15 / 67
15.リスが跳ねる病
しおりを挟む
どんぐりがぺろりと舐め取って、食べてしまった。花生みの花の色は、気分によって変わる。光る花は初めてのことだった。けれどもそれを深く考えることはしなかった。
確かに珍しくはあるけれど、花生みの寿命を削る黒色でさえなければどれも関心はほぼないに等しい。
昼食時は木陰の下に並べた二台のテーブルに集い、席を同じくした。ロナウドとラルフ、それから屋敷の全員とラルフの従者までも。
ラルフが指名したので、両脇はロナウドとマルが挟むように座った。
パンはまだ熱い。ラルフは指を踊らせながらちぎったパンを口へ放り込むと、パリパリっと小気味よい音が鳴った。
「んんー、食事はやはり、作りたてが美味だ。料理長の焼くパンは特に絶品だぞ。毎日でも食べたいくらいだ」
「へい、いつもありがとよ、ラルフ坊ちゃん」
と料理長がにかっと歯を見せる。
パンとスープだけの簡単なランチだが、パンは何種類もあるし、スープは大きなスープチュリーンからそれぞれ自由にマグへよそって食べられる。もちろん熱々だ。
「ラルフの家では、作りたてじゃないの?」
「うむ。残念だが、冷めてしまうのだ。僕の健康を損ねないかどうか調べたりするのでな。あと、厨房から僕の部屋までが遠い。これはどうにもならん」
「そっか。緑四号が運べたら良かったね」
「うはは。マル、それでは全部こぼされてしまうか、食べられてしまうかのどちらかだぞ」
竜は雑食だ。肉を主としているが、大概なんでも食べる。
何か良い案はないだろうかと思案していたところへ、ラルフの前を横切ったロナウドの手が、ぱっと目の前に出される。
「マル、深く悩むな。ここでつるが生まれると、そこにいる二頭に頭から嘗められる」
カシスも緑四号も、庭にある専用の支柱に手綱を留められている。とはいえ、二匹が本気になれば、その程度の支柱は苦もなく抜いてしまうだろう。
「そ……うでした」
「よし。ではラルフ。あと一刻したら午後の練習を始める。それまでは休憩とする」
とくん。
マルの胸の中で大人しくしているリスが、ふと急に目覚めて飛び跳ねた。最近よくある。
特に、こういうときだ。前触れもなくロナウドから何かされたり、距離が近すぎるといけない。少し苦しくなってしまう。
ロナウドたちは屋敷の中で休憩をとるらしく、席を立って去って行った。
テーブルには落ち着かないマルと、その様子を見ているラルフ。そして従者が残った。
「マル、そなた大丈夫か? どうしたのだ、ぼんやりしておるぞ」
「……うん。時々ね、胸がこう、跳ねるんだ。小さな、リスみたいな動物が胸の中で、跳ねたり、ダンスしたり、たまに二三匹に増えたりしてはしゃぐんだけど、それがちょっと苦しくて……」
「ん? リス? 胸が苦しい? 時々とは、どんな時だ。ここにいる僕の従者は医術の心得もあるぞ。多少ならばすぐにも対応できよう。詳しく話してくれないか?」
従者が無言で頷いたので、近頃のリスの話をいくつかしてみた。ロナウドに関連することばかりだとか、特に症状が酷くなるのは予想外な接触をされたときだとか。ふんふんと訊いていた二人は次第に静かになっていく。最終的にマルがチーズを食べさせてもらっているときにも起こると告白をすると、ラルフは口を開けて固まった。
「んー。マル、その話だと……僕は医師ではないが、それは、多分大丈夫かもしれないぞ。ある種、病ではありそうだが。のう?」
ラルフが従者へ目線を投げかける。
「さようでございますな。マル様の病は、薬の処方が不要なようです」
「手遅れ? 重病? それとも俺、死んじゃうの?」
「自覚のないのは重病だが、死にはせぬ。無論、誰かに感染もせぬ。さてどうしたものか……。んー、マル、おぬしの花は、何色だ? 近頃変わった色はなかったか?」
変わった色。黒は変わっているが、最近は生んでいない。心当たりがあるのは、ドングリに食べられた蕾だ。まだ黄緑で花の色は不明で、艶のある玉虫色。
それを伝えると「やはりか」と返された。
「ラルフ様、こういった話は、当人の問題でございます。拗れてもいけませんし、見守りましょう」
「待て待て、これはマル王国の一大事なのだぞ。僕の友好国が困っているのを見過ごすことはできん」
従者は渋い顔をして黙ってしまった。
マルは死にはしないが重病で、かつ薬もなくて一大事だそう。
ラルフは眉間に皺を寄せて考え始めた。
そうしてしばらく経ったころ、休憩時間を終えたロナウドが屋敷から出てくるのを発見すると、ぐるんとマルへ向く。
「思いついたぞ! 心配するな、マル! 僕にできることがあった! なあに、悪いようにはせんから安心してくれ。テコ入れをしようじゃないか」
うはは、うははとラルフは笑った。
半分無邪気に、半分腹黒く。
確かに珍しくはあるけれど、花生みの寿命を削る黒色でさえなければどれも関心はほぼないに等しい。
昼食時は木陰の下に並べた二台のテーブルに集い、席を同じくした。ロナウドとラルフ、それから屋敷の全員とラルフの従者までも。
ラルフが指名したので、両脇はロナウドとマルが挟むように座った。
パンはまだ熱い。ラルフは指を踊らせながらちぎったパンを口へ放り込むと、パリパリっと小気味よい音が鳴った。
「んんー、食事はやはり、作りたてが美味だ。料理長の焼くパンは特に絶品だぞ。毎日でも食べたいくらいだ」
「へい、いつもありがとよ、ラルフ坊ちゃん」
と料理長がにかっと歯を見せる。
パンとスープだけの簡単なランチだが、パンは何種類もあるし、スープは大きなスープチュリーンからそれぞれ自由にマグへよそって食べられる。もちろん熱々だ。
「ラルフの家では、作りたてじゃないの?」
「うむ。残念だが、冷めてしまうのだ。僕の健康を損ねないかどうか調べたりするのでな。あと、厨房から僕の部屋までが遠い。これはどうにもならん」
「そっか。緑四号が運べたら良かったね」
「うはは。マル、それでは全部こぼされてしまうか、食べられてしまうかのどちらかだぞ」
竜は雑食だ。肉を主としているが、大概なんでも食べる。
何か良い案はないだろうかと思案していたところへ、ラルフの前を横切ったロナウドの手が、ぱっと目の前に出される。
「マル、深く悩むな。ここでつるが生まれると、そこにいる二頭に頭から嘗められる」
カシスも緑四号も、庭にある専用の支柱に手綱を留められている。とはいえ、二匹が本気になれば、その程度の支柱は苦もなく抜いてしまうだろう。
「そ……うでした」
「よし。ではラルフ。あと一刻したら午後の練習を始める。それまでは休憩とする」
とくん。
マルの胸の中で大人しくしているリスが、ふと急に目覚めて飛び跳ねた。最近よくある。
特に、こういうときだ。前触れもなくロナウドから何かされたり、距離が近すぎるといけない。少し苦しくなってしまう。
ロナウドたちは屋敷の中で休憩をとるらしく、席を立って去って行った。
テーブルには落ち着かないマルと、その様子を見ているラルフ。そして従者が残った。
「マル、そなた大丈夫か? どうしたのだ、ぼんやりしておるぞ」
「……うん。時々ね、胸がこう、跳ねるんだ。小さな、リスみたいな動物が胸の中で、跳ねたり、ダンスしたり、たまに二三匹に増えたりしてはしゃぐんだけど、それがちょっと苦しくて……」
「ん? リス? 胸が苦しい? 時々とは、どんな時だ。ここにいる僕の従者は医術の心得もあるぞ。多少ならばすぐにも対応できよう。詳しく話してくれないか?」
従者が無言で頷いたので、近頃のリスの話をいくつかしてみた。ロナウドに関連することばかりだとか、特に症状が酷くなるのは予想外な接触をされたときだとか。ふんふんと訊いていた二人は次第に静かになっていく。最終的にマルがチーズを食べさせてもらっているときにも起こると告白をすると、ラルフは口を開けて固まった。
「んー。マル、その話だと……僕は医師ではないが、それは、多分大丈夫かもしれないぞ。ある種、病ではありそうだが。のう?」
ラルフが従者へ目線を投げかける。
「さようでございますな。マル様の病は、薬の処方が不要なようです」
「手遅れ? 重病? それとも俺、死んじゃうの?」
「自覚のないのは重病だが、死にはせぬ。無論、誰かに感染もせぬ。さてどうしたものか……。んー、マル、おぬしの花は、何色だ? 近頃変わった色はなかったか?」
変わった色。黒は変わっているが、最近は生んでいない。心当たりがあるのは、ドングリに食べられた蕾だ。まだ黄緑で花の色は不明で、艶のある玉虫色。
それを伝えると「やはりか」と返された。
「ラルフ様、こういった話は、当人の問題でございます。拗れてもいけませんし、見守りましょう」
「待て待て、これはマル王国の一大事なのだぞ。僕の友好国が困っているのを見過ごすことはできん」
従者は渋い顔をして黙ってしまった。
マルは死にはしないが重病で、かつ薬もなくて一大事だそう。
ラルフは眉間に皺を寄せて考え始めた。
そうしてしばらく経ったころ、休憩時間を終えたロナウドが屋敷から出てくるのを発見すると、ぐるんとマルへ向く。
「思いついたぞ! 心配するな、マル! 僕にできることがあった! なあに、悪いようにはせんから安心してくれ。テコ入れをしようじゃないか」
うはは、うははとラルフは笑った。
半分無邪気に、半分腹黒く。
69
あなたにおすすめの小説
魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に1話ずつ更新
復讐の鎖に繋がれた魔王は、光に囚われる。
篠雨
BL
予言の魔王として闇に閉ざされた屋敷に隔離されていたノアール。孤独な日々の中、彼は唯一の光であった少年セレを、手元に鎖で繋ぎ留めていた。
3年後、鎖を解かれ王城に連れ去られたセレは、光の勇者としてノアールの前に戻ってきた。それは、ノアールの罪を裁く、滅却の剣。
ノアールが死を受け入れる中、勇者セレが選んだのは、王城の命令に背き、彼を殺さずに再び鎖で繋ぎ直すという、最も歪んだ復讐だった。
「お前は俺の獲物だ。誰にも殺させないし、絶対に離してなんかやらない」
孤独と憎悪に囚われた勇者は、魔王を「復讐の道具」として秘密裏に支配下に置く。しかし、制御不能な力を持つ勇者を恐れた王城は、ついに二人を排除するための罠を仕掛ける。
歪んだ愛憎と贖罪が絡み合う、光と闇の立場が逆転した物語――彼らの運命は、どこへ向かうのか。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった
ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。
生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。
本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。
だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか…
どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。
大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる