33 / 141
第一章
第32話 思い出ぼろぼろ
しおりを挟む
ふうーとため息をつく。
気が抜けたせいかくらりとめまいがした。
とことことさつまが近寄ってくる。頭を少し上げているから、撫でろというサインだ。
ほぼ無意識でさつまの喉元、次に頬を撫でる。
「大丈夫だった? さつま」
ふにゃあ、と気の抜けた返事が聞けてほっとする。
先ほどは胸に大穴があいていた。もしもギフトがなければ死んでいた。そう思うと狙撃手にも怒りがこみ上げる。
「っと、いけないいけない。怒りながら戦うのは良くないって空手の先生にも教わったっけ」
先ほど買った……のはずだけど半日くらい前の気がする……野菜チップスの袋を開ける。
まだ残っているペットボトルの水もぐいっと飲む。
みゃあ、ともう一度鳴いた。
「もしかしてお腹減った? かりかり食べる?」
みゃあ、とやはり鳴く。携帯していたペットフードを一袋あけ、掌に乗せる。
舌を動かしみるみると減っていくかりかりを見るのは至福のひと時だ。
「そうだ。カーマデーヴァをオールインした時にボーナスがあるって言ってたっけ。確認して……いや、どうやるのよ」
うんうんと唸っているといきなり宙にカードが出現した。
「なんだか頭の中読まれているみたいで不愉快だけど……便利だからいっか。どれどれ……何これ。死亡診断書?」
名前は松本真紀。
「さっきの女王蜂のオーナーの奥さん?」
状況的に考えればそれしかありえない。
「あいつ、奥さん亡くなってたのにあんなことを?」
怒りがこみ上げながらも読み進める。
死因は熱中症。死亡した場所は自宅。第一発見者は松本雄太。
不審な点はなし。事故として処理されたようだ。
ただ、死亡診断書の最後の余白に、無味乾燥な字体ではなく乱雑な手書きらしき文字でこう書かれていた。
『おまけだ。松本の代償は一括型。妻の記憶』
「……」
しばし、沈黙する。
「ああ、そういうこと。あいつが善側か悪側かわからないけど……もしかしたら妻を生き返らせるためにこの戦いに参加したとしたら……それで妻の記憶を奪われるって……むごいことをするわ」
働くことを嫌がっていたのはおそらく労働時間中に妻が死んだため。女性を求めたのは……亡き妻の影を求めたのだろうか。
「女王蜂……グレイスは知ってたのかしら」
なんとなくだが、知っていた気がする。
それでああも健気だったのだろうか。
「ほんと……カーマとラティの神話のバッドエンドじゃない」
カーマはシヴァにその体を焼かれたのち、悲しみに暮れる妻ラティと生まれ変わってから再会する。
どういう基準で神とやらがギフトを選んだのかはわからないが、これ以上の皮肉はないだろう。
私がもしも両親を生き返らせられるのなら、そこまでするだろうか。
多分、する。
しなければならない。
でもそれは。
「あなたを危険にさらすことじゃないわよね。さつま」
少しだけ離れたところで丸くなった愛猫に声をかける。
答えはない。
会話できないことが少しだけ寂しかった。
気が抜けたせいかくらりとめまいがした。
とことことさつまが近寄ってくる。頭を少し上げているから、撫でろというサインだ。
ほぼ無意識でさつまの喉元、次に頬を撫でる。
「大丈夫だった? さつま」
ふにゃあ、と気の抜けた返事が聞けてほっとする。
先ほどは胸に大穴があいていた。もしもギフトがなければ死んでいた。そう思うと狙撃手にも怒りがこみ上げる。
「っと、いけないいけない。怒りながら戦うのは良くないって空手の先生にも教わったっけ」
先ほど買った……のはずだけど半日くらい前の気がする……野菜チップスの袋を開ける。
まだ残っているペットボトルの水もぐいっと飲む。
みゃあ、ともう一度鳴いた。
「もしかしてお腹減った? かりかり食べる?」
みゃあ、とやはり鳴く。携帯していたペットフードを一袋あけ、掌に乗せる。
舌を動かしみるみると減っていくかりかりを見るのは至福のひと時だ。
「そうだ。カーマデーヴァをオールインした時にボーナスがあるって言ってたっけ。確認して……いや、どうやるのよ」
うんうんと唸っているといきなり宙にカードが出現した。
「なんだか頭の中読まれているみたいで不愉快だけど……便利だからいっか。どれどれ……何これ。死亡診断書?」
名前は松本真紀。
「さっきの女王蜂のオーナーの奥さん?」
状況的に考えればそれしかありえない。
「あいつ、奥さん亡くなってたのにあんなことを?」
怒りがこみ上げながらも読み進める。
死因は熱中症。死亡した場所は自宅。第一発見者は松本雄太。
不審な点はなし。事故として処理されたようだ。
ただ、死亡診断書の最後の余白に、無味乾燥な字体ではなく乱雑な手書きらしき文字でこう書かれていた。
『おまけだ。松本の代償は一括型。妻の記憶』
「……」
しばし、沈黙する。
「ああ、そういうこと。あいつが善側か悪側かわからないけど……もしかしたら妻を生き返らせるためにこの戦いに参加したとしたら……それで妻の記憶を奪われるって……むごいことをするわ」
働くことを嫌がっていたのはおそらく労働時間中に妻が死んだため。女性を求めたのは……亡き妻の影を求めたのだろうか。
「女王蜂……グレイスは知ってたのかしら」
なんとなくだが、知っていた気がする。
それでああも健気だったのだろうか。
「ほんと……カーマとラティの神話のバッドエンドじゃない」
カーマはシヴァにその体を焼かれたのち、悲しみに暮れる妻ラティと生まれ変わってから再会する。
どういう基準で神とやらがギフトを選んだのかはわからないが、これ以上の皮肉はないだろう。
私がもしも両親を生き返らせられるのなら、そこまでするだろうか。
多分、する。
しなければならない。
でもそれは。
「あなたを危険にさらすことじゃないわよね。さつま」
少しだけ離れたところで丸くなった愛猫に声をかける。
答えはない。
会話できないことが少しだけ寂しかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる