辺境に追放された魔導工学師、古代遺跡の【お節介AI重機】を目覚めさせる。不毛の荒野? 多脚戦車で一瞬で温泉リゾートですが何か?

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第2章:エルフの難民と温泉リゾート

第13話 エルフ、文明の利器に戦慄する

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 居住ユニットの清潔なベッドで目覚め、アルドから温かいハーブティーを受け取ったリーリャ。
 彼女が落ち着きを取り戻した頃、頭上のスピーカーからマザーの声が響いた。

『リーリャさん、おはようございます。体調はいかがですか?』

「っ!? こ、この声は……昨日の鉄の巨人か?」

 リーリャが警戒して周囲を見回す。
 アルドは苦笑しながら手を振った。

「ああ、気にしないでくれ。こいつはマザー。この建物の……というか、俺たちの生活の管理をしている相棒だ。姿は見えないが、どこにでもいる」

「姿は見えないが、どこにでも……? それはまるで精霊のようではないか」

『精霊だなんて、照れますね。私はただの高機能AIですよ』

 マザーの謙遜はリーリャには通じていないようだったが、敵意がないことは伝わったらしい。
 彼女は少し緊張を解いたが、すぐに自分の体を見下ろし、顔を赤らめた。

「あの……アルド。感謝しておいてなんだが……私は昨日から、ずっとこの格好なのか?」

 彼女が着ているのは、マザーが用意したシルク風パジャマだ。
 薄手で着心地は最高だが、身体のラインがはっきりと出てしまう。
 それに、昨日の戦いでかいた汗や泥は治療ポッドで落ちたとはいえ、やはり精神的に「さっぱりしたい」という欲求があるのだろう。

「ああ、すまない。着替えを用意するよ。……その前に、汗を流したいか?」

「……できるなら、そうしたい。水浴びができる川などは近くにあるのか?」

「川はないけど、もっといいものがあるよ。『シャワールーム』だ」

 アルドに案内されたのは、居住ユニットの一角にある小部屋だった。
 白く輝くタイル張りの床と壁。大きな鏡。
 見たこともない銀色の管や取っ手が並んでいる。

「使い方は簡単だ。こっちの取っ手を右に回すと水、左に回すと湯が出る」

「ゆ、湯が出るだと……? 火も焚かずに?」

 リーリャが信じられないといった顔で蛇口を見つめる。
 アルドが実演のために蛇口を捻ると、シャワーヘッドからザァァァッ! と勢いよくお湯が噴き出した。
 立ち上る湯気。

「なっ……!? これは……湯の精霊を召喚したのか!?」

「いや、ただの給湯システムだ。温度はこっちで調整できる。石鹸と洗髪剤はそこに置いてあるから自由に使ってくれ」

 アルドは部屋を出ていった。
 一人残されたリーリャは、おずおずとシャワーの下に手を差し出した。
 温かい。そして、一定の温度が保たれている。
 エルフの里でも、湯を沸かすには薪を集め、大鍋で沸かして運ぶという重労働が必要だった。それが、この取っ手を捻るだけで、無尽蔵に湧き出してくる。

「……信じられん。ここは、神の国なのか?」

 彼女はパジャマを脱ぎ、温かい湯の奔流に身を委ねた。
 備え付けの液体を髪につけると、森の花のような芳しい香りが広がり、指通りが驚くほど滑らかになる。
 汚れと共に、心にこびりついていた不安や恐怖まで洗い流されていくようだ。

「ふぅぅ……。生き返る……」

 たっぷりと30分ほどシャワーを堪能し、浴室を出る。
 脱衣所には、新しい服が置かれていた。エルフの民族衣装をベースにしつつ、丈夫で伸縮性のある素材で作られた機能的な衣服だ。これもマザーが昨晩のうちにサイズを計測し、3Dプリンタで出力したものだ。

「サイズもぴったりだ。……ん? これはなんだ?」

 鏡の前に、持ち手のついた筒のようなものが置かれている。

 『髪を乾かす道具です。スイッチを押してください』というメモがある。

 リーリャがおっかなびっくりスイッチを押すと――。

 ブオオオオオオオッ!!

「ひゃあっ!?」

 筒の先から熱風が噴き出し、リーリャは飛び上がった。
 風の魔法!? 敵襲か!?
 だが、攻撃される気配はない。ただ温かい風が吹き続けている。

「……ま、まさか、これで髪を乾かせと?」

 恐る恐る風を濡れた髪に当ててみる。
 みるみるうちに水分が飛び、髪が乾いていく。しかも、熱すぎず、髪を傷めない絶妙な温度だ。
 タオルで拭いて自然乾燥させるしか知らなかった彼女にとって、それは魔法以上の奇跡に見えた。

「風の精霊を閉じ込めた魔導具か……。アルドという男、どれほどの力を持っているんだ」

 身支度を整えたリーリャがキッチンへ向かうと、そこではまた別の驚きが待っていた。
 巨大な箱型の機械が稼働していたのだ。

『全自動万能調理機、朝食モード完了。焼き立てパンとオムレツです』

 チーン! という軽快な音と共に、箱から湯気の立つ料理が出てきた。
 人が調理した様子はない。箱が勝手に作ったのだ。

「……食の魔法まで使えるのか」

 リーリャは戦慄しながら、出されたパンを一口かじった。
 外はカリッ、中はフワフワ。小麦の香りが鼻孔をくすぐる。
 悔しいが、里一番のパン職人が焼いたものより美味しかった。

 朝食後、アルドはリーリャを連れて領内の案内に出た。
 マザーによって整地された広大な敷地、青々と茂る野菜畑、そして建築中の居住区。
 リーリャは見るもの全てに目を輝かせ、アルドの説明に聞き入っていた。

 昼時になり、日差しが強くなってきた頃。
 二人は木陰に設営された休憩スペースで足を止めた。

「暑いな。……リーリャ、腹減ったか?」

「ああ。色々と驚いてばかりで、腹が減った」

「よし。じゃあ昼飯にしよう。朝はマザーの自動調理だったからな、昼は俺が作るよ」

 アルドはマザーから展開されたキッチンユニットに立った。
 取り出したのは、脂の乗った豚肉――荒野に生息する「岩豚」の肩ロース肉だ。

「暑い時は、酸っぱくて辛い肉料理に限る。俺の故郷のさらに南、熱帯地方の料理だ。『豚トロ肉の香草焼き和え』を作るぞ」

 アルドはマザー製のセラミックナイフで肉の表面に細かく切り込みを入れ、特製のタレに漬け込む。
 そして、炭火を起こしたコンロの上に乗せた。

 ジュウウウゥゥッ!!

 脂が炭に落ち、白い煙と共に強烈に食欲をそそる香ばしい匂いが立ち上る。
 表面がカリッと焼け、中はジューシーな焼き上がり。
 アルドはそれをまな板に移し、一口大にスライスしていく。断面からは肉汁が溢れ出している。

「ここからが本番だ」

 ボウルに焼いた肉を入れ、そこにたっぷりのハーブを投入する。
 爽やかな香りのミント、独特の風味を持つ香草、そして刻んだ青ネギと赤玉ねぎ。
 味付けは、魚醤と、搾りたての青柑橘の果汁。
 そして、粗挽きの赤唐辛子をたっぷりと。

「仕上げに、これを入れる。米を炒って粉にしたものだ」

 アルドが茶色い粉末を振りかけた。
 これを加えることで、香ばしさが加わり、肉汁とタレが絡みやすくなるのだという。
 ざっくりと和えれば、完成だ。

「飲み物はこれだ。『椰子の実の氷蜜ジュース』」

 アルドは、マザーが南方の交易路で見つけてきた若い椰子の実(ココナッツ)を取り出した。
 上部を鉈で叩き割り、中の透明な果汁をグラスに注ぐ。
 内側の白いプルプルとした果肉をスプーンで削ぎ取り、それも加える。
 最後に、マザー製のかち割り氷と、琥珀色の椰子糖シロップを垂らす。

「さあ、食べてくれ」

 リーリャの前に、肉料理とジュースが並べられた。
 ハーブと柑橘、そして焼いた肉の入り混じったエキゾチックな香り。

「い、いただきます」

 リーリャは肉とハーブを一緒にフォークで刺し、口に運んだ。

「……んんっ!」

 衝撃が走った。
 まずは強烈な酸味と辛味。それが唾液腺を刺激する。
 次に、炭火で焼いた豚肉の脂の甘みと、魚醤の深い旨味が広がる。
 そして最後に、ミントや香草の爽やかさが鼻を抜け、炒り米のカリカリとした食感がアクセントになる。

「辛い! 酸っぱい! でも……肉が美味い! 止まらない味だ!」

 リーリャは汗をかきながら、次々と肉を口に運ぶ。
 口の中がヒリヒリしてきたところで、椰子の実ジュースを飲む。

「……はぁぁ」

 冷たくて甘いココナッツウォーターが、火照った口内を優しく鎮火してくれる。
 果肉のトゥルンとした食感と、シロップの素朴な甘さがたまらない。

「辛い肉を食べて、甘い汁を飲む。……この組み合わせ、最高ではないか」

「だろ? 暑い時はこれが一番元気が出るんだ」

 アルドも肉を頬張り、ニカっと笑った。
 その笑顔を見て、リーリャの胸の奥が温かくなった。
 この男は、魔法のような道具を使いこなしながら、こうして自分の手で料理を作り、振る舞ってくれる。
 その温かさが、何よりも嬉しかった。

「アルド……。お前は、本当にすごいな」

「そうか? マザーのおかげだよ」

「いいや。この味は、お前にしか出せない味だ」

 リーリャは真っ直ぐにアルドを見つめた。
 文明の利器も凄いが、それを使う彼の心こそが、この地を「楽園」にしているのだと確信した。

「ごちそうさまでした。……最高のデートだった」

「え?」

「……い、いや! 今のは言葉の綾だ! 領内視察という意味でだな!」

 顔を真っ赤にして否定するリーリャと、きょとんとするアルド。
 上空では、マザーのドローンが『ヒューヒュー!』と冷やかし音声を流しながら旋回していた。

 こうして、エルフの姫君は、文明の利器と胃袋を完全に掌握され、この地に骨を埋める覚悟を強めていくのだった。
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