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秋葉夕雲

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第三章

152 油断王

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 Ω\ζ°)チーン。
 や、ふざけている場合じゃない。現在洞窟に避難中。せっせと入り口を塞いでラプトルが通れないようにしている。幸い追撃はしてきていないけど、ラプトルのわけわからない感知能力の高さを考えれば見失ってくれたとは思えない。
 その間にちゃんと敗因を明らかにしないと。また負けるのは嫌だ。……正直部下に部下を撃たせるような指示を出すのはあまり気持ちよくはない。正しい判断だったことは間違いないけど。
 こうなると兵隊が蟻だけだったのは良かったかもしれない。他の魔物も混じっていれば味方撃ちをすると後々もめたかもしれない。その点蟻はオレに絶対服従だからありがたい。もちろん無駄死にさせていいはずはない。
 さてまず間違いないことを一つ。
 オレは油断していた。
 もーこれだけは間違いない。蜘蛛との戦いが圧勝だったからか? ラプトルがあまりにも都合よく現れたからか? 調子に乗ってしまっていた。学ばねーなーオレは。いつもいつも図に乗るとすぐ失敗するのに。
 というかもしかしてオレ、自分たちが有利な状況で負けるのって初めてなんじゃないか?
 負けたことは何度もあるけど、そういう時は相手が圧倒的強かったりそもそも準備が整っていなかった時だ。格上相手でも罠や策で勝利を収めたこともある。しかし格下から策で上回られたのは初めてだ。そっか、だからこんなにショックを受けたんだ。ざっくり言えば頭の巡りの良さで負けたってことだから。
 戦略的有利を戦術でひっくり返されたってことか。……これ、あっちが主人公なんじゃ……? いやいやそんなことはない。
 細かい敗因は、数の力とファランクスを過信しすぎたこと。ファランクスはちゃんと厚みがないと敵の突進を受けきれない。
 弓だってそうだ。当たり前だけど弓は魔法と違って弾に制限がある。野戦ならなおさら。……そういえばオレが長期的な戦いを経験したことがあるのは籠城戦が多かった気がする。野戦経験が不足していたのも敗因か。
 それと並行して乱戦の経験も足りなかった。
 ……結局のところ準備不足であるにも拘わらず数でごり押ししようとしたことがいけなかった。
 さてこれまでは自分たちの……いや、オレの失敗。
 ラプトルたちの強さについても考えないと。
 魔法の威力や個体の戦闘力は戦闘前の見立て通りだった。予想が外れたのは敵の連携力。これについては今まで戦ったどの魔物と比べても巧みな戦術を駆使していた。強いて相手になりそうなのはトカゲか蛇くらいか?
 そしてさらに謎の探知能力。夜にあれだけの距離感を把握しているのは異常事態とさえ言える。
 極めつけがオレたちの武器や戦術をおおよそ把握していたこと。例えばオレたち以外にファランクスや弓矢を使う魔物がいたならそれでいい。ありえないとは思わない。
 もっと厄介なのは、本当に致命的なのは、ラプトルにオレと同じような転生者がいた場合だ。
 オレたちの弓や、戦術を見て転生者がいると全く予想しない奴はいないはずだ。ましてやオレは攻撃を受ける直前に会話を行おうとしていた。まっとうな地球人なら会話くらいするだろう。
 もちろん一介の兵士にすぎず、交渉を行う権限がないのかもしれない。
 しかしまあなんだ。オレなんかでも数千以上の魔物が暮らすコミュニティを作れるんだぞ? 地球の、少なくともごく普通の日本人ならこの程度は誰だってできるはずだ。たかだか二百頭のラプトルのトップに立つことなんか容易いだろう。つまりもしも転生者がいた場合確信犯としてオレに攻撃を仕掛けた可能性が高い。
 やだなあ、心理的な壁はあるけどそれ以上に戦い方を読まれるのがまずい。しかしどうにもできないのが現状。ひとまず籠城戦に突入する以外の選択肢が思いつかなかった。



 そして、数時間後。
 外に残してきた偵察兵から報告を受けると、ラプトルは洞窟から数百メートルのあたりで休息をとっていた。いつでも襲いかかれる距離だ。うわあい、しっかりバレてやがる。攻め込んでこないのはいつでもやれる自信があるからなのか、城攻めのリスクを理解しているからなのか。
 援軍無しの籠城は下策なんて言われるかもしれないけど、そんなわけない。普通に考えて籠城戦は圧倒的に守る側が有利だ。それにこのラプトルたちは準備が足りていない。
 食い物は仕留めた蟻や豚羊があるから数日はもつだろう。しかしこの巣には食料をかなり運んである。例え豚羊を含めても十日はもつ。その時間があればいくらでも打てる手はあるし、そもそもラプトルが諦める可能性だって高い。真正面からの戦いなら不利かもしれないけど持久戦ならこっちの得意分野だ。
 肉食なら食い扶持を維持するのは簡単じゃないし、水は草原じゃ簡単に調達できない。水場までいちいち往復してたらそれだけで日が暮れる。水がなければ生物は生きれない。ふ、やはり戦場を制するのは戦術ではなく、事前の準備だ! さあお前たちは――――

「紫水」
「ん? 何?」
 なんか籠城中の七号から連絡があった。
「水が少ない」
「ぱーどぅん?」
「水が少ない」
 …………はあ!?
「ちょっと待て!? 水場はまず最初に作るはずだろ!?」
「うん。でも井戸を作ったのは洞窟の外」
 ……や、やっちまった。
 この巣には海老もいる。それゆえに水の位置を探り当てて効率的な井戸掘りができる。しかし、洞窟の中に井戸に適した場所がなかったから外に井戸を作った。それはいい。
 が、急いで籠城の準備をしたために井戸を巣の内部に作っていないことを忘れてしまった。こうなる前にオレが一言注意するべきだったかもしれない。
 やべ、詰みかけてません? 水抜きの籠城とかバッドエンド一直線じゃないですか。一応何人か海老がいるから多少の水は確保できるし、貯水槽がないわけじゃないけどそれがどこまでもつかは計算しないとわからない。
 しかしラプトルが井戸に気付けば敵はしばらく水に不自由しない。わ、笑えない。奪われることは失うことよりも手痛い失敗だ。
 しかもこの巣は着工してから時間がたってない。抜け道や逃げ道を用意できていない。つまり下手をすると今巣にいる数百匹の味方と豚羊は仲良くご臨終。最悪だ。
 何とかして、至急、対策を練らなければ。
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