ヒーローアカデミーの問題児達

湯島

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第一話 最低なヒーロー

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「それでどうだね、リーヴァー、私の申し出を受けるかね」
長椅子に腰掛けて、これ見よがしに葉巻を喫っている大物ぶった老いぼれが、何かをくだらない事を喋っている。
正直、耳障りだ。くだらない。リーヴァーはさっさと話を切り上げたくなった。

リーヴァーはわざと相手を苛立たせるかのように、大きく欠伸をした。
「退屈だ……」

「君は監獄から思わないのかね、リーヴァー」
男はリーヴァーを見やりながら問いかけた。

「別に」
素っ気無く答えるリーヴァー。だが、男もその言葉を文字通りに受け取ることはなかった。

これはちょっとした駆け引きだ。
誰だって少しでも自分に有利な条件で取引したいと願う。

「もう一度聞く、リーヴァー、君は自由にはなりたくはないのかね?」
「監獄から出ることと自由になることは別個の問題だろう?」
リーヴァーがわざとらしく身体を揺すってみせる。

「その傲慢さがいつか、君の命取りになるぞ、リーヴァー」
「そうかい、それでも俺はあんたほど傲慢じゃない」

長椅子から立ち上がった相手が、リーヴァーを見下ろした。
威圧しているつもりか。リーヴァーは相手を鼻でせせら笑った。

「あんたは俺に何かをやらせたいようだが、一体俺に何をして欲しいんだ?
もし、急を要する話だっていうなら、引き延ばせば伸ばすほど、俺にとっては有利に運びそうなんだけどな」

リーヴァーが真っ赤な舌先を突き出すと、自分の指腹を舐めた。
それはなんとも艶ましく、官能的な仕草だった。

そんなリーヴァーの媚態に男は心奪われた。あらゆる者を蕩けさせ、奥底に潜む劣情を強烈に刺激するリーヴァーのその美貌よ。
だが、男は何とか正気を保ちながら話を続けた。

「……君は素晴らしい力を秘めている。父親譲りのな。君の父親は正しく史上最強だった。
そして君はその力を受け継いだ。もっとも、その高潔な精神性までは受け継がなかったようだがな」

「親父は変わり者だったってだけさ。それか、あんたらに洗脳でもされたか。
どっちにしても俺には関係ないね。で、あんたが話したかった要件ってのはそれだけか。
だったら俺は自分の独房に戻るよ」

男がリーヴァーを制止し、まあ、待て、君が望む条件を聞こうじゃないかと告げた。
「私は君に更生のチャンスを与えたいんだ」
リーヴァーは、男の言葉に欺瞞を感じながらもいいだろうと、口許を歪めて見せた。



最高のヒーローの血を受け継いだ息子は最低なアウトローだった。立派な父親を持った息子がグレた。
それだけの事だ。
そんな話は世間を見渡せば、腐るほど転がっている。

そしてグレたリーヴァーは暴れた。正義のヒーロー達を見つけては、手当たり次第に喧嘩を吹っかけて回った。
正義のヒーローだけではない。怪人やダークヒーローにもその牙を剥いた。
とにかく強そうな奴、楽しめそうな奴だったら誰でも構わなかった。

相手構わず暴れまわるリーヴァーは、文字通りの狂犬だった。

政府はそんなリーヴァーを余りにも危険な存在だと見做し、幽閉した。
宇宙空間に浮かぶ監獄<スペースアルカトラズ>へと。

リーヴァーはこの監獄の中で、人生の大半を過ごした。暗く冷たい檻の中で。
その間中、リーヴァーは自分に足りなかった部分を補ってきた。
そう、それは知恵や知識、あるいは経験だ。

リーヴァーが政府の連中に捕まった原因は、単純に経験不足や考え足らずから来ていた。
余りにも自分は幼すぎた。この事実を真摯に受け止め、リーヴァーは深く反省した。

そうだ、囚われてからこの十年間、二度とヘマを犯さないだけの努力はしてきたつもりだ。
二度も奴らに出し抜かれてたまるかってんだ、リーヴァーは噛んでいたガムを地面に吐き捨てると、
ヒーローアカデミーの門を潜った。

この時、リーヴァーはすでに十六歳に達していた。



アカデミーの門を潜れという約束は果たした。一歩でも潜ったことには違いないからだ。
適当に立ち寄ったバー<ホットショット>はそれなりに居心地が良かった。

ステージを照らしつける天井からぶら下がったコウモリ型のライトが、味があって良い具合だ。
スピーカーから響く激しい重低音がリーヴァーの鼓膜を弄する。

ギタリストが十二弦のエレキギターを縦横無尽な指使いで激しくかき鳴らし、ボーカルがありったけの怒号を観客に飛ばす。
皮膚がビリビリとひりついた。押し寄せる大音量の波がリーヴァーの全身を愛撫する。

ああ、本当に悪くない。リーヴァーはロックの渦に酔いしれた。
汗が滲んでうっすらと光り輝く首筋が蠱惑的だ。悩ましい色香を振りまいている。
華麗に整った美貌は、まるでこの世のものとは思えない。

だが、その美貌には退廃的で強烈な毒気も孕んでいることが見て取れる。
美しくも淫らなその相貌は、およそ清廉さや気品とは縁遠い。

魔界の闇から生まれた宝石、そう形容するのが相応しいだろう。

両袖が引きちぎれた黒革のジャケットを着込んだスキンヘッドの男がリーヴァーの臀丘を軽く撫でた。
だが、バンドの演奏に酔いしれているリーヴァーは、男に尻を撫でられても何も言わなかった。
「なあ、俺とあっちで楽しまないか?」

男がボックス席に顎をしゃくって、リーヴァーを誘う。
「あんた、オカマか?」
気だるそうにリーヴァーが、ドラッグ入りのカクテルに口をつけ、男を見た。

「へえ、お前、男なのか。コイツは驚いた。それでどうだ、俺と一緒に楽しまないか、奢るぜ」
バーに充満する甘い香りを放つ紫煙が、リーヴァーの鼻腔粘膜をくすぐった。
「そうだな、ここら辺のことを教えてくれるなら俺も一杯、あんたに奢ろう」
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