魔王軍の補給路を断つ者 〜現代の物流コンサルが、無能な勇者パーティをクビになって辺境の輸送革命を起こすまで〜

ken

文字の大きさ
4 / 6
第1章:追放と再出発

第4話 ユウサク、辺境伯領へ。道中で「無駄だらけの隊列」に遭遇し、口を出してしまう。

しおりを挟む
「……ユウサクさん。改めて確認しますが、あなたは本当にこの契約書の内容を理解していますか?」



 メルキアの町の北門。朝の清冽な空気の中、エレナ・ソーンダイクは眉をひそめながら羊皮紙の束を突きつけた。

 知的なボブヘアに、凛とした法務官の制服。彼女はユウサクがギルド『鋼の蹄』に持ち込んだ「物流コンサルティング契約」のあまりに一方的、かつ革新的な条項に、いまだに疑念を抱いていた。



「理解している。ギルドの全運行データの閲覧権、および緊急時の指揮権の委譲。その代わり、俺は一ヶ月以内に彼らの純利益を30パーセント改善させる。不履行の場合は俺の全財産……『アバロンWMS』内の在庫をすべて没収して構わない」



 194センチの巨躯を折り曲げ、ユウサクは自身が調達した特製馬車の荷台をチェックしながら答えた。

 モデルさながらの彫りの深い横顔に、アイスブルーの瞳。その佇まいは、街道を行き交う旅人たちを圧倒し、数人の女性が足を止めて見惚れている。



「リスクが大きすぎます。それに、あなたは今日からアルシュタット辺境伯領へ向かうのでしょう? メルキアの現場を離れてどうやって改善させるというのです」



「『現場』はここだけじゃない。物流は繋がっているんだ。アルシュタットへの補給路が詰まっていることが、メルキアの流通が滞る最大の要因だ。そこを解消すれば、自動的に数字は跳ね上がる。……エレナ、君にはメルキアで『法的な交通整理』を頼みたい。古い特権階級が邪魔をしてきたら、この契約書で黙らせろ」



 ユウサクは、エレナの目の前に一枚のコインを置いた。



「これは……?」

「前払いだ。君という『知的な盾』を確保するためのコストだ。……行くぞ」



 ユウサクは御者台に飛び乗った。

 194センチの彼が座ると、馬車がまるで軍用車両のような威圧感を持ち始める。

 エレナは呆れたように溜息をついたが、その瞳にはユウサクが持ち込んだ「ロジックの暴力」に対する隠しきれない好奇心が宿っていた。



 メルキアを出発して半日。

 街道は北へ向かうにつれ、険しさを増していった。

 岩肌が露出し、道幅は狭い。魔物の影こそないが、ここは物理的な「輸送の難所」だった。



「……前方に熱源反応。および重量物の移動音。……隊列か」



 ユウサクは【全域在庫把握】を無意識に展開していた。

 数キロ先、蛇のようにうねる街道を低速で進む「巨大な無駄」が、彼の脳内のスキャナーに引っかかった。



「……ひどいな。見ているだけで胃が痛む」



 ユウサクの馬車がその隊列に追いつくのに、時間はかからなかった。

 それは、王都からアルシュタット辺境伯領へと向かう「公式な補給部隊」だった。

 先頭と最後尾を固めるのは、立派な銀色の甲冑を纏った王都騎士団の分隊。中央には、重い食糧や資材を積んだ大型の馬車が20台以上並んでいる。



 だが、ユウサクの目から見れば、それは「動く葬列」にしか見えなかった。



「……止まれ。これ以上の進軍は資源の浪費だ」



 ユウサクは自分の馬車を隊列の横につけ、低いがよく通る声で言い放った。

 194センチの男が、走行中の馬車の上から見下ろすように発した言葉に、騎士団の先頭を行く男が馬を止めた。



「何奴だ! 我らは王都騎士団、第三補給連隊である! 公務の邪魔をする者は容赦せんぞ!」



 分隊長らしき男が剣の柄に手をかけた。

 ユウサクは眉一つ動かさず、御者台から飛び降りた。着地の衝撃で地面の土がわずかに舞う。



「鈴木悠作。ただの運び屋だ。……分隊長、君に一つ忠告に来た。その12番目の馬車、今すぐ荷を降ろして車軸を交換しろ。あと15キロ以内に折れる」



「……あ? 何を馬鹿なことを。この馬車は王都の工房で整備されたばかりだぞ!」



「整備はされていても、積載が致命的だ。重量物が左後方に偏っている。さらに、この先の急勾配で左旋回が続けば、応力集中で金属疲労が限界を超える。……数字で聞きたいか? あと14200回、車輪が回転したところで、その車軸は破断する」



 ユウサクのアイスブルーの瞳が、騎士を射抜く。

 彼は淡々と「事実」だけを突きつけた。



「貴様……! 無礼な! どこの馬の骨とも知れぬ輩が、騎士団の行軍に口を挟むな! どけ! さもなくば……」



「……騎士団長。彼の言うことは、法的に傾聴に値します」



 いつの間にかユウサクの背後に立っていたエレナが、公印の押された書類を掲げた。



「私はメルキア公認法務官、エレナ・ソーンダイクです。この男、ユウサクは現在、メルキア運送ギルドの公式コンサルタントとして活動しています。彼が指摘した『輸送事故の可能性』を無視して事故が起きた場合、あなたは『予見可能なリスクを回避しなかった』として、軍法会議で過失を問われることになりますが?」



「……メルキアの法務官だと?」



 分隊長が怯んだ。

 エレナが放つ「知的な威圧感」は、騎士の暴力よりも時に強力だった。



「……チッ。おい! 12番車を調べろ!」



 部下の兵士たちが渋々馬車を調べる。

 数分後、青ざめた顔の兵士が戻ってきた。



「報告します! ……車軸に、目視できるレベルの亀裂が入っています! 偏った積載のせいで、熱を持って歪んでおります!」



「……なっ!?」



「言ったはずだ。計算通りだ」



 ユウサクは、動揺する騎士たちを無視して隊列の中央へと歩き出した。



「それだけじゃない。この隊列全体の『無駄』を指摘してやる。……まず、護衛の騎士が多すぎる。この街道の魔物出現率は過去3年で2パーセント以下だ。重装備の騎士がこれだけ歩けば、それだけで行軍速度が30パーセント低下する。その低下した速度を補うために、馬に無理をさせ、結果として車軸が死ぬ。……悪循環だ」



 ユウサクは、ある一台の馬車の幌を無造作にめくり上げた。



「……積み込み順序も最悪だ。なぜ一番奥に『応急処置用のポーション』を積んでいる? 道中で怪我人が出たら、すべての荷物を降ろすつもりか? 物流の基本はLIFO……後入れ先出しだ。必要なものほど手前に置け。……君たちは、物を運んでいるのではなく、ただ『ゴミを移動させている』に等しい」



「き、貴様ぁ……!」



 分隊長が顔を真っ赤にして叫ぶ。



「我らはアルシュタットで飢えている民を救うために急いでいるのだ! 理屈を捏ねている時間はない!」



「その『急ぎ』が、民を殺すことになる。……君たちの今のペースでは、アルシュタットに到着する頃には食糧の20パーセントが振動で破損し、10パーセントが湿気でカビる。……そして、この先の『絶望の峠』。君たちの馬車の幅では、対向車が来れば離合できずに半日立ち往生する」



 ユウサクは、懐から一枚の図面を取り出した。

 それは彼が道中に作成した、街道の幅と馬車の旋回半径を計算した「最適化マップ」だった。



「……私の指示に従え。護衛の半分を軽装にし、荷役の補助に回せ。12番車の荷は、他の3台に分散して積み直す。重心は中心よりやや前方、地上高30センチの位置に固定しろ。……そうすれば、到着時間は18時間短縮できる」



「……18時間だと!?」



 分隊長の目が泳いだ。

 戦場において、18時間は勝敗を決するのに十分すぎる時間だ。



「……ユウサクさん。あなたは、この騎士団の運搬をも『コンサル』するつもりですか?」



 エレナが呆れたように、しかしどこか感心した様子で尋ねた。



「コンサルじゃない。これは『交通整理』だ。遅い隊列が前を走っていると、俺の馬車が予定より遅れる。……それだけの理由だ」



 ユウサクはそう言い捨てると、動けない騎士たちを尻目に、自ら荷台に上がって荷物の積み直しを指示し始めた。

 彼の194センチの巨躯が動くたびに、混沌としていた荷台が、まるでパズルが組み上がるように美しく、整然とした「機能体」へと姿を変えていく。



 その圧倒的な手際に、最初は反発していた兵士たちも、次第に沈黙し、彼の指示に従い始めた。

 言葉ではなく、圧倒的な「結果」と「効率」が、現場を支配し始めたのだ。



「……ユウサク、お前は何者だ?」



 分隊長が、呆然と呟いた。



「ただの運び屋だ。……物流を止める奴は、魔王だろうが勇者だろうが、俺が許さない」



 ユウサクのアイスブルーの瞳が、北の空を見据える。

 その先には、飢えと絶望に沈むアルシュタット。

 そして、彼を待っているはずの銀髪の令嬢、カタリナの影があった。



 数時間後。

 見違えるほど軽快な足取りで、再編された隊列が動き出した。

 ユウサクは、その様子を自身の馬車の御者台から眺め、再び手元の時計に目を落とした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

「雑草係」と追放された俺、スキル『草むしり』でドラゴンも魔王も引っこ抜く~極めた園芸スキルは、世界樹すら苗木扱いする神の力でした~

eringi
ファンタジー
「たかが雑草を抜くだけのスキルなんて、勇者パーティには不要だ!」 王立アカデミーを首席で卒業したものの、発現したスキルが『草むしり』だった少年・ノエル。 彼は幼馴染の勇者に見下され、パーティから追放されてしまう。 失意のノエルは、人里離れた「魔の森」で静かに暮らすことを決意する。 しかし彼は知らなかった。彼のスキル『草むしり』は、対象を「不要な雑草」と認識すれば、たとえドラゴンであろうと古代兵器であろうと、根こそぎ引っこ抜いて消滅させる即死チートだったのだ。 「あれ? この森の雑草、ずいぶん頑丈だな(ドラゴンを引っこ抜きながら)」 ノエルが庭の手入れをするだけで、Sランク魔物が次々と「除草」され、やがて森は伝説の聖域へと生まれ変わっていく。 その実力に惹かれ、森の精霊(美女)や、亡国の女騎士、魔王の娘までもが彼の「庭」に集まり、いつしかハーレム状態に。 一方、ノエルを追放した勇者たちは、ダンジョンの茨や毒草の処理ができずに進行不能となり、さらにはノエルが密かに「除草」していた強力な魔物たちに囲まれ、絶望の淵に立たされていた。 「ノエル! 戻ってきてくれ!」 「いや、いま家庭菜園が忙しいんで」 これは、ただ庭いじりをしているだけの少年が、無自覚に世界最強に至る物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

処理中です...