うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第三章

第15話 飛べ

 二組に別れた葵はひとまず空港をぐるりと一周した。
 移動の必要がない彼女はかなり時間に余裕があり、地形を把握しておくべきだと考えた。
 前回を参考にするなら、何かを探すことになるため、しっかり頭の中に地図を叩き込んでおきたかったのだ。
 方向感覚に自信がないからこそ、事前に把握しておくことが大事なのだ。
「私が今いるのが第一ターミナルビル。4階建てで見晴らしがいい。狙撃できる相手だとまずいわね。それ以上に面倒なのは……人が多いってことよね」
 思わずため息が出る。
 平日の空港だが、それでも人はかなり多い。
 このまま前の馬のような肉弾戦タイプのギフテッドと戦えば、間違いなく被害が大量に出る。それはさすがに気分が悪い。
 とはいえ相手がそんな気遣いをしてくれるのかどうかはわからない。
「まだ時間はあるけど……もう一回見て回ろうかしら。行きましょう、さつま」
 ケージを担いで歩き出す。
 上からの視界を確認したかったのでエレベーターに向かう。ここは二階で、上に上がるほど人が少なそうだった。
 あるいは、無意識的に人の少ないところで一息つきたかったのかもしれない。
 エレベーターの上がる、ボタンを押す。
 一階からこちらに上がってきた女生と目が合う。
 スーツ姿だったが、どうも気慣れていない空気がある。葵は人の顔を見分けられないがその分服装の違和感には敏感だった。
 だがそれ以上に、目を引いたのは彼女が持っている鳥籠だ。
 一羽の派手な色の鳥が、曲がりくねった止まり木でさえずっている。
(この人、どっち?)
 オーナーなのか。そうではなく、たまたまペットと一緒に旅行に来た一般人なのか。
 無関係の人間を傷つけるほど非常識ではないが、もしも敵のオーナーなら忠一とさつまの命がかかっているこの状況で見逃すのはありえない。
 判断の振り子が揺れる。
 その揺れを定めたのは耳を裂く鳴き声だ。
「フシャー!!!!」
 ケージの中のさつまが威嚇した。
 何らかの確信があるのか、それともただの偶然なのか。だがしかし彼女は世界で最も愛する猫の行動を信じることにした。
 素早くケージを開け、さつまを解き放つ。
 同時に相手から見えないようにソーイングセットを取り出し、ちくりと指を突き刺す。
 葵の判断はやはり正しかったのだろう。
 スーツ姿の女性は鳥籠を庇うように抱きかかえる。ちらりと横目で周囲の人物を観察するとこちらを気にする様子もない。
 つまり見えていない。善の神と悪の神の戦いは一般人には認識されない。
(オーナーとギフテッド確定! このまま攻撃!)
 まだ試練は始まっていないはずだが、たまたま遭遇した敵を逃す道理はない。
 さつまが液体化し、鳥籠、より正確には鳥籠の中にいる鳥めがけて襲いかかる。
 女性は必死でギフテッドを庇っているが、液体化したさつまを止められるはずもない。
「ピピー!?」
 派手な色の鳥は暴れ狂い、エレベーター内に羽が舞う。あと数秒もあればこの小鳥は陸上で溺死する。
 だがその寸前。
 女性は籠から手を放し、落下するよりも先にポケットからハンカチを取り出し、びりっと引き裂いた。
 次の瞬間に、私とさつまは空中に投げ出されていた。
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