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意味深なお誘い
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あのエドゥアルド・ロブレスが、寮に女子を呼んだ。
そのことは瞬く間に話題となり、学園中を駆け巡った。
しかも相手は、勉強の虫フランシーナ・アントン伯爵令嬢。
彼と特に親しいわけでもないあの女が、なぜ直々に招待されたのか――
「大丈夫よ、一位と二位のお二人だもの。どうせ試験対策でもするのでしょ」
講堂の片隅でそう憶測を立てているのは、エドゥアルドと親しい令嬢達である。
彼が歩けば後ろを付いて歩き、彼が立ち止まれば周りを囲んで止めどなく喋り続ける人達だ。
どうやらフランシーナは、彼女達から『大丈夫』――圏外であると思われているらしい。
「あの人が行っていいなら、私達も行ってみる?」
「談話室なら、女子も入っていいって聞いたわ」
こっそりと彼女達の話に耳をそばだてながら、ついつい感心してしまう。
エドゥアルドと、何をそんなに話すことがあるのだろうかと。
フランシーナなんて、この間の十分間だけでも会話に困ってしまったというのに。
彼が話題を振ってくれなければ、女子寮までの道のりを沈黙のまま歩き続けるところだった。
しかも今度は十分間なんて時間では済まされないだろう。
なにせ、男子寮まで招待されてしまったのだ。さっさとお茶だけ飲んで『はい、それではさようなら』なんて、常識的に考えて許されないに違いない。
実は今回も助けを求めて、親友であるヴィヴィアナに泣きついた。
一人きりで男子寮に行くなんてフランシーナにとっては試練に近いものがあって、できることならヴィヴィアナもついてきてくれないだろうか――そう頼み込んだのだ。
しかし彼女からはキッパリと断られてしまった。
男子寮の談話室へ特定の誰かを招待することには、特別な意味があるらしい。
『特別な?』
『……エドゥアルド様はフランシーナを個人的に招待したのでしょ? 私までついて行ってしまったらきっと不興を買ってしまうわ』
『でも、一人だと心細くて。私って勉強のこと以外、話すことも無いのよ』
『そんなの、フランシーナは『ご招待嬉しいです』ってにこにこしておけばいいのよ。それだけでエドゥアルド様はご機嫌よ』
そういうものなのだろうか。ヴィヴィアナの言葉からは自信すら感じられたが、笑っておくだけでいいなんてそんな簡単なことがあるだろうか。
半信半疑ではあるものの、口下手なフランシーナにはそうするほか無い。
幸い、エドゥアルド様と親しいご令嬢達も「行こうかしら」と言っているようだし、談話室にエドゥアルドと二人きりという状況も避けられるかもしれない。
そうなれば彼女達に話を任せれば良いのでは――
約束は今日の放課後だ。
少し胸が軽くなったフランシーナは、他力本願なままその時を待った。
◇◇◇
そして約束の放課後。
エドゥアルドは、わざわざフランシーナの教室まで迎えにやって来た。
ガラディア王立学園の男子寮は、女子寮から校舎を隔てた反対側に位置している。
もちろん場所は分かっているし、フランシーナ一人でも行けそうなものなのに。
「逃げられちゃうかもしれないでしょ?」
彼は笑えない冗談を言いながら、相変わらず爽やかに笑顔をつくる。
見透かされたようでギクリとした。
乗り気では無いことが、彼にはバレてしまっていたのだろうか。
「逃げたりしませんよ。ご招待いただけて嬉しいです」
焦ったフランシーナは、ヴィヴィアナのアドバイス通りにっこりと笑ってみせた。
……けれど、これが果たして正しい対応であるのか、自分では分からない。
目の前のエドゥアルドといったら、僅かに目を見開いただけ。やっぱり正解が分からない。
「本当に? 誘ったこと……迷惑じゃなかった?」
「ええ。そんなはずありません」
「招待する意味、わかってる?」
「意味……」
フランシーナは、昨夜の女子寮会議を思い出した。
ヴィヴィアナいわく、男子寮へ特定の誰かを招待することには特別な意味があるらしい。
特別な意味――招待する動機。
今日は、フランシーナが贈ったお茶を一緒に飲もうというものだった。それ以外に、一体何の意味が……?
「お茶を……飲むため……ではないのですか?」
「……やっぱり、分かってないんだね」
エドゥアルドは、難しげに考え込むフランシーナに苦笑する。
笑われてしまったが、フランシーナには何が分かっていないのかも分からない。せめてヒントくらい欲しい。
「な、なにか違ってますか」
「いや、違わないよ。お茶を飲むために誘った。君と僕、二人でね」
意味深なエドゥアルドの隣を、何も分からないままゆっくりと歩く。
前回より話が弾んだからだろうか、男子寮までの道のりは短く感じた。
そのことは瞬く間に話題となり、学園中を駆け巡った。
しかも相手は、勉強の虫フランシーナ・アントン伯爵令嬢。
彼と特に親しいわけでもないあの女が、なぜ直々に招待されたのか――
「大丈夫よ、一位と二位のお二人だもの。どうせ試験対策でもするのでしょ」
講堂の片隅でそう憶測を立てているのは、エドゥアルドと親しい令嬢達である。
彼が歩けば後ろを付いて歩き、彼が立ち止まれば周りを囲んで止めどなく喋り続ける人達だ。
どうやらフランシーナは、彼女達から『大丈夫』――圏外であると思われているらしい。
「あの人が行っていいなら、私達も行ってみる?」
「談話室なら、女子も入っていいって聞いたわ」
こっそりと彼女達の話に耳をそばだてながら、ついつい感心してしまう。
エドゥアルドと、何をそんなに話すことがあるのだろうかと。
フランシーナなんて、この間の十分間だけでも会話に困ってしまったというのに。
彼が話題を振ってくれなければ、女子寮までの道のりを沈黙のまま歩き続けるところだった。
しかも今度は十分間なんて時間では済まされないだろう。
なにせ、男子寮まで招待されてしまったのだ。さっさとお茶だけ飲んで『はい、それではさようなら』なんて、常識的に考えて許されないに違いない。
実は今回も助けを求めて、親友であるヴィヴィアナに泣きついた。
一人きりで男子寮に行くなんてフランシーナにとっては試練に近いものがあって、できることならヴィヴィアナもついてきてくれないだろうか――そう頼み込んだのだ。
しかし彼女からはキッパリと断られてしまった。
男子寮の談話室へ特定の誰かを招待することには、特別な意味があるらしい。
『特別な?』
『……エドゥアルド様はフランシーナを個人的に招待したのでしょ? 私までついて行ってしまったらきっと不興を買ってしまうわ』
『でも、一人だと心細くて。私って勉強のこと以外、話すことも無いのよ』
『そんなの、フランシーナは『ご招待嬉しいです』ってにこにこしておけばいいのよ。それだけでエドゥアルド様はご機嫌よ』
そういうものなのだろうか。ヴィヴィアナの言葉からは自信すら感じられたが、笑っておくだけでいいなんてそんな簡単なことがあるだろうか。
半信半疑ではあるものの、口下手なフランシーナにはそうするほか無い。
幸い、エドゥアルド様と親しいご令嬢達も「行こうかしら」と言っているようだし、談話室にエドゥアルドと二人きりという状況も避けられるかもしれない。
そうなれば彼女達に話を任せれば良いのでは――
約束は今日の放課後だ。
少し胸が軽くなったフランシーナは、他力本願なままその時を待った。
◇◇◇
そして約束の放課後。
エドゥアルドは、わざわざフランシーナの教室まで迎えにやって来た。
ガラディア王立学園の男子寮は、女子寮から校舎を隔てた反対側に位置している。
もちろん場所は分かっているし、フランシーナ一人でも行けそうなものなのに。
「逃げられちゃうかもしれないでしょ?」
彼は笑えない冗談を言いながら、相変わらず爽やかに笑顔をつくる。
見透かされたようでギクリとした。
乗り気では無いことが、彼にはバレてしまっていたのだろうか。
「逃げたりしませんよ。ご招待いただけて嬉しいです」
焦ったフランシーナは、ヴィヴィアナのアドバイス通りにっこりと笑ってみせた。
……けれど、これが果たして正しい対応であるのか、自分では分からない。
目の前のエドゥアルドといったら、僅かに目を見開いただけ。やっぱり正解が分からない。
「本当に? 誘ったこと……迷惑じゃなかった?」
「ええ。そんなはずありません」
「招待する意味、わかってる?」
「意味……」
フランシーナは、昨夜の女子寮会議を思い出した。
ヴィヴィアナいわく、男子寮へ特定の誰かを招待することには特別な意味があるらしい。
特別な意味――招待する動機。
今日は、フランシーナが贈ったお茶を一緒に飲もうというものだった。それ以外に、一体何の意味が……?
「お茶を……飲むため……ではないのですか?」
「……やっぱり、分かってないんだね」
エドゥアルドは、難しげに考え込むフランシーナに苦笑する。
笑われてしまったが、フランシーナには何が分かっていないのかも分からない。せめてヒントくらい欲しい。
「な、なにか違ってますか」
「いや、違わないよ。お茶を飲むために誘った。君と僕、二人でね」
意味深なエドゥアルドの隣を、何も分からないままゆっくりと歩く。
前回より話が弾んだからだろうか、男子寮までの道のりは短く感じた。
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