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第三章
第17話 転移と変異
五月とアポロは試練の場所に向かうために電車を乗り継ぎ、多少歩いてから畑に到着した。
関西国際空港は都心まではやや遠く、自動車なら一時間ほど移動するだけでのどかな田舎に到着する。
この畑もそんな田舎の空気に埋もれてしまいそうな場所だった。
「甘い臭いがしますワン」
「畑の近くに果樹園がありますからね。どうやらイチゴ刈りなどもやっているようですね」
遠くには緑の山々がそびえるその場所はのどかで、休日にピクニックに来るにはもってこいだっただろう。だが、今は戦いの時間だった。
それを証明するようにファンファーレが鳴る。
スマホの画面を眺めると試練の内容が表示されていた。
「この畑にある特別な果実を採取しろ……特別……何をもって特別と評するのか……」
「美味しいということではないのですかワン?」
「それは確かに特別ですが……救世教の特別な果実と言われると……やはりリンゴで……」
「あ、いた!」
五月は突然聞きなれた声を聴き、振り向いた。
そこにいたのは別行動中の葵だった。
「葵さん!? どうしてここに!?」
「敵のギフトに飛ばされたの! ワープさせるギフトみたい! あんたは無事!?」
近づいてくる葵は、焦っているようだった。
「もしかしたらあのワープのギフトで誘拐したのかしら……どっちにしても早く戻らないと試練に不合格になっちゃうわ」
そんな葵に対して五月はある違和感を口にした。
「あなたの猫はどこに行ったんですか?」
「わかんない。はぐれたみ……」
葵が言葉を言い終わるよりも先に、五月は葵の右手を掴み、捻るように相手を地面に向けて押さえつける。腕逆捕と呼ばれる、相手を捕まえるための技術だ。
「さ、五月様!? どうかしましたワン」
「そ、そうよ!? どうしたの!?」
「なら、答えてもらえますか? 私のギフテッドの名前は?」
「っ!」
葵は……否、葵の姿をした何者かは答えられなかった。
それを見てアポロも遅まきながら察した。
「ま、まさかこの葵様、偽物ですかワン!?」
「どうやらそのようですね。変身するギフトのようです。見た目はもちろん、体臭などもごまかしているのでしょう。そうでなければアポロが気づけるはずですし」
「ち、くそが」
葵の姿をした偽物は口汚くののしった。それは葵からあまりにもかけ離れて……いるかどうかは議論の余地があったものの、偽物であることを認めたも同然だった。
「どうして気づいた?」
「簡単です。葵さんが自分のギフテッドの心配より先に私の心配をするはずありません」
もちろん他にも相貌失認である葵が五月を見て声をかけたこと、もしも本物だったとしても葵のギフトで無傷であるはずだという確信があったからだ。
攻撃が通用した時点で完全な偽物だとわかったのだ。
「は! 友達甲斐のねえ奴だな!」
その挑発になぜか頭に血が上ったのか、捻り上げた腕に全力で力を込める。
すると葵の体から黒い小さなものがあふれ出す。
「これは……蟻!?」
「五月様! 離れてくださいですワン!」
アポロが虫の群れに対して前足を叩きつける。数匹の虫がつぶれるが、いかんせん大量の虫のうちの一匹に過ぎない。
げらげらと笑う声が聞こえる。
「あはあはっははは! 俺たちはグループ型の蟻だ! 一匹や二匹潰されたところでどうってことねえよ!」
ぞぞぞ、と人によってはおぞけが走るような黒い群れは一斉に畑の土に紛れるように消えていった。
関西国際空港は都心まではやや遠く、自動車なら一時間ほど移動するだけでのどかな田舎に到着する。
この畑もそんな田舎の空気に埋もれてしまいそうな場所だった。
「甘い臭いがしますワン」
「畑の近くに果樹園がありますからね。どうやらイチゴ刈りなどもやっているようですね」
遠くには緑の山々がそびえるその場所はのどかで、休日にピクニックに来るにはもってこいだっただろう。だが、今は戦いの時間だった。
それを証明するようにファンファーレが鳴る。
スマホの画面を眺めると試練の内容が表示されていた。
「この畑にある特別な果実を採取しろ……特別……何をもって特別と評するのか……」
「美味しいということではないのですかワン?」
「それは確かに特別ですが……救世教の特別な果実と言われると……やはりリンゴで……」
「あ、いた!」
五月は突然聞きなれた声を聴き、振り向いた。
そこにいたのは別行動中の葵だった。
「葵さん!? どうしてここに!?」
「敵のギフトに飛ばされたの! ワープさせるギフトみたい! あんたは無事!?」
近づいてくる葵は、焦っているようだった。
「もしかしたらあのワープのギフトで誘拐したのかしら……どっちにしても早く戻らないと試練に不合格になっちゃうわ」
そんな葵に対して五月はある違和感を口にした。
「あなたの猫はどこに行ったんですか?」
「わかんない。はぐれたみ……」
葵が言葉を言い終わるよりも先に、五月は葵の右手を掴み、捻るように相手を地面に向けて押さえつける。腕逆捕と呼ばれる、相手を捕まえるための技術だ。
「さ、五月様!? どうかしましたワン」
「そ、そうよ!? どうしたの!?」
「なら、答えてもらえますか? 私のギフテッドの名前は?」
「っ!」
葵は……否、葵の姿をした何者かは答えられなかった。
それを見てアポロも遅まきながら察した。
「ま、まさかこの葵様、偽物ですかワン!?」
「どうやらそのようですね。変身するギフトのようです。見た目はもちろん、体臭などもごまかしているのでしょう。そうでなければアポロが気づけるはずですし」
「ち、くそが」
葵の姿をした偽物は口汚くののしった。それは葵からあまりにもかけ離れて……いるかどうかは議論の余地があったものの、偽物であることを認めたも同然だった。
「どうして気づいた?」
「簡単です。葵さんが自分のギフテッドの心配より先に私の心配をするはずありません」
もちろん他にも相貌失認である葵が五月を見て声をかけたこと、もしも本物だったとしても葵のギフトで無傷であるはずだという確信があったからだ。
攻撃が通用した時点で完全な偽物だとわかったのだ。
「は! 友達甲斐のねえ奴だな!」
その挑発になぜか頭に血が上ったのか、捻り上げた腕に全力で力を込める。
すると葵の体から黒い小さなものがあふれ出す。
「これは……蟻!?」
「五月様! 離れてくださいですワン!」
アポロが虫の群れに対して前足を叩きつける。数匹の虫がつぶれるが、いかんせん大量の虫のうちの一匹に過ぎない。
げらげらと笑う声が聞こえる。
「あはあはっははは! 俺たちはグループ型の蟻だ! 一匹や二匹潰されたところでどうってことねえよ!」
ぞぞぞ、と人によってはおぞけが走るような黒い群れは一斉に畑の土に紛れるように消えていった。
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