95 / 141
第二章
第34話 ナイススイング
しおりを挟む
「あら。悪くない右ストレートね。母親がまっすぐぶっ飛んだわ」
葵と五月は思わずにらみ合いを止めて親子の動向に注目する。
「……これで一応目論見通りですか?」
「そうね。結果オーライよ」
「ですが……これでいいのでしょうか」
「いいんじゃない。っていうか、あの子ちゃんとガス抜きしてないと、下手すると母親殺してたわよ?」
「……」
五月は答えられなかった。
確かに今の真子の剣幕はそうとしか思えない迫力があった。
尻もちをつき、殴られた頬を押さえる真子の母親は何が起こったのか理解できていないようだった。
そんな母親を血走った眼で見下ろす真子。
感情をぎりぎりで抑えた声で母親に質問を始める。
「お母さん。あたしがき、霧吹きの水捨てちゃったときのことお、覚えてる?」
「え?」
質問の意味も内容もピンとこなかったのか、一瞬ぽかんとした。
「や、やっぱり覚えてないんだ。じゃあ、い、一から説明するね。あたしがあ、アイロンに使う霧吹きを、ま、間違って捨てたことあ、あったんだ。お母さんなんて言ったと思う?」
「え? それはもちろんきちんと話し合って……」
どご、と重い音が響く。今度は真子が母親を蹴っ飛ばした。
「そんなことするわけないじゃない! お、お母さんはずっと怒ってばっかりだった! あたしがわざとじゃないって言っても、ちゃ、ちゃんと洗っておけって言われたからそうしようと思っただけだって言っても、ぜ、全然聞いてくれなかった!」
蹴り飽きたのか椅子を掴んで母親に叩きつける。母親の顔は行き過ぎた漫画表現のようにぐにゃりとねじ曲がったが、すぐに元通りになる。
「何を言ってるの!? 私があなたを怒ったことなんてあるわけないでしょう!?」
母親の怒号を聞いた二人は。
「いや、ありえないでしょそれ。誰だって怒ることくらいあるじゃない」
「そもそも子供を一度も怒ったことのない親というのもそれはそれで問題でしょう。怒ると叱るは違うと言いますがそれを理解できているようには見えません」
呆れが混じったため息を出す。もう二人は完全に傍観モードだった。
「お、お母さんはいつも怒ってばっかり! 自覚無いの!?」
プロレスの試合のように椅子を大きく振り上げ、叩きつける。
完全に主導権は真子に会った。
「アレルギーがあるあなたのためにお弁当を作ってあげてるの誰だと思ってるの!?」
「そ、それは感謝してるよ!? でもあれってす、スーパーで買った野菜切って詰めてるだけじゃない!」
いやそれもうお弁当じゃないでしょ、とは葵の呟きだった。
娘が本気の怒りを見せていることをようやく理解できてきた母親の表情は醜悪に歪み、現実を否定するような言葉を吐き出す。
「真子をどこにやったの!? あの子がこんなこと言うはずないわ!?」
「こ。これがあたしだよ! お母さん、ずっと、あたしのことみ、見ようとしなかったじゃない! ず、ずっとこんなとこ嫌だって、も、もうやめたいって、お父さんに会いに行こうって、い、言ったのに!」
「あの男のはな」
言葉が終わるよりも先に真子が振りまわす椅子に頭を吹っ飛ばされる。
「話はしないで! それにこの緑の会は私に居場所をくれたのよ! どうしてわからないの!?」
「い、居場所!? お、お母さん知らないの!? 聞こえてないの!? みんなお母さんのこと間抜けだって、体のいい財布だって、陰口叩いてたよ!?」
耳いいのかしら、と葵は呑気に考えていた。
「そんなこと言うわけないでしょう! 私の家族が!」
ついに逆上した母親は真子にとびかかった。
「お、お母さんの家族は、わ、私じゃないのかって、い、言ってんだよおおおおおおお!!!!」
真子はメジャーリーガーばりのきれいなスイングで母親を吹き飛ばす。これが現実ならもう十五回くらいは死んでいるだろう。
ごろごろと会議室の床を転がった母親はついに動かなくなった。
葵と五月は思わずにらみ合いを止めて親子の動向に注目する。
「……これで一応目論見通りですか?」
「そうね。結果オーライよ」
「ですが……これでいいのでしょうか」
「いいんじゃない。っていうか、あの子ちゃんとガス抜きしてないと、下手すると母親殺してたわよ?」
「……」
五月は答えられなかった。
確かに今の真子の剣幕はそうとしか思えない迫力があった。
尻もちをつき、殴られた頬を押さえる真子の母親は何が起こったのか理解できていないようだった。
そんな母親を血走った眼で見下ろす真子。
感情をぎりぎりで抑えた声で母親に質問を始める。
「お母さん。あたしがき、霧吹きの水捨てちゃったときのことお、覚えてる?」
「え?」
質問の意味も内容もピンとこなかったのか、一瞬ぽかんとした。
「や、やっぱり覚えてないんだ。じゃあ、い、一から説明するね。あたしがあ、アイロンに使う霧吹きを、ま、間違って捨てたことあ、あったんだ。お母さんなんて言ったと思う?」
「え? それはもちろんきちんと話し合って……」
どご、と重い音が響く。今度は真子が母親を蹴っ飛ばした。
「そんなことするわけないじゃない! お、お母さんはずっと怒ってばっかりだった! あたしがわざとじゃないって言っても、ちゃ、ちゃんと洗っておけって言われたからそうしようと思っただけだって言っても、ぜ、全然聞いてくれなかった!」
蹴り飽きたのか椅子を掴んで母親に叩きつける。母親の顔は行き過ぎた漫画表現のようにぐにゃりとねじ曲がったが、すぐに元通りになる。
「何を言ってるの!? 私があなたを怒ったことなんてあるわけないでしょう!?」
母親の怒号を聞いた二人は。
「いや、ありえないでしょそれ。誰だって怒ることくらいあるじゃない」
「そもそも子供を一度も怒ったことのない親というのもそれはそれで問題でしょう。怒ると叱るは違うと言いますがそれを理解できているようには見えません」
呆れが混じったため息を出す。もう二人は完全に傍観モードだった。
「お、お母さんはいつも怒ってばっかり! 自覚無いの!?」
プロレスの試合のように椅子を大きく振り上げ、叩きつける。
完全に主導権は真子に会った。
「アレルギーがあるあなたのためにお弁当を作ってあげてるの誰だと思ってるの!?」
「そ、それは感謝してるよ!? でもあれってす、スーパーで買った野菜切って詰めてるだけじゃない!」
いやそれもうお弁当じゃないでしょ、とは葵の呟きだった。
娘が本気の怒りを見せていることをようやく理解できてきた母親の表情は醜悪に歪み、現実を否定するような言葉を吐き出す。
「真子をどこにやったの!? あの子がこんなこと言うはずないわ!?」
「こ。これがあたしだよ! お母さん、ずっと、あたしのことみ、見ようとしなかったじゃない! ず、ずっとこんなとこ嫌だって、も、もうやめたいって、お父さんに会いに行こうって、い、言ったのに!」
「あの男のはな」
言葉が終わるよりも先に真子が振りまわす椅子に頭を吹っ飛ばされる。
「話はしないで! それにこの緑の会は私に居場所をくれたのよ! どうしてわからないの!?」
「い、居場所!? お、お母さん知らないの!? 聞こえてないの!? みんなお母さんのこと間抜けだって、体のいい財布だって、陰口叩いてたよ!?」
耳いいのかしら、と葵は呑気に考えていた。
「そんなこと言うわけないでしょう! 私の家族が!」
ついに逆上した母親は真子にとびかかった。
「お、お母さんの家族は、わ、私じゃないのかって、い、言ってんだよおおおおおおお!!!!」
真子はメジャーリーガーばりのきれいなスイングで母親を吹き飛ばす。これが現実ならもう十五回くらいは死んでいるだろう。
ごろごろと会議室の床を転がった母親はついに動かなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる