145 / 162
第三章
第15話 飛べ
二組に別れた葵はひとまず空港をぐるりと一周した。
移動の必要がない彼女はかなり時間に余裕があり、地形を把握しておくべきだと考えた。
前回を参考にするなら、何かを探すことになるため、しっかり頭の中に地図を叩き込んでおきたかったのだ。
方向感覚に自信がないからこそ、事前に把握しておくことが大事なのだ。
「私が今いるのが第一ターミナルビル。4階建てで見晴らしがいい。狙撃できる相手だとまずいわね。それ以上に面倒なのは……人が多いってことよね」
思わずため息が出る。
平日の空港だが、それでも人はかなり多い。
このまま前の馬のような肉弾戦タイプのギフテッドと戦えば、間違いなく被害が大量に出る。それはさすがに気分が悪い。
とはいえ相手がそんな気遣いをしてくれるのかどうかはわからない。
「まだ時間はあるけど……もう一回見て回ろうかしら。行きましょう、さつま」
ケージを担いで歩き出す。
上からの視界を確認したかったのでエレベーターに向かう。ここは二階で、上に上がるほど人が少なそうだった。
あるいは、無意識的に人の少ないところで一息つきたかったのかもしれない。
エレベーターの上がる、ボタンを押す。
一階からこちらに上がってきた女生と目が合う。
スーツ姿だったが、どうも気慣れていない空気がある。葵は人の顔を見分けられないがその分服装の違和感には敏感だった。
だがそれ以上に、目を引いたのは彼女が持っている鳥籠だ。
一羽の派手な色の鳥が、曲がりくねった止まり木でさえずっている。
(この人、どっち?)
オーナーなのか。そうではなく、たまたまペットと一緒に旅行に来た一般人なのか。
無関係の人間を傷つけるほど非常識ではないが、もしも敵のオーナーなら忠一とさつまの命がかかっているこの状況で見逃すのはありえない。
判断の振り子が揺れる。
その揺れを定めたのは耳を裂く鳴き声だ。
「フシャー!!!!」
ケージの中のさつまが威嚇した。
何らかの確信があるのか、それともただの偶然なのか。だがしかし彼女は世界で最も愛する猫の行動を信じることにした。
素早くケージを開け、さつまを解き放つ。
同時に相手から見えないようにソーイングセットを取り出し、ちくりと指を突き刺す。
葵の判断はやはり正しかったのだろう。
スーツ姿の女性は鳥籠を庇うように抱きかかえる。ちらりと横目で周囲の人物を観察するとこちらを気にする様子もない。
つまり見えていない。善の神と悪の神の戦いは一般人には認識されない。
(オーナーとギフテッド確定! このまま攻撃!)
まだ試練は始まっていないはずだが、たまたま遭遇した敵を逃す道理はない。
さつまが液体化し、鳥籠、より正確には鳥籠の中にいる鳥めがけて襲いかかる。
女性は必死でギフテッドを庇っているが、液体化したさつまを止められるはずもない。
「ピピー!?」
派手な色の鳥は暴れ狂い、エレベーター内に羽が舞う。あと数秒もあればこの小鳥は陸上で溺死する。
だがその寸前。
女性は籠から手を放し、落下するよりも先にポケットからハンカチを取り出し、びりっと引き裂いた。
次の瞬間に、私とさつまは空中に投げ出されていた。
移動の必要がない彼女はかなり時間に余裕があり、地形を把握しておくべきだと考えた。
前回を参考にするなら、何かを探すことになるため、しっかり頭の中に地図を叩き込んでおきたかったのだ。
方向感覚に自信がないからこそ、事前に把握しておくことが大事なのだ。
「私が今いるのが第一ターミナルビル。4階建てで見晴らしがいい。狙撃できる相手だとまずいわね。それ以上に面倒なのは……人が多いってことよね」
思わずため息が出る。
平日の空港だが、それでも人はかなり多い。
このまま前の馬のような肉弾戦タイプのギフテッドと戦えば、間違いなく被害が大量に出る。それはさすがに気分が悪い。
とはいえ相手がそんな気遣いをしてくれるのかどうかはわからない。
「まだ時間はあるけど……もう一回見て回ろうかしら。行きましょう、さつま」
ケージを担いで歩き出す。
上からの視界を確認したかったのでエレベーターに向かう。ここは二階で、上に上がるほど人が少なそうだった。
あるいは、無意識的に人の少ないところで一息つきたかったのかもしれない。
エレベーターの上がる、ボタンを押す。
一階からこちらに上がってきた女生と目が合う。
スーツ姿だったが、どうも気慣れていない空気がある。葵は人の顔を見分けられないがその分服装の違和感には敏感だった。
だがそれ以上に、目を引いたのは彼女が持っている鳥籠だ。
一羽の派手な色の鳥が、曲がりくねった止まり木でさえずっている。
(この人、どっち?)
オーナーなのか。そうではなく、たまたまペットと一緒に旅行に来た一般人なのか。
無関係の人間を傷つけるほど非常識ではないが、もしも敵のオーナーなら忠一とさつまの命がかかっているこの状況で見逃すのはありえない。
判断の振り子が揺れる。
その揺れを定めたのは耳を裂く鳴き声だ。
「フシャー!!!!」
ケージの中のさつまが威嚇した。
何らかの確信があるのか、それともただの偶然なのか。だがしかし彼女は世界で最も愛する猫の行動を信じることにした。
素早くケージを開け、さつまを解き放つ。
同時に相手から見えないようにソーイングセットを取り出し、ちくりと指を突き刺す。
葵の判断はやはり正しかったのだろう。
スーツ姿の女性は鳥籠を庇うように抱きかかえる。ちらりと横目で周囲の人物を観察するとこちらを気にする様子もない。
つまり見えていない。善の神と悪の神の戦いは一般人には認識されない。
(オーナーとギフテッド確定! このまま攻撃!)
まだ試練は始まっていないはずだが、たまたま遭遇した敵を逃す道理はない。
さつまが液体化し、鳥籠、より正確には鳥籠の中にいる鳥めがけて襲いかかる。
女性は必死でギフテッドを庇っているが、液体化したさつまを止められるはずもない。
「ピピー!?」
派手な色の鳥は暴れ狂い、エレベーター内に羽が舞う。あと数秒もあればこの小鳥は陸上で溺死する。
だがその寸前。
女性は籠から手を放し、落下するよりも先にポケットからハンカチを取り出し、びりっと引き裂いた。
次の瞬間に、私とさつまは空中に投げ出されていた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【なろう490万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて490万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき100万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。