うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第30話 夢の結末

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「ククニ!」
 ぐらりと傾ぐ蛇を見て、悲鳴のような叫びをあげる真子。
 しかし駆け寄ろうとする真子よりも速く、黒い影がククニの体を捕らえた。アポロが素早くククニの胴体にかみついたのだ。
「動かないでください。アポロ……私のギフテッドがあなたの蛇を噛み殺しますよ」
 五月の冷酷な言葉に真子は悲壮な表情で、石のように固まった。
 オールインによってギフトの正体を暴かれた相手はギフトが大幅に弱体化し、スキルも使用不能になる。
 ククニのギフトは夢に引きずり込むギフト。それゆえにスキルが使用できなければ身を守る手段は自分の肉体しかない。
 だがククニにドーベルマンから身を守れるほどの運動能力はない。ましてやオールインで衝撃を受けた直後では無理もない。
「それじゃあこの世界から脱出する方法を教えてもらうわよ。オールインでも駄目だったんだから何か方法があるはずよね」
『簡単だぜ。あとニ十分くらい待ってりゃいい』
 ラジカセからいつもの汚い声が聞こえた。
「ら、ラプラス!? なんで教えるの!?」
『けっけっけ。こいつのギフトがオールインで影響を受けにくい代わりだよ。このギフトについて説明する義務がある』
 今までククニにオールインが成功したことはなかったのだろう。真子はひどく狼狽していた。
「つまりこのギフトは時間制限があるのね?」
 ラジカセをぎろりとにらみながら質問したのは葵だ。
『ああ。もちろんこの蛇を殺してもギフトは解除される。ついでに言うと今なら蛇だけはダメージを受ける状態だ。さらにギフテッドがこの世界で殺害されても現実じゃただの動物に戻るだけだ』
 少しホッとする。
 敵とはいえペットを殺すのは忍びない。ギフテッドとしての記憶や力を失うとはいえまだ人生……いや、蛇生は続くのだ。
「ですがこのままでは皆様の記憶も失われますな」
 ぽろりと衝撃的な発言をこぼしたのはアポロにくわえられたククニだった。
 つかつかと彼に歩み寄り、問いただす。
「どういう意味?」
「言葉通りの意味かと。吾輩のギフトが消失するとこの夢の中での記憶はすべて失われるのですよ」
「ラプラス。この発言は本当?」
『ああ。てかそもそもここで嘘はつけねえよ』
 ち、と軽く舌打ちした。
 いつの間にか隣にいた五月に耳打ちした。
「五月。ちょっとあの子とククニの間に立ってて」
 五月は頷くと一人と一匹を遮るような立ち位置に移動した。
 それを確認してやや声をひそめる。
「どういうつもり?」
「どうも何も言葉通りですとも。あなたはこの緑の会を快く思っていないのでしょう? 記憶が消えるのは困るでしょう?」
 事実である。
 この偽善者の利益団体をことごとく皆殺しにしたい程度には嫌いだ。それを糾弾する証拠はこの夢の中の記憶にしかない。どうやら今までの反応で見抜かれたらしい。
 が、それはそれ。
「別にあんたを倒してここを抜け出してもいいのよ」
「もちろんそれも構いませんが、吾輩としては心残りがあるのですよ」
「……あの子ね?」
「はい。真子はうじうじしていて優柔不断でどうしようもない人間ではありますが吾輩を救ったのですな。ならば吾輩も彼女を救う義務がある」
「どうするつもりよ」
「彼女自身で彼女の母親に三下半を叩きつけるのが最善でしょうな。事情はもうご存じでしょう? お嬢さんの母親をどうにかしていただけるのなら吾輩自らギフトを解き、記憶は引き継がれます。その後はお好きなようになさればよろしい」
 真子の過去は垣間見たが、親の馬鹿のせいで人生がめちゃくちゃになりかかっているのは想像に容易い。とはいえ露骨な虐待をされているわけではないので他人が介入しづらい。
 それでも彼女自身が行動すれば何か変わるかもしれない。
 ……しばし考えていた葵はククニに呟いた。
「痛いのは平気?」
「かまいませんとも」
 立ち上がり、再び五月に耳打ちした。
「良い警官悪い警官よ。知ってるわね?」
「それはまあ……あなたまさか」
 その時の葵の表情は悪魔のように底意地の悪そうな笑顔だった。
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