88 / 141
第二章
第27話
しおりを挟む
アパートから逃げ出した真子とククニが次に逃走先として選んだのは緑の会の本部だった。奇妙な人影を横切り、会議室に逃げ込む。ここには花瓶などがあるため相手に水をかけて行動不能にさせるという作戦を取りやすい。
ククニのギフトには、一定時間が経過するか相手に見つかるまで自室を動けないという制約があるため、アパートの近くにあるこの場所は二番目に戦いなれている場所だった。
「あ、あの人たち、追ってくるかな?」
「シュー。来るでしょうな。向こうはもうすぐ時間切れであると知りません。犬の鼻なら追うのは容易でしょう」
ククニのギフトは七時間が経過すると自動的に解除される。少なくとも脱出するだけなら葵たちは何もしなくても可能だ。
「そ、それならここで迎え撃とう。……ば、バリケードとかは意味ないよね……ゴリラだし」
「おそらく猫の方がオーナーを強化するギフトでしょう。直接我々を攻撃しないところを見ると物体を破壊するギフトか何かでしょうな」
その推測は誤っているが、葵がわざと自分のギフトを目立つように戦っていたから気づかないのも無理はなかった。
『ネブラ』
どこかから言葉が響く。位置がわからない相手がアクションを行った場合、声の方向が判別できないが宣言されたことだけは理解できるようになっている。
「ん? あれ? これ……」
きょろきょろと真子が辺りを見回すと部屋の視界が悪くなり、白く覆われていった。
「シュー。これは煙……いえ、霧ですかな?」
「あ、相手のスキル? ククニ。見える?」
「もちろんですとも。吾輩は……おや」
ククニが言葉を言い切る前に会議室のドアが吹き飛んだ。
「さあ! 追いかけっこは終わりよ!」
勢いのある言葉と共に葵が会議室に殴りこむ。
「や、やっぱりゴリラじゃん……」
「また言ったわね!?」
葵は手近な机を掴んで放り投げる。ギフトの不発を避けるために真子とククニには当たらないようにしたものの、霧を貫いて壁に机が突き刺さる。はたから見れば尋常ならざる怪力であるためゴリラ呼ばわりも仕方がな
「五月! なんか言った!?」
「気のせいでしょう。アポロ。あなたも行ってください」
「はいですワン!」
アポロは霧をものともせず、机をすり抜けるようにククニたちに突進する。
「申し訳ありませんがそこを通すわけには行きませんな」
ククニの宣言と共に机の裏側や足に潜んでいた蛇がアポロにとびかかる。スキルで生み出されたかりそめの蛇をあらかじめ配置しておいたのだ。
蛇たちはアポロの顔面だけを集中的に狙っていた。
アポロのギフトは四肢を再生する能力だと判断しており、事実としてアポロのギフトでは内臓や脳は再生できない。
複数匹の蛇に阻まれ、アポロも走りを止めた。
「『ルーガム』」
先ほどのアクションの結果で五月はスキルを一つ使用可能にした。そのカードをここで切る。
蛇たちはアポロの前足を叩きつけられるとぐしゃりとしわくちゃに折りたたまれ、消える。
だがしかし蛇の数はまだまだ多い。戦況の天秤はまだまだ定まっていない。
そうククニは予想したが、疑問が生じだ。
(妙ですな。吾輩に目くらましは通用しないと分かっているはず)
ピット器官は霧でも相手を『見る』ことができる。
ククニたちの居場所を見つけるまでにその事実に気づかなかったのだろうか?
疑問に答えたのは真子だった。
「ククニ! 何か近づいてる!」
真子の叫びと同時に、ぴちゃりと水の跳ねる音。
ククニがそれに気づいたときにはすでに遅かった。
液体化したさつまはすでにククニの近くに忍び寄っていた。
単純な理屈である。ピット器官は熱を感知する器官。さつまがギフトによって液体化した場合、温度は猫の体温ではなく室温とほぼ同等になる。ゆえに、熱力学的なステルス効果を発揮する。
スキルによって霧を出したのはピット器官に集中させるためだ。さらにあえて葵自身が派手に音を立てることで注意を逸らしていた。
そしてついに、さつまは敵を射程距離内に捉えた。
ククニのギフトには、一定時間が経過するか相手に見つかるまで自室を動けないという制約があるため、アパートの近くにあるこの場所は二番目に戦いなれている場所だった。
「あ、あの人たち、追ってくるかな?」
「シュー。来るでしょうな。向こうはもうすぐ時間切れであると知りません。犬の鼻なら追うのは容易でしょう」
ククニのギフトは七時間が経過すると自動的に解除される。少なくとも脱出するだけなら葵たちは何もしなくても可能だ。
「そ、それならここで迎え撃とう。……ば、バリケードとかは意味ないよね……ゴリラだし」
「おそらく猫の方がオーナーを強化するギフトでしょう。直接我々を攻撃しないところを見ると物体を破壊するギフトか何かでしょうな」
その推測は誤っているが、葵がわざと自分のギフトを目立つように戦っていたから気づかないのも無理はなかった。
『ネブラ』
どこかから言葉が響く。位置がわからない相手がアクションを行った場合、声の方向が判別できないが宣言されたことだけは理解できるようになっている。
「ん? あれ? これ……」
きょろきょろと真子が辺りを見回すと部屋の視界が悪くなり、白く覆われていった。
「シュー。これは煙……いえ、霧ですかな?」
「あ、相手のスキル? ククニ。見える?」
「もちろんですとも。吾輩は……おや」
ククニが言葉を言い切る前に会議室のドアが吹き飛んだ。
「さあ! 追いかけっこは終わりよ!」
勢いのある言葉と共に葵が会議室に殴りこむ。
「や、やっぱりゴリラじゃん……」
「また言ったわね!?」
葵は手近な机を掴んで放り投げる。ギフトの不発を避けるために真子とククニには当たらないようにしたものの、霧を貫いて壁に机が突き刺さる。はたから見れば尋常ならざる怪力であるためゴリラ呼ばわりも仕方がな
「五月! なんか言った!?」
「気のせいでしょう。アポロ。あなたも行ってください」
「はいですワン!」
アポロは霧をものともせず、机をすり抜けるようにククニたちに突進する。
「申し訳ありませんがそこを通すわけには行きませんな」
ククニの宣言と共に机の裏側や足に潜んでいた蛇がアポロにとびかかる。スキルで生み出されたかりそめの蛇をあらかじめ配置しておいたのだ。
蛇たちはアポロの顔面だけを集中的に狙っていた。
アポロのギフトは四肢を再生する能力だと判断しており、事実としてアポロのギフトでは内臓や脳は再生できない。
複数匹の蛇に阻まれ、アポロも走りを止めた。
「『ルーガム』」
先ほどのアクションの結果で五月はスキルを一つ使用可能にした。そのカードをここで切る。
蛇たちはアポロの前足を叩きつけられるとぐしゃりとしわくちゃに折りたたまれ、消える。
だがしかし蛇の数はまだまだ多い。戦況の天秤はまだまだ定まっていない。
そうククニは予想したが、疑問が生じだ。
(妙ですな。吾輩に目くらましは通用しないと分かっているはず)
ピット器官は霧でも相手を『見る』ことができる。
ククニたちの居場所を見つけるまでにその事実に気づかなかったのだろうか?
疑問に答えたのは真子だった。
「ククニ! 何か近づいてる!」
真子の叫びと同時に、ぴちゃりと水の跳ねる音。
ククニがそれに気づいたときにはすでに遅かった。
液体化したさつまはすでにククニの近くに忍び寄っていた。
単純な理屈である。ピット器官は熱を感知する器官。さつまがギフトによって液体化した場合、温度は猫の体温ではなく室温とほぼ同等になる。ゆえに、熱力学的なステルス効果を発揮する。
スキルによって霧を出したのはピット器官に集中させるためだ。さらにあえて葵自身が派手に音を立てることで注意を逸らしていた。
そしてついに、さつまは敵を射程距離内に捉えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる