■完結■ 竜騎士と花生み〜逃亡奴隷はご主人様に恋をする〜

11ミリ

文字の大きさ
23 / 67

23.怒りっぽいアベル

しおりを挟む
 アベルと一日一緒に過ごすと、確かにアベルはマルとアニムス以外には愛想が良かった。どの隊士にも笑顔で接しているし、声も明るく高めだ。なんなら、竜にも馬にもラバにも優しい。

「ねぇ、アベル。ここにはロバはいないの? ご主人様のとこにはロバがいたんだけど」
「『アベルさん』だろ、このぼんくら頭。ロバなんていねぇよ、見りゃ分かるだろ。お前の目は節穴か」

 一応返事はしてもらえるが、とげとげしい。そのくせ隊士が通りかかろうものなら、ふわっと笑顔になるのだ。
 マルは奇しくもアベルと同じ緑色の目をしていた。マルの銀髪に対して、アベルは金髪。花生みの特徴でもあるが、体つきは二人とも華奢だ。身長もほぼ同じ。二人でいると、まるで対のよう。
 それを「兄弟みたい」だと指摘した隊士がいた。するとアベルは嫌悪するどころか「そうなんです。僕も弟ができたみたいで嬉しくて」と言って、マルと腕を組む。
 その隊士が去るやいなや「ベタベタするんじゃねぇよ、図々しい」と腕を振りほどく。最後に睨むのも忘れない。全くもって見事であった。
 けれども竜の世話について聞けば教えてくれる。ひたすら口が悪いだけの人だ。

「あ、カシス! カシス!」

 マルの昼休憩が終わって厩舎へ戻ると、房にいるカシスを発見した。カシスもマルへ気が付いて、短く鳴いている。思わず正面へ近づいた。すると息を吸って鼻の穴が大きく膨らませ、そして止まった。
 カシスが火を噴こうとしている!
 それが分かったのに、遅かった。身体の反応が遅れて間に合わない。マルは今度こそろうそくになる覚悟をした。

「このノロマっ!」

 膝裏に衝撃を受けて、尻餅をついた。その直後、マルのいた場所をめがけて炎が直撃する。蹴り飛ばしたのはアベルだった。
 マルを助けてくれたのだ。

「主人の竜が火を吐く間合いくらい、しっかり見極めろっ!」
「ありがとう、アベル……」
「いい加減『さん』を付けろ。毎回助けてもらえると思ったら大間違いだぞ、ハゲ!」

 マルは禿げてない。念のため頭を撫でてみたが、禿げはなかった。

「カシスもさぁ、もうちょっと早く火を吐けたらあのハゲを丸焦げにできたのに。次はちゃんと黒焦げを頼むよ」

 マルを助けた割には、どちらに加担しているのか疑問に思う台詞だ。アベルはぶつくさ言いながらも、ぽん、ぽん、ぽん、と連続して指先から花を生み出し、カシスに与えてた。
 カシスは喜んで花を食べている。今だってマルと会えたのが嬉しかったのだろう、つい火を噴いたのだ。親友とはまだ言いがたいが、友達くらいの距離にはなれている、はずなのだ。
 厩舎には、緑色の竜ばかりいる。性格は竜の中では従順な方で、火を噴かないし、小型で扱いやすいそうだ。隊長クラスにもなると、赤や青の中型を使うことが多い。その中でも別格は、カシスのように赤紫色をして、火を噴く竜になる。気性が荒く、竜の方が人を選ぶ。そのカシスを撫でられるアベルは相当気に入られてる部類だ。もちろん主のロナウドは言うまでもない。
 カシスがここにいるということは、いずれロナウドもやってくるのだろう。そう思うと、仕事にも一層身が入った。
 花生みならではの仕事は、人に慣れてきた幼竜の散歩だ。基本、竜は側に花生みがいれば、勝手に飛んではいかない。だから幼竜へ手綱を付け、大人しく引かれることを覚えさせるのは、花生みが適任なのだ。
 中でも危険な作業は、牙と爪の手入れだ。慣れていない者がすれば、噛みつかれたり鋭く尖った爪で肉を引き裂かれることもある。
 けれど花生みは別だ。アベルが「あーんして」と言えば、大きな口を開ける。口に被さる皮膚をめくり上げて牙を点検しても、噛もうとはしない。長すぎる爪を鉈で整えても、踏みつけられもしないのだ。
 ロナウドは夕暮れが近くなっても現れなかったが、アニムスはふらりとやってきた。

「よお、二人とも調子はどうだ?」
「えっと、なんとかやってます」

 マルは牙の点検をしていた。アベルは爪を整えているが、アニムスに返事をする気はないようだ。

「二人へロナウド隊長からの連絡だ。明後日は第四部隊と第五部隊の合同任務があるから、各竜の点検を優先的に頼むってさ。それからこれはついでだけどな。マル、隊長が今日、様子を見に行くって言ってたぞ」

 ロナウドに会える。ふわりと身体が軽くなるようだった。

「嬉しそうな顔しちゃって、良かったな。会いたかったんだろ?」
「う、うん」

 ものすごく。酷く会いたかったのだと、自覚する。おなじみのリスたちも連なってやってきて、みんなでうきうきと跳ね始めているし、マルも踊りたくなってしまう。

「なぁ、アベルよぉ。そういや俺の恋人は今どうなってんの?」

 アベルによると、アニムスは浮気中の恋人がいることになっている。事実無根らしいが、それを楽しんでいるのだ。

「っ……絶賛浮気中だよっ! この大馬鹿野郎っ!」
「アベルはなんでいっつもイライラしてんだ? そういうときは牛乳とか乳製品がいいんだぞ。そうだ、チーズ食えよ」
「アニムスまでチーズって言うなぁーーっ!」

 後は知らないと言わんばかりに、ドスドス靴音を鳴らして厩舎から出て行ってしまった。とはいえ、今二人で手入れをしていた竜が最後なので、もう終了ではある。
 そこでマルはロナウドを待っていたが、肝心な「いつ」と「どこで」を訊き忘れていた。
 夕食時になっても現れない。食堂にいても来ない。急な予定変更があったのだろうか。それとも自分の記憶違いで、今日ではなくて明日だったのだろうか。浮き上がった気持ちは急降下した。屋根裏へ続く細い階段を上る足が重い。俯き、視線は足下へと降りていく。

「マル」

 上から降る声に、顔を上げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺

ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。 その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。 呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!? 果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……! 男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?) ~~~~ 主人公総攻めのBLです。 一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。 ※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に1話ずつ更新

復讐の鎖に繋がれた魔王は、光に囚われる。

篠雨
BL
予言の魔王として闇に閉ざされた屋敷に隔離されていたノアール。孤独な日々の中、彼は唯一の光であった少年セレを、手元に鎖で繋ぎ留めていた。 3年後、鎖を解かれ王城に連れ去られたセレは、光の勇者としてノアールの前に戻ってきた。それは、ノアールの罪を裁く、滅却の剣。 ノアールが死を受け入れる中、勇者セレが選んだのは、王城の命令に背き、彼を殺さずに再び鎖で繋ぎ直すという、最も歪んだ復讐だった。 「お前は俺の獲物だ。誰にも殺させないし、絶対に離してなんかやらない」 孤独と憎悪に囚われた勇者は、魔王を「復讐の道具」として秘密裏に支配下に置く。しかし、制御不能な力を持つ勇者を恐れた王城は、ついに二人を排除するための罠を仕掛ける。 歪んだ愛憎と贖罪が絡み合う、光と闇の立場が逆転した物語――彼らの運命は、どこへ向かうのか。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

子持ちオメガが運命の番と出会ったら

ゆう
BL
オメガバースのblです。

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

処理中です...