結局見てるのがバレて怒られた後に、話をしてくれた。

大地震の時に部下をかばって大けがをしたこと。10歳で士官学校を卒業し、少尉としてすぐにこの地に派遣された軍人だということ。クレセントの将官たちに嫉妬されたせいで、牢屋に入れられて十分な治療を受けさせてもらえないこと。

「次はお前の番だぜ。」

そう促されてオレがこの街に来た目的を話した。大地震でできた裂け目のせいで家に帰れなくなったこと。おじさんにこの街に住むワットさんを連れてきてほしいと頼まれたこと。ハルさんと一緒にわけもわからず拘束されたことなど。

その中でも始祖の森の住人ということに驚いていた。なんでも選ばれた人しか中に入れない特別な森で、住人にはめったに会えないとか言っていた。



話し終えたらハルさんが少尉に向かって

「あなた軍人なんでしょ?ここから逃げ出す方法を知らない?」

と聞いたら

「方法はある。でも今は治療が先だ。」

と返ってきたところで見張りが帰ってきてしまった。


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