うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第14話 母と子

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 五月と同じように水たまりを踏んでしまった葵もまた、過去の世界に場面が移った。
「これもしかして……水に触れると過去に飛ばされる感じ? いや、何がしたいのよ? でも、少なくとも水に関わるギフトの可能性はかなり高くなったわね」
 ちらちらと周囲を眺める。
 一般住宅……だと思う。だが見覚えはない。それどころかやや異国情緒を感じる。
「やっぱりこれ、五月の記憶よね。……なら、ちゃんと見ておかないとね」
 目を細め、目の前の少女……おそらく過去の五月をよく見る。
 今とは違い髪が長かった。服装は……ふわふわした、人形のような服を着ていた。
 その少女がしゃべる。
『お母さん』
 くるりと振り向いた女性は五月に似てとても美しかった。特にその流れる黒髪はオニキスのように輝いていた。
 もちろん、顔が認識できない葵はそんなことは想像さえしなかった。
『あのね、お母さん。一緒に……』
『いい加減にしなさい!』
 いきなりのヒステリックな怒鳴り声に過去の五月はもちろん葵は驚き、ハーネスにつないでいたさつまも思わず飛びのいた。
(あー、そういえばお母さんと上手くいってなかったみたいなこと言ってたような)
『どうして言うことを聞いてくれないの!? 私に話しかけないで!』
『ご、ごめんなさい……』
 泣きそうな声で……否、実際に瞳に涙を湛えていたが……それを流すことなく過去の五月は謝った。
 それを見ていた五月の母親も黙り込み、足早に去っていった。
「……取り付く島もないって感じね。んー……過去にいる本人にとってトラウマになった場面が映し出されるのかしら。マジで何の意味あんのよ。わたし自身の過去ならともかく……いや、もしかして本来ならわたしの過去が映されるのかしら。だったら、もしかして五月もここにいるのかしら」
 ぐらりと景色が揺れる。
 少女も、その母親が去っていった部屋も砂糖菓子のように消えていく。

 そして再び玄関の先に戻った。
「さつまは……うん、ちゃんといるわね」
 何があったの? と言わんばかりにこちらを見上げているさつまを撫でてから改めて当たりを観察する。
「水たまりがある場所はここだけ。……どう見ても罠よね。さつま。水には触っちゃだめよ」
 さつまはくりくりとした黄色の瞳をこちらに向けてくるだけだ。もちろんそれだけで心がほっこりする。
 改めて近所を散策する。
 おそらく記憶にある街並みと変わらない。ただし、妙なのは。
「入れない? さっきの家は入れたのに……」
 玄関のドアがあかない家とそうでない家があることだ。
 鍵がかかっているとかそういうことではなく、文字通りピクリとも動かない。
「何か入る条件みたいなものがあるのかしら……」
 家ごとになにか違いがないかよく見ようとして。
「んん!?」
 家の表札を見て、素っ頓狂な声をあげた。
 なにしろあまりにもわかりやすい異常があったのだ。
「表札に何も書いてない。もしかして……」
 急いできた道を戻る。
 自宅の表札、住所、極めつけは本の中身。
「この世界にあるもの、文字がない?」
 どうしてこんなわかりやすいものに今まで気づかなかったのかと呆れてしまいそうだ。近くに会ったペンを掴んでチラシの裏に自分の名前を書いたが、すぐに消えた。
 ここまで明確な異常なら必ず意味がある。
「ギフトによる制限もしくは条件。夢の中には文字そのものが存在してはならない。つまり、それって……」
『ぎゃはははは! ようやく気付いたか!』
 汚いだみ声が、いつの間にかポケットの中に入っていたスマホから聞こえた。
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