やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜

文字の大きさ
4 / 29

他人事……ではいられない

しおりを挟む
「お茶! 普通、座ったらすぐ用意するものでしょ!」
「お義姉さまったら本当に気が利かないわね。早く持ってきてよ」
 
 ソルシェ家は、この日も殺伐とした雰囲気が漂っていた。
 イライラと眉間に皺を寄せる義母、乱暴な音を立てて椅子へ腰を下ろすミルフィ。
 命ぜられて淹れたお茶にも「熱い」「ぬるい」と文句をつけられ、お茶菓子として出したクッキーにも「甘過ぎる」「固過ぎる」と言いたい放題……その機嫌の悪さにはもう手のつけようがないくらいだった。
 
 また、八つ当たりする為だけに呼ばれたのだ。察した私は、ただただその時間をやり過ごすしか無かった。

「まったく……どいつもこいつもミルフィの魅力が分からないなんてどうなってるのかしら」
「もういいわ、お母様。あんな男こちらからお断りよ」
「そうね。ミルフィにはもっと条件の良い男が現れるわ」
 
(もしかして、今日も縁談が断られてしまったのかしら……)

 私は、黙って時間が過ぎるのを待った。けれど、まったく無意味な時間だ。こんな時間があるのなら、洗濯を畳みたいし買い出しにも出かけたい。そのあと、掃除を念入りにやっておいて……そうすれば明日にはまたブレアウッドの森へ行く時間がとれるかもしれないのに。
 こうして耐え忍ぶより、よっぽど有意義な時間の使い方だ。
 
 彼女達にはお茶も出したし、お菓子も用意したし、もう私がここにいる必要も無い気がする。二人が縁談相手の悪口に花を咲かせているそのうちに、私はさりげなく部屋を抜け出そうとした。

「待ちなさいよネネリア。どこ行こうとしているの」

 しかし義母にはバレてしまっていたようで、イライラとした声色で退室を止められてしまった。まだ八つ当たりが足りないとでもいうのだろうか。思わず、小さなため息が口から漏れる。

 そんな私の姿を、ミルフィが睨んでいる。そして彼女は、なにか思いついたかのようにニヤリと笑った。
 
「……ねえ、お母様。精霊守はどうかしら」
「精霊守? 森に住むアレンフォード家の?」
「そうよ。とっても綺麗な顔しているっていうわ。だったら私の相手にもピッタリなんじゃないかしら」
「何を言ってるのミルフィ。あの男見た目はいいけど、実は変わり者って言うわよ。森からあまり出なくて人嫌いとも聞くし……」
「でもたしかお義姉さまとは知り合いなのよ。ねっ、お義姉さま!」

 突然、話を振られ、私は言葉に詰まった。
 ミルフィがあまりにも突飛なことを言い出すものだから。 
 
「え……? 何を言っているの?」
「とぼけないでよ。お義姉さまはあのルディエル・アレンフォードと知り合いなんでしょ? 森に入り浸っているようだし……ねえ、紹介してよ。条件次第で結婚も考えるから」

(条件次第で、って……)
 
 どこまでも“選ぶ側”として、ミルフィはルディエル様に目をつけた。
 歳を重ねるごとに魅力も増し、ますます磨きのかかるルディエル様。街ではファンも増える一方で、ミルフィはその評判を聞いていたのかもしれない。

 しかし、アレンフォード家は国も認める精霊守の一族だ。我がソルシェ家が選べる立場であるはずもないのに……まさかそこまで身の程知らずだったなんて。

(私には関係の無いことだけど……ミルフィだけには近づいて欲しくないわ)
 
「……ルディエル様は、近いうちにご結婚を考えていらっしゃるようよ」
「だから、私が立候補してあげようかって言ってるの!」
「いえ、もう決まったお相手がいらっしゃるみたいなの」

 ルディエル様に、このミルフィを会わせるなんてとんでもない。きっぱりと『ミルフィが付け入る隙は無い』という意味で伝えたつもりだったのだけれど……
 機嫌を損ねたミルフィは、その大きな瞳でこちらを睨んだ。

「その相手って、まさかお義姉さま……ってことは無いわよね?」
「そ、そんなことあるわけ無いでしょう!」
「そうよね。一瞬疑っちゃった! こんな冴えないお義姉さまが、あのルディエル・アレンフォードに選ばれるはずないものね」

 ミルフィの言葉が、いちいち胸に突き刺さる。
 彼女の言う通り、私がルディエル様に選ばれるはずはない。分かりきってはいるけれど、改めて言葉にされると傷付いている自分がいた。

「じゃあ、その“お相手”って一体誰なのかしら。私より可愛い子って、この街にいたかしら」
「さあ……私にはそこまで詳しいことは分からなくて」
「じゃあ聞いてきてよ! 知り合いなんでしょ!?」
「え……」
「お義姉さまが聞かないなら私が聞きに行くから! いいの?!」

(それは嫌だわ……)

 とてもじゃないけれど、こんなミルフィをルディエル様に会わせたくはない。結局私は、彼女のわがままに頷いた。

 
 
「俺の結婚相手を知りたい?」
「はい。でも、無理にとは言いません。失礼を承知の上なので……」

 今日もアレンフォード家の屋敷では、ルディエル様と精霊達が迎えてくれる。その笑顔を見るだけで、私のささくれた心は癒された。
 
 精霊たちによって運ばれてきたお茶は、ほのかに甘い花の香りがしてとてもおいしい。これはルディエル様により「ネネリアが好きそうだったから」と、用意されたお茶だった。
 ルディエル様達の心遣いがあたたかい。そんな手厚いおもてなしを受けておきながら、私はこんなにも無神経なことを尋ねてしまっていた。

「すみません。ミルフィ……私の義妹が、ルディエル様に興味を持ってしまって」
「君の義妹が、俺に?」

 ルディエル様は、怪訝そうに目を細めた。
 詮索をされ、当然といえば当然だがあまり気分は良くないようだ。
 
「ミルフィに諦めさせるためにも、ルディエル様には決まったお相手がいると伝えたのです。すると今度はそれが誰なのか知るまで納得しなくて……」
「……待ってネネリア。君は俺の“相手”が誰なのか、本当に分からない?」

 ルディエル様は突然焦りだした。
 しまった。やはりこんな話題持ち出すべきじゃなかった。私なんかが軽々しく踏み込めるものではなかったのに。

「は、はい。分かりません」
「全く? 少しも?」
「ええ」
「もしかして……とも思わない?」
「何のことですか?」

 私が問い返すと、ルディエル様はなぜか深く息を吐き、しばし沈黙してしまった。
 怒らせてしまっただろうか。もしかしたら、この話題に触れたこと自体が無礼だったかもしれない。ミルフィの軽薄な興味を持ち込んだのがそもそも間違いだった。

「すみません……やっぱり忘れてください。私が軽率でした。デリケートなことなのに、無遠慮に聞いてしまって――」
「なぜ、そんなに他人事なの」

 わたしが頭を下げたその時、ルディエル様の手がスッと伸び、私の腕を掴んだ。
 驚いて顔を上げると、彼はまっすぐにこちらを見ている。

「ルディエル様……?」
「ネネリアは、知らない誰かと俺が結婚しても気にならない?」

 その声は静かで優しいものだったけれど、どこか切なげな響きを帯びていた。
 こんなルディエル様は初めてだ。どうして寂しそうな顔をするのだろう。お屋敷の模様替えだって、やる気に満ちていらっしゃったのに。
 
 握られた手には、だんだんと力がこもる。
 ルディエル様の本意が分からず、どうしていいのか分からない――
 
 戸惑っている私をよそに、そばで聞き耳を立てていた精霊達はなにやらひそひそと話をしている。
 そのうち一匹の精霊がイタズラな笑みを浮かべ、扉のほうへ飛んでいった。

(……? 嫌な予感がするわ……?) 
  
 一瞬目が合った、その笑みはなんだか意味深で。精霊は突然コトリと音を立て、扉に吸い込まれるように消えていった。
 まるで、こっそりと秘密を残して去っていくように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います

***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。 しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。 彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。 ※タイトル変更しました  小説家になろうでも掲載してます

緑の指を持つ娘

Moonshine
恋愛
べスは、田舎で粉ひきをして暮らしている地味な女の子、唯一の趣味は魔法使いの活躍する冒険の本を読むことくらいで、魔力もなければ学もない。ただ、ものすごく、植物を育てるのが得意な特技があった。 ある日幼馴染がべスの畑から勝手に薬草をもっていった事で、べスの静かな生活は大きくかわる・・ 俺様魔術師と、純朴な田舎の娘の異世界恋愛物語。 第1章は完結いたしました!第2章の温泉湯けむり編スタートです。 ちょっと投稿は不定期になりますが、頑張りますね。 疲れた人、癒されたい人、みんなべスの温室に遊びにきてください。温室で癒されたら、今度はベスの温泉に遊びにきてくださいね!作者と一緒に、みんなでいい温泉に入って癒されませんか?

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた

小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。 7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。 ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。 ※よくある話で設定はゆるいです。 誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...