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不思議な場所
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二十九
停止した光をパルスに変換し、データを貯蔵しておく<クリスタルメモリー>は今ではすっかりポピュラーな記録媒体となっている。
なんせ従来のデータ記録メディアよりも圧倒的な容量を誇り、おまけに劣化することもないからだ。
こいつは光工学(フォトニクス)が急激に発達していったことで、今では誰でも利用している。
そして、この<クリスタルメモリー>はパルス光の情報を原子ガスの中に保存し、レーザーを照射して中の情報を利用する仕組みになっている。
ちなみに俺が今、手に持っているクリスタルメモリーは『十三日の金曜日』パート一から四十まで収録されていて、
値段は五百円のワンコインで買える代物だ。
ちなみに自販機からでも買えるぞ。というよりも俺もさっき買ったんだけどな。
俺はポケットに<クリスタルメモリー>を突っ込むと歓楽街を歩いた。
それにしても珍しい歓楽街だな。まるで歴史博物館を見ている気分だ。
レトロ趣味の歓楽街といえばいいのか、甚平(ジンベエ)や半被(ハッピ)を羽織った男達が看板片手に客の呼び込みをし、
建物の二階の窓からは浴衣姿の女達が手招きしている。
昭和初期の遊郭という趣きがあるぜ。俺はサードアイを使って、歓楽街を眺めた。
人間の中に混じって化けてる奴もいるな。
それでも正味の人間のほうが圧倒的に多いけどな。
「あ、さて、さて、さては南京玉すだれっ」
舗道の隅では大道芸を披露して小銭を稼いでる者もいた。しかし、面白い場所だな。
そう思っていると、向こうから腰にしめ縄を巻き、ツルツル頭にハチマキをした裸の坊主どもがやってきた。
そんな坊主どもが錫杖を片手に歌い、踊り狂って通行人や客引き相手に物乞いをはじめる。
すたすたや、すたすたや、すたすた坊主の来るときは、世の中良いと申します。
とこまかせで良いとこなり、お見世も繁盛で良いとこなり、
旦那もおまめで良いとこなり、商売繁盛でおめでたや、家内安全でおめでたや、
無病息災でおめでたや、子宝に恵まれおめでたや
ありゃ、スタスタ坊主じゃねえか(注五十)。
注五十「江戸時代にはよく見かけたもんだぜ。てっきり消えちまったかと思ってたんだが、
まだ残ってたんだな。それにしても、スタスタ坊主を見るなんて本当に久しぶりだぜ」
すると布の大袋を担いだ他の坊主が入れ替わるように歌いだす。
来た来た又きたきた、いつも参らぬ、さいさい参らぬ、すたすた坊主
夕べも三百はりこんだ それからはだかの代参り
旦那の御祈祷それ御きとう、ねぎの御きとう猶御きとう
一銭文御きとう、なあ御きとう、かみさま御きとう、よひ御きとう
それから最後に「布袋どらをぶち、すたすた坊主なる所」と歌っていた坊主が締めくくる。
これは白隠の禅画に書かれた賛の文句だな。
俺はポケットから取り出した千円札をスタスタ坊主達に手渡した。
なんとなく、そうしたかったからだ。坊主が俺に向かって礼を言う。
それから俺は着いた待ち合わせの場所で一息入れた。
自販機で買ったコーヒーの味は甘たるい泥水のようだった。
俺はその泥水を啜りながら、待つことにした。待ち合わせの時間には少々早かったけどな。
そうしていると水玉のダボシャツに雪駄履きの角刈り頭をした男が俺に近づき、無言で睨んできた。
何だ、こいつは?俺も男を睨みつけてやる。そうしていると男が口を開いた。
「ガキがこんなとこに突っ立ってんじゃねえぞ。往来の邪魔だ。帰ってお袋のオッパイでも吸ってろや」
「うるせえよ、この角刈りチビ、ここは天下の往来だ。どこに突っ立ってようが俺の勝手だろうが、このバカヤロウ」
途端に男の額にピキッと青筋が浮かんだ。角刈りチビって言われたのが悔しかったようだな。
「テメエの方がよっぽどチビだろうがっ、このクソガキっ」
「俺はまだ成長期だ。でもよ、お前はもうそれ以上、背の伸びようがねえだろうが」
さらに図星を突かれ、怒り心頭に発した角刈りが俺に拳を振り上げた。
少しばかりこの馬鹿に痛い目を味わってもらうか。
俺が角刈り野郎の横腹にフックを叩き込もうとしたその瞬間、相手の身体がふわりと浮かんだ。
「おい、太一、テメエ、俺のメンバーに手出そうってつもりか。マッドブラッズに喧嘩売りたきゃ、いつでも買ってやるがよ」
俺が見上げると角刈り野郎──太一の頭を引っ掴んで持ち上げるアフロ鈴木がそこにいた。
「ま、マッドブラッズのメンバーッ、このガキがですかッッ?!」
持ち上げられた太一が両眼を泳がせながら動揺する。
「ああ、そうだ」
目を白黒させている太一の質問にアフロ鈴木が答えてやる。
「じょ、冗談ですよね?」
「マジだ。それもただのメンバーじゃねえ。マッドブラッズの切り込み隊長だ。よかったな、太一。
俺が来てなきゃ、お前、明に殺されてたぞ。恩に着ろよ」
そう言いながらアフロが太一を離してやる。
途端に太一が「どうもすいませんでしたっ」と叫びながら脱兎のごとく逃げ出していった。
「次郎、さっきの馬鹿、一体何だ?」
「ああ、あいつは太一ってケチなチンピラでよ、ガキ相手にカツアゲして小遣い巻き上げてる奴なんだよ。
それでウチのメンバーの奴の弟にタカリかけたことがあんだよ。
で、タカリがバレて、太一の奴、そのメンバーから半殺しよ」
「ロクな奴じゃねえな」
「ああ、実際、ロクな奴じゃねえよ。腕も度胸もからっきしで、他のギャングのパシリやらされてるからな」
「ふーん、まあ、いいか。それよりも俺に合わせたいって奴はどこにいんだ?」
「おう、合わせたいって言うのは他でもねえ、俺の師匠なんだが」
こいつの師匠ってどんな奴なんだ?興味あるな。
それから俺達は雑居ビルの中へと入った。
停止した光をパルスに変換し、データを貯蔵しておく<クリスタルメモリー>は今ではすっかりポピュラーな記録媒体となっている。
なんせ従来のデータ記録メディアよりも圧倒的な容量を誇り、おまけに劣化することもないからだ。
こいつは光工学(フォトニクス)が急激に発達していったことで、今では誰でも利用している。
そして、この<クリスタルメモリー>はパルス光の情報を原子ガスの中に保存し、レーザーを照射して中の情報を利用する仕組みになっている。
ちなみに俺が今、手に持っているクリスタルメモリーは『十三日の金曜日』パート一から四十まで収録されていて、
値段は五百円のワンコインで買える代物だ。
ちなみに自販機からでも買えるぞ。というよりも俺もさっき買ったんだけどな。
俺はポケットに<クリスタルメモリー>を突っ込むと歓楽街を歩いた。
それにしても珍しい歓楽街だな。まるで歴史博物館を見ている気分だ。
レトロ趣味の歓楽街といえばいいのか、甚平(ジンベエ)や半被(ハッピ)を羽織った男達が看板片手に客の呼び込みをし、
建物の二階の窓からは浴衣姿の女達が手招きしている。
昭和初期の遊郭という趣きがあるぜ。俺はサードアイを使って、歓楽街を眺めた。
人間の中に混じって化けてる奴もいるな。
それでも正味の人間のほうが圧倒的に多いけどな。
「あ、さて、さて、さては南京玉すだれっ」
舗道の隅では大道芸を披露して小銭を稼いでる者もいた。しかし、面白い場所だな。
そう思っていると、向こうから腰にしめ縄を巻き、ツルツル頭にハチマキをした裸の坊主どもがやってきた。
そんな坊主どもが錫杖を片手に歌い、踊り狂って通行人や客引き相手に物乞いをはじめる。
すたすたや、すたすたや、すたすた坊主の来るときは、世の中良いと申します。
とこまかせで良いとこなり、お見世も繁盛で良いとこなり、
旦那もおまめで良いとこなり、商売繁盛でおめでたや、家内安全でおめでたや、
無病息災でおめでたや、子宝に恵まれおめでたや
ありゃ、スタスタ坊主じゃねえか(注五十)。
注五十「江戸時代にはよく見かけたもんだぜ。てっきり消えちまったかと思ってたんだが、
まだ残ってたんだな。それにしても、スタスタ坊主を見るなんて本当に久しぶりだぜ」
すると布の大袋を担いだ他の坊主が入れ替わるように歌いだす。
来た来た又きたきた、いつも参らぬ、さいさい参らぬ、すたすた坊主
夕べも三百はりこんだ それからはだかの代参り
旦那の御祈祷それ御きとう、ねぎの御きとう猶御きとう
一銭文御きとう、なあ御きとう、かみさま御きとう、よひ御きとう
それから最後に「布袋どらをぶち、すたすた坊主なる所」と歌っていた坊主が締めくくる。
これは白隠の禅画に書かれた賛の文句だな。
俺はポケットから取り出した千円札をスタスタ坊主達に手渡した。
なんとなく、そうしたかったからだ。坊主が俺に向かって礼を言う。
それから俺は着いた待ち合わせの場所で一息入れた。
自販機で買ったコーヒーの味は甘たるい泥水のようだった。
俺はその泥水を啜りながら、待つことにした。待ち合わせの時間には少々早かったけどな。
そうしていると水玉のダボシャツに雪駄履きの角刈り頭をした男が俺に近づき、無言で睨んできた。
何だ、こいつは?俺も男を睨みつけてやる。そうしていると男が口を開いた。
「ガキがこんなとこに突っ立ってんじゃねえぞ。往来の邪魔だ。帰ってお袋のオッパイでも吸ってろや」
「うるせえよ、この角刈りチビ、ここは天下の往来だ。どこに突っ立ってようが俺の勝手だろうが、このバカヤロウ」
途端に男の額にピキッと青筋が浮かんだ。角刈りチビって言われたのが悔しかったようだな。
「テメエの方がよっぽどチビだろうがっ、このクソガキっ」
「俺はまだ成長期だ。でもよ、お前はもうそれ以上、背の伸びようがねえだろうが」
さらに図星を突かれ、怒り心頭に発した角刈りが俺に拳を振り上げた。
少しばかりこの馬鹿に痛い目を味わってもらうか。
俺が角刈り野郎の横腹にフックを叩き込もうとしたその瞬間、相手の身体がふわりと浮かんだ。
「おい、太一、テメエ、俺のメンバーに手出そうってつもりか。マッドブラッズに喧嘩売りたきゃ、いつでも買ってやるがよ」
俺が見上げると角刈り野郎──太一の頭を引っ掴んで持ち上げるアフロ鈴木がそこにいた。
「ま、マッドブラッズのメンバーッ、このガキがですかッッ?!」
持ち上げられた太一が両眼を泳がせながら動揺する。
「ああ、そうだ」
目を白黒させている太一の質問にアフロ鈴木が答えてやる。
「じょ、冗談ですよね?」
「マジだ。それもただのメンバーじゃねえ。マッドブラッズの切り込み隊長だ。よかったな、太一。
俺が来てなきゃ、お前、明に殺されてたぞ。恩に着ろよ」
そう言いながらアフロが太一を離してやる。
途端に太一が「どうもすいませんでしたっ」と叫びながら脱兎のごとく逃げ出していった。
「次郎、さっきの馬鹿、一体何だ?」
「ああ、あいつは太一ってケチなチンピラでよ、ガキ相手にカツアゲして小遣い巻き上げてる奴なんだよ。
それでウチのメンバーの奴の弟にタカリかけたことがあんだよ。
で、タカリがバレて、太一の奴、そのメンバーから半殺しよ」
「ロクな奴じゃねえな」
「ああ、実際、ロクな奴じゃねえよ。腕も度胸もからっきしで、他のギャングのパシリやらされてるからな」
「ふーん、まあ、いいか。それよりも俺に合わせたいって奴はどこにいんだ?」
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