うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第二章

第36話 後始末

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 カーテン越しに窓から差し込む朝日で目を覚ます。
 まどろみから覚めたばかりだとは思えないほど冴えた頭は確かに夢の記憶が残っていた。
「……まずさっきのあれがほんとにあったことなのか確認ね」
 パジャマを着替えるよりも先に裸足で寝室のドアを開ける。
 床を踏みしめると少しヒヤリとしたのでスリッパをはくことにする。
 ぺたぺたと朝の静けさを少しだけ揺るがす足音は逆方向からも聞こえてきた。それに加えてたち、たち、と人とは違う足音も伴っている。角を曲がると人間と犬、二人の顔が見えた。葵は状況的にそれが誰かを判断した。
「おはよ。五月。アポロちゃん。念のために聞くけど覚えてる?」
「真子さんのことですね。ええ。ちゃんと覚えていますよ」
「は! 記憶していますワン!」
「元気のいい返事ね。焦る必要はなさそうだし……着替えが先ね」
「……そうですね」
 五月と葵は急いでいたせいでいまだにパジャマだった。
「それにしても……」
「なんでしょうか?」
「意外と可愛らしいパジャマ着てんのね」
 五月が着ていたのはフルーツ柄のパジャマだった。
「その言葉、そっくりお返しします。いえまあ、イメージ通りと言えばその通りですが」
 葵も猫に塗れたパジャマ。恥ずかしがるでもなくむしろ堂々と胸を張っている。
 目線を衣服にあわせる二人に対して、アポロはふい、と視線を逸らした。



 それから朝食をとり、緑の会の本部の場所を改めて確認。そののち、特害対に連絡すると、すぐに応答があった。一時間で準備は終わるとのこと。
 五月曰く、『こういうときの準備の速さは個人ではまねできません』、だそうだ。
 そのまま二人で電車に乗り、予定より三十分ほど早く緑の会の本部に到着した。
 夢で見た通り、特に変哲の無い建物だったが……。
「……この、何? 変な音楽……」
 何とも奇妙な、それでいてギリギリ不愉快ではない音色が建物の奥から聞こえてくる。しかも時折歌声まで聞こえる。
「何ともやる気のなくなる旋律です。これも人心掌握の一種かもしれませんが……」
 二人は思わず真子に同情した。こんな環境に何年も置かれていたら頭がおかしくなりそうだ。
「お二人とも。来ましたワン」
 人間とは比べ物にならない感覚の鋭さで待ち人の到来を告げたのはアポロだった。ちなみに彼はギフテッドの誰にも見られない効果を利用して電車に堂々と乗っていた。さつまはキャリーバッグに入れている。
 緑の会から出てきた真子とぱちりと目が合う。
 一瞬彼女はほっとしたようだったが、はっとすると明後日の方向を向いた。
 おそらくは初めて会ったふりをしているのだろう。
 その演技に応えて五月と葵は人気のない場所まで移動した。

「改めてはじめまして、ね」
「は、はじめまして。でも、時間、あんまり、ない、です」
 真子は夢の中よりも視線が定まらず、おどおどとしていた。
「なら、すみませんけどこれを」
 五月が差し出したのはスマホの四分の一もない小さな板だった。
「えっと、な、なんですかこれ?」
「小型カメラです。何とかして虐待現場を撮影してもらえませんか?」
「あ、や、やっぱり証拠がいるんですね? と、特害対の人っていうのはどこに……?」
「待機してもらってるわ。いたら緊張するでしょあんた」
「ご、ご理解ありがとうございます……」
「撮影したら適当に窓から投げ捨ててください。アポロが回収します」
 ワン、と一声吠える。
「う、うん。お願いね」
 ギクシャクとした歩みで緑の会に向かう。
「大丈夫かしら……」
「大丈夫でしょう……多分」
 不安は消えないが、見守るしかできそうもなかった。
 そして三日後。
 葵、五月、真子の三人は、特害対の委員長に会うことになってしまった。
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