■完結■ 竜騎士と花生み〜逃亡奴隷はご主人様に恋をする〜

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47.過去を倒せ(注・暴力表現ありますが、生きています)

 ゴロナたちは、担いでいたものを地面に降ろした。卵を包んでいたのは結び合わせた上着で、いかにも急ごしらえのようだった。
 卵は男一人では抱えることもできないような大きさをしている。重さも見た目通りにあるのだろう。二人ともやれやれという感じで腰を叩いていた。

「あぁーゴロナさんが花生みを連れて帰ってくれてたら、竜を手なずけて楽ができたんすけどぉ」
「うっせえな。竜の孵化はもっと後だろうって言ったのはてめぇだろうが」
「仕方ないっす。生き物なんすから。それより巣の竜を足止めさせるために、わざと一個割った俺の機転をもっと褒めてくださいよ」
「偉そうにぬかすな。そんなのは、この卵をどうにかできた後の話だ」

 マルとアベルは青ざめ、耳を疑った。少なくとも巣にはもう一つ卵があって、このダミ声の男が故意に割っていた。なんということをしでかしているのか。
 巣から盗み出された哀れな卵には、太い割れ目が入っている。もう孵化は目の前だ。

「素材はできるだけ大きくさばきたいからな。首を絞めて丸ごとほしいとこだが、もし竜が暴れたら首を落とせ」

 ゴロナが足で卵を踏みながら揺らすと割れ目からボッと炎が出て、ゴロナの靴紐を焼いた。火はすぐに消えたが、焼いてのだ。まずいことが起きたと、マルはアベルへ身振り手振りで伝える。
 きっとゴロナはこの竜へ容赦しない。

「こいつ生まれてもねぇってのに、火を吹きやがったぜ。卵でも竜は竜ってことかよ、たかがでかいトカゲのくせしてよぉ」

 卵のヒビは更に長くなり、そこからくるんとした鋭い爪がのぞく。炎は再び吐き出された。

「これじゃあ危なっかしくて、卵から引きずり出すのは無理だな。まぁ、俺様に火を吹いたのがお前の運の悪さだ。おかげで首がどこにあるのか見当ついたぜ。あばよクソ竜、短い一生だったな」

 ゴロナが顎を逸らして合図をすると、ダミ声の男が背に担いでいた斧を両手で高く振り上げた。
 その瞬間、マルは例のあれを思い切り吹いた。

 ピイィイィーー、ピーィ、ピーィ!

 高らかな音が森へ響き渡る。
 マルが吹いたのは、ロナウドから貰った銀の笛。
 強く吹いたつもりだったが、コツが要るのか思った通りには鳴らなかった。それでもゴロナとダミ声の男の二人を一瞬止めるには十分だった。

「その木の陰で隠れている奴、出てこい」

 ゴロナの怒気を孕む声を聞くだけで、マルの塞がっているはずの背中の傷が疼く。
 ダミ声から斧を奪ったゴロナは、ぺちぺちと柄を掌に当てて鳴らした。己が剛の者だと、余裕を知らしめているのだ。
 一歩一歩ゆっくりと近づいてくる音に、マルは歯を食いしばって恐怖と戦う。もっとゴロナを引きつけなければいけない理由があるからだ。再び強く笛を吹くと、その音に重なるようにダミ声の短い叫びがした。
 後ろ側から回り込んでいたアベルの襲撃が成功したのだ。マルが木の陰から覗き見ると、すでに千鳥足になっている男の後頭部へ小刀の柄をたたき込んでいた。ずるりと倒れこんだ首元へ、アベルはすかさず刃を当てる。

「動いたらお前の仲間を殺すぞ」

 アベルの宣告にゴロナはぴたりと動かなくなったが、それから愉快そうに大笑いした。

「ははっ! 凄ぇ、すっげぇ、俺はついてるぜ! お前、『痛み』と一緒に町にいたガキだな! よおく覚えているぜ。さてはお前も花生みなんだろ。だっだら木の陰に入るビビりは『痛み』に違ぇねえ! 花生みが一度に二人も手に入るんだ! おいガキ、そこで倒れてる豚をさっさと殺せ! これで全部俺様の独り占めよ! ぎゃははっ。笑いが止まらねぇぜ‼」
「……いたみ?」
「銀髪の花生みのガキだ。あいつは元々俺様のもんだったのよ! 痛めつけると花を生むから『痛みの花生み』って呼んでたんだぜ」

 下卑な笑いをゴロナはやめない。
 ごろつきたちに軟禁されていたころ、マルは名前で呼ばれなかった。単純で勝手な推測で名付けられていた三人の花生み。『食事の花生み』『悲しみの花生み』に次いで『痛みの花生み』として使われていた壮絶なマルの過去だが、ゴロナにとっては笑い事でしかない。

「マルの……背中をやったのはお前かあーーっ‼」
「ガキ、口の利き方がなってねぇな。俺は自分の持ち物はちゃんと躾ける主義だ。覚えておけ、手足の一本や二本がなくなっても、花生みは花を生めるんだぜ!」

 ゴロナは斧。アベルは小刀。どちらに分があるかは、一目瞭然だ。ゴロナは見せつけるようにゆっくり斧を振りかざす。

「やめろぉーーっ‼」

 気取られないように近づいていたマルが叫びながらゴロナへ体当たりをした。更に転がっていた卵から鮮烈な赤い炎が吹き出し、すぐ近くにいたゴロナは尻餅をつく。

「邪魔くせぇ!」

 卵を払うように振った刃がどこかを傷つけたのか、卵からキュイッと短く悲鳴があがった。
 許せなかった。マルはゴロナの耳に手を当てると、瞬時に大量のつるを生んだ。
 耳の中へ。
 できるだけ細く、固く、鋭く、耳の奥へ。
 ゴロナは耳の痛みに悲鳴を上げ、マルの顔面を殴った。だがゴロナが立ち上がろうとしても平衡感覚を損なったのだろう地を転がるばかりで、立ったと思えば倒れて這う。
 二人がかりでゴロナを押さえ、つるで目と鼻と口を封じた。まぶたの裏にも、鼻腔へも、喉奥の更に奥へも花とつるを生む。隙間を全て埋めるように。
 やがてうめき声も静かになって、ゴロナは動かなくなった。
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