うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第20話 群れ

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 力が入らない葵だったが、慣れのおかげで立ち上がるくらいなら問題なさそうだった。
「さつま。相手の追撃が来る前に逃げるわよ。……さつま?」
 キャリーバッグを開けても出てこない。嫌な予感がして、体の重さを一瞬だけ忘れる。
「さつま、さつま!?」
 慎重に、しかし素早くさつまをキャリーバッグから取り出すとぐったりとしていた。どうやら私と同じ症状だ。
 何も考えずに昨日つけた傷の上にはった絆創膏を剥がす。じわりと血が滲み、さつまがギフトを発動させ、液体になる。
「にー」
 すると先ほどよりも多少元気になったようだ。液体化は熱にも耐性を持たせるらしい。
「さつま。よかったああああ」
 重く、深いため息をつく。
「いや、よくありません。あなたはまだ攻撃を受けたままでしょう」
「問題ないわよ。このままなら私が先に死ぬ。そうなればさつまは無尽蔵に液体化できるはずよね」
「あなたそれ……本気で言ってるんですか」
「本気に決まってるで……っ」
 ふらりと体がぐらつく。全然頭が回らない。
「大体……これは予想通りでしょ。向こうから攻撃を仕掛けてくるの、待ってたんでしょ」
「否定はしませんが……だからと言ってあなたが死んでよいとは思っていません」
 やっぱりな、と心の中で呟く。
 さっき語った、巡り合うだとか危険だとか、そういう理由で車を使わなかったのはあるだろうけど、わざと目立って敵の目を集めようとしていたらしい。
「ねえ。そんなことより私まで狙ったのはどうしてかしら」
 基本的にオーナーを狙うメリットは薄い。というかギフテッドの強化になるためデメリットの方が大きい。
「それよりも、ここを離れましょう。話はそれからです」
 五月の肩を借りてカフェから離れようとする。
 少し歩いたところで、立ち止まった。
「五月? どうしたの?」
「いえ……これ以上、歩けません。アポロ。あなたは?」
「は! どういうわけか一歩も進めません、ワン!」
 そんな馬鹿な、と思い一歩を踏み出そうとして……進めなかった。
「これが相手のスキル、かしら」
「そのようですね。相手を閉じ込める……いえ、進む意志を打ち消す? そういう能力でしょうか。ただ、この手のスキルは何らかの解放条件があるはずです」
 すると私と五月の前にお互いのカードが出現する。
 その二つには同じことが書かれていた。
『オーナーを探せ』
「……だ、そうよ」
「やるしかないようですね」
 近くの花壇の石垣に私の腰を落とさせる。幸い即死するようなギフトじゃない。突破口はあるはずだった。
「まずこのギフトの性質から確認しないとね」
「病気にする。ある程度遠距離から攻撃できる。直接攻撃するタイプではない。ギフテッドの姿はない。……おそらく、グループ型のギフテッドですね」
「グループ型? 何それ?」
「ギフテッドが一匹だけではなく、複数いるタイプです。主に小動物ですね。虫とか、小魚とか」
「そんなのもありなの?」
「はい。どちらかというと直接的に攻撃するよりも相手に何か悪影響をもたらすギフトが多いですね。あなたまで狙ったのは弱らせてアクションを起こしにくくするか、たまたま条件を満たしてしまったのか。実際に私とアポロは平気ですし。まず間違いなくこの封鎖された空間内にギフテッドとオーナーがいるはずです」
「ギフテッドは小さすぎてどこに隠れてるのかわからないわけね……それじゃあギフトも、ギフテッドも特定のしようがないじゃない」
 苦しみながら呻く。
 それに対して五月は。
「いえ。推測する方法はあります。そのためにまず……」
「なによ」
 言い淀んでいた五月はやけに突拍子もないことを冷静な声で言った。
「服を脱いでください」
「嫌に決まってるでしょ。この変態」
「別にやましいことを考えているわけではありません。何かに咬まれていないか確かめなければいけません」
「あー……それがギフトの発動条件の可能性があるわけね」
 例えば蚊のギフテッドならギフトの発動条件が相手を咬むことというのはあり得る。
「さすがにこの場で服を脱ぐわけには行きませんから、この家のお風呂場でも借りましょう。シャワーやさつまのギフトも利用して体をできるだけ冷やしてください。あなたもダメージを受けているので代償はそれほど支払わなくてもいいはずです」
「あんたはどうするの?」
「揺さぶるために脅しておきます」
 物騒な宣言に葵は?マークを浮かべたが、葵にそれほど余裕はなく、また、出られないことに気づいた大人二人が騒ぎ始めたため、それがやけに耳障りに聞こえてこの場を離れたかった。
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