うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第18話 最果ての村

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 まるで旅館のようなレトロな駅を降りると、濃い緑の匂いがした。遠くからは川のせせらぎと鳥の鳴き声が聞こえる。
 日差しは緩やかで、ヒヤリとした風は長く電車に揺らされた体の眠気を吹き飛ばしてくれる。
 五感全てでこの場所から歓迎されているようだった。実際にこの村は観光地としての側面も強く、観光客らしい姿もちらほらとある。
 小端村。
 それがこの場所の名前だ。
「皆本さん。このあたりに来たことはありますか?」
「ないわね。そもそも大水市に来てからまだ二年ちょいだし。あと、私ちょっと方向音痴だから道案内は期待しない方がいいわよ」
「ならまずは適当に歩き回るしかなさそうですね」
「そんな適当でオーナーが見つかるの? この村は結構広いわよ?」
「河登さん曰く……放っておいてもギフテッドとオーナーは巡り合うそうです」
「運命論は嫌いなんだけど」
「ですが、実際に私たちは出会いました」
 はしたないが思わずちっと舌打ちした。実際に起こった出来事の前に趣味嗜好に基づく予想は無意味だ。
 もしそれが正しいのなら、とりあえず近くに行けば何か起こるはずだ。
「念のために歩き回れる服装にしていますし、最悪ここに泊まりですね」
「明日学校なんだけど……」
 健全な学生としては大っぴらにできない事情で欠席なんかしたくない。
「そのあたりは特害対のボスに何とかしてもらいましょう」
「しょうがないわね。それなら、ちょっと食べるもの買っておくわよ」
 まだ空腹ではないけれど、念のためにつまめるものは欲しい。駅の構内にある土産物屋さんに寄っていく。中途半端な時間のせいなのか、客は誰もいなかった。
 名物らしき梅饅頭と地元で作られた野菜チップスをかごに入れる。
 レジに持っていくと店員さんに声をかけられた。名札をみると八村という名前らしい。
「あら。学生さん? 一人?」
 老婆のようだった。

 彼女はややぽてっとした体型で、白髪を後ろで結わえており、野暮ったい服装をしていた。
 にこにこと笑っており、数十年前からこの店番をしていると言われても誰一人疑わないと思えるほどこの牧歌的な店が似合っていた。

「学生です。でも、友達と一緒に来ました」
 本当は友達でも何でもないけど。そう心の中で付け加えておく。猫と一緒に、とも言わない。ちらりと下を見ると電車を降りて窮屈そうにしていたから外に出したさつまが店内をうろうろしているが、老婆は何も言わない。一応ハーネスは握っているとはいえ、猫が店内にいれば気にかかるのが普通だろう。どうやら本当にギフテッドは状況次第で他人から見えなくなるらしい。いや、石ころみたいに気にしなくなるのだろうか。
「まあまあ。何もないところだけど、楽しんでいってね。そうだ。喉が渇いていたら近くの古民家カフェに寄ってね。ここのレシートを見せれば半額になるから」
 ……観光地の店員らしく、なかなか商売上手だった。
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