うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第三章

第11話 のこぎり

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 風でわずかに波立つ湖面の上に、奇妙な人魂が浮かんでいる。よく見ると影が見当たらないため、通常の物質ではないのだろう。
「これあれね。ゲームとかで出てきそうなシチュエーションね」
「あ、ほんとだ。って、そ、そうじゃなくて! あ、あれどうやってとるんですか?」
「簡単でしょ。さつま。行って」
 ぴょこんと飛ぶと液体になったさつまはすいすいとアメンボのように水面を泳ぎ始めた。
「私たちも攻撃されてるから代償なしでギフトが使えるのはありがたいわね」
 ほどなくしてさつまはの直下にたどり着くと今度はイルカのようにパシャリと水面を跳ねると人魂に触れた。
 するとぴろーんという安っぽい音が聞こえると湖面にこんな文字が浮かんだ。
『蛇は北の方にいるよ』
「……ゲームみたいなギフトね……でもこれで……」
「ええ。北に行きましょう。アポロ。まずは私たちが先に」
「はいですワン!」
 池の真ん中から帰ってくるのに時間がかかるさつまと、もともと足が速くない真子とククニを置いて五月たちは北に向かう。

 ドーベルマンの脚力を発揮したアポロは矢のごとく走る。
 まばらに樹が生える山道を潜り抜け、時折立ち止まりきょろきょろとあたりを見回しつつ臭いをかぐ。
 五月もこの戦いに加わってからそれなりに時間が経っており、意外にもアウトドア派のため、何とかついていけていた。
 そしてきらりと光るものを目の端に認めたアポロはぱっと飛び退った。
 尾を食らい、回転する蛇が飛来し手裏剣のように地面に突き刺さった。そしてそれは自ら意志を持つようにふわりと浮き上がり、態勢を整えているかのようだった。
「……『ベット』」
 戦闘が行われていることを認めた五月はためらいつつもアクションを行うことを選択した。
 これはスキルを使用可能にして蛇との戦いを優位にするというより、この状況でアクションが行えるかどうか確認したかったのだ。
 再び蛇が飛来し、アポロが避ける。
 蛇はそれほど速く動くわけではなく、片目が涙で見えづらくても回避できなくもないが、おそらくあの蛇をどうにかしなければこの試練は終わらない。
「『ルーガム』」
 そう五月が唱えると、アポロは飛来する蛇を回避することなく右前足を叩きつける。真っ赤な血がアポロの右前足から迸る。だが同時に、蛇はアルミホイルのようにしわくちゃになったかと思うと一気に粉々になった。
 相手を皺のようにぐちゃぐちゃにするスキル、ルーガム。それは正しく機能していた。
(つまりこの試練の間はアクションが可能。スキルも使えないわけではないようですね)
 ほどなくして、足音が聞こえてきた。
「五月。蛇はいた?」
「アポロが襲われたので反撃して破壊しました」
「こ、壊しちゃったんですか? でも、これで……」
『はーはっはっはっは! 残念ながら遅かったでし! 今回はご褒美はなしでし!』
 突然山の中に響いたのはデッシーの声だ。姿は見当たらないが、ある程度こちらの動向を把握しているらしい。
「んー、でも試練そのものは突破したのよね。じゃあ悪く見ても引き分けじゃない」
『な、何を言ってるでし! 負けは負けでし!』
「はいはい。わかったわかった。いい子ですねー」
『ば、馬鹿にしてるでし……でもいいでし。次の試練は今回よりもはるかに厳しくなるでし! なんとチーム戦でし! 十日後を楽しみにしておくでし!』
 そうデッシーが叫ぶと、しん、と山に再び静寂が戻った。
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