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第一章
第43話 宴もたけなわ
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突然の攻撃に怒りに顔を歪ませながら顔を片手でぐいっと拭う。
「こ、の、子供だと思って! 何度も何度も人にものを投げて……」
反論しようとした八村の顔が青ざめる。熟れた臭いが部屋中に籠っている。
「これは、酒? どうしてこれを……」
焦った声を聴いた葵はにやにやしながら五月に尋ねる。
「ねえ。こいつ、どんな表情してる?」
「……うろたえていますね」
「やっぱり当たりね。そりゃ困るわよね。酒なんか飲まされたら。だってあんたのギフトは八岐大蛇だもの」
八岐大蛇。
古事記に伝わる八つの首を持つ大蛇であり、日本神話におけるもっとも有名な怪物の一つだろう。
それが確かであるのならば強大なギフトになるのも頷ける。
しかし八村は動揺から立ち直って余裕たっぷりにこう言った。
「おかしいねえ。ならなんでオールインしないんだい? あんたまだ、あたしのギフトがなんだか確信が持ててないんじゃない?」
(めちゃばれてるーーーーー!)
意外な八村の鋭さに内心では大いに焦りつつ、できるだけ余裕たっぷりに語りだす。
「あら。これを見てもそんなことが言えるの?」
右手で突き付けたのは薬とお薬手帳。
「ノックビンっていうのかしら。これ、断酒用の薬らしいわね」
「それがどうしたんだい」
「八岐大蛇は酒を飲んで前後不覚になったところを倒された怪物。それなら断酒が罰則型の代償でもおかしくないんじゃないかしら」
もしそうならばマーチェがまだオーナーをわかっていなかったころ、ギフトの使用ができたりできなかったりした説明にもなる。単純に酒を飲んでいたかどうかだ。
「あたしも年でねえ。そろそろ酒を控えなきゃいけない年齢になってしばらく我慢しているだけね」
「それはどうでしょう」
これは五月だ。
「あなた、先ほどドーナツを食べていましたよね。禁酒していると甘いものが欲しくなると聞きます。最近お酒を飲んだことがあるんじゃないですか? さらに言うなら本当に禁酒したいなら酒そのものを身の回りに置かないはずです。ですが罰則型の代償の場合、禁止されている対象を手の届くところにおいておけば強化される可能性があります」
「さらに付け加えるならあんたのギフトは洪水が関連しているはず。八岐大蛇は洪水の化身でもあると考えられるわ。そして神話において蛇は脱皮を繰り返すことから再生の象徴ともされるわ」
「は、それじゃあこの力は、どう説明、するつもり、かね!」
八村は椅子を思いっきり葵に投げつける。それをインターセプトするアポロ。
「ありがとう。アポロちゃん」
「構いませんですワン! それより早く敵のギフトを明らかにしてくださいですワン!」
「了解。その怪力は多分、伊吹大明神由来ね。八岐大蛇と同一視される伊吹大明神は伊吹童子、つまり酒呑童子の父親とされているのよ。もともと鬼と八岐大蛇は近しい性質をもつとされる説もあるし。鬼が怪力なのは当然でしょ。で、致命的なのがこの状況」
「状況?」
「五月。あんた知らないの……あ、外国を転々としてたんだっけ。じゃ、知らないかもね。八岐大蛇はクシナダヒメを助けるためにやってきたスサノオノミコトに倒されるのよ」
「つまり忠一を助けに来た私たち自身がスサノオとして扱われており、ギフトが弱体化していると」
「そういうこと」
あえて語らなかったが、アポロ、つまりショロトルのギフトと相性が悪いのもショロトルの主であるケツアルコアトルが羽毛ある蛇と呼ばれているため、蛇の属性を持っているからか。
あるいは太陽のために生贄に捧げられた神であるショロトルと、生贄を食らう怪物である八岐大蛇の関係性かもしれない。
「で、倒された相手に継承されるっていうのは八岐大蛇の尻尾から天叢雲剣を取り出したからじゃないかしら。相手を倒すことによってより強い武器を取得する。そういう神話なのよ」
八村の表情は、葵はもちろん五月からもうかがい知れない。必死に感情を押し殺しているようにも余裕であるようにも見える。
「ならこれはどう説明するつもりかねえ? あのスズメと八岐大蛇の関係を」
う、と葵は答えに詰まる。
八岐大蛇が八村のギフトであることに確信を持てないのはこれが理由だ。何をどう考えても八岐大蛇に鳥は関係していない。
強いて言えば天叢雲剣の別名である草薙剣を佩刀していたヤマトタケルノミコトが白鳥になったくらいしか思い浮かばないが、遠すぎる。
だが、意外なところから助け船があった。
「いいえ。スズメと八岐大蛇の神話との関係なら私が説明できます」
五月だった。
「まじで? どこにあるの?」
「簡単です。お酒ですよ。正確にはその原料ですね」
「酒の原料……あ、お米! 時代的にも土地的にもほぼ間違いなくお米のお酒! んで、スズメはお米を食べる……てことは……」
「はい。最初に八岐大蛇のギフテッドになったのはマーチェではなく稲でしょう。植物がギフテッドになるのは珍しいですが例があります。おそらくその時八村が近くにいたはずです。その稲をマーチェが食べ、その結果稲のギフテッドを倒したと判断され、マーチェがギフテッドになった。これならマーチェが自分のオーナーを知らなかったことも説明がつきます」
「まずギフテッドになったのがマーチェちゃんじゃなかったのね。しかも植物がギフテッドってのは盲点だったけど……これで全部謎は解けたわ。『オールイン』あんたのギフトは、八岐大蛇よ」
瞬間、部屋の電灯が消えた。
いや、そうではなく。
光がすべて吸収された。
何に?
鈍く輝く、人の背を軽く超す剣に。
それは目に留まらぬ速さで八村に突き刺さった。
「こ、の、子供だと思って! 何度も何度も人にものを投げて……」
反論しようとした八村の顔が青ざめる。熟れた臭いが部屋中に籠っている。
「これは、酒? どうしてこれを……」
焦った声を聴いた葵はにやにやしながら五月に尋ねる。
「ねえ。こいつ、どんな表情してる?」
「……うろたえていますね」
「やっぱり当たりね。そりゃ困るわよね。酒なんか飲まされたら。だってあんたのギフトは八岐大蛇だもの」
八岐大蛇。
古事記に伝わる八つの首を持つ大蛇であり、日本神話におけるもっとも有名な怪物の一つだろう。
それが確かであるのならば強大なギフトになるのも頷ける。
しかし八村は動揺から立ち直って余裕たっぷりにこう言った。
「おかしいねえ。ならなんでオールインしないんだい? あんたまだ、あたしのギフトがなんだか確信が持ててないんじゃない?」
(めちゃばれてるーーーーー!)
意外な八村の鋭さに内心では大いに焦りつつ、できるだけ余裕たっぷりに語りだす。
「あら。これを見てもそんなことが言えるの?」
右手で突き付けたのは薬とお薬手帳。
「ノックビンっていうのかしら。これ、断酒用の薬らしいわね」
「それがどうしたんだい」
「八岐大蛇は酒を飲んで前後不覚になったところを倒された怪物。それなら断酒が罰則型の代償でもおかしくないんじゃないかしら」
もしそうならばマーチェがまだオーナーをわかっていなかったころ、ギフトの使用ができたりできなかったりした説明にもなる。単純に酒を飲んでいたかどうかだ。
「あたしも年でねえ。そろそろ酒を控えなきゃいけない年齢になってしばらく我慢しているだけね」
「それはどうでしょう」
これは五月だ。
「あなた、先ほどドーナツを食べていましたよね。禁酒していると甘いものが欲しくなると聞きます。最近お酒を飲んだことがあるんじゃないですか? さらに言うなら本当に禁酒したいなら酒そのものを身の回りに置かないはずです。ですが罰則型の代償の場合、禁止されている対象を手の届くところにおいておけば強化される可能性があります」
「さらに付け加えるならあんたのギフトは洪水が関連しているはず。八岐大蛇は洪水の化身でもあると考えられるわ。そして神話において蛇は脱皮を繰り返すことから再生の象徴ともされるわ」
「は、それじゃあこの力は、どう説明、するつもり、かね!」
八村は椅子を思いっきり葵に投げつける。それをインターセプトするアポロ。
「ありがとう。アポロちゃん」
「構いませんですワン! それより早く敵のギフトを明らかにしてくださいですワン!」
「了解。その怪力は多分、伊吹大明神由来ね。八岐大蛇と同一視される伊吹大明神は伊吹童子、つまり酒呑童子の父親とされているのよ。もともと鬼と八岐大蛇は近しい性質をもつとされる説もあるし。鬼が怪力なのは当然でしょ。で、致命的なのがこの状況」
「状況?」
「五月。あんた知らないの……あ、外国を転々としてたんだっけ。じゃ、知らないかもね。八岐大蛇はクシナダヒメを助けるためにやってきたスサノオノミコトに倒されるのよ」
「つまり忠一を助けに来た私たち自身がスサノオとして扱われており、ギフトが弱体化していると」
「そういうこと」
あえて語らなかったが、アポロ、つまりショロトルのギフトと相性が悪いのもショロトルの主であるケツアルコアトルが羽毛ある蛇と呼ばれているため、蛇の属性を持っているからか。
あるいは太陽のために生贄に捧げられた神であるショロトルと、生贄を食らう怪物である八岐大蛇の関係性かもしれない。
「で、倒された相手に継承されるっていうのは八岐大蛇の尻尾から天叢雲剣を取り出したからじゃないかしら。相手を倒すことによってより強い武器を取得する。そういう神話なのよ」
八村の表情は、葵はもちろん五月からもうかがい知れない。必死に感情を押し殺しているようにも余裕であるようにも見える。
「ならこれはどう説明するつもりかねえ? あのスズメと八岐大蛇の関係を」
う、と葵は答えに詰まる。
八岐大蛇が八村のギフトであることに確信を持てないのはこれが理由だ。何をどう考えても八岐大蛇に鳥は関係していない。
強いて言えば天叢雲剣の別名である草薙剣を佩刀していたヤマトタケルノミコトが白鳥になったくらいしか思い浮かばないが、遠すぎる。
だが、意外なところから助け船があった。
「いいえ。スズメと八岐大蛇の神話との関係なら私が説明できます」
五月だった。
「まじで? どこにあるの?」
「簡単です。お酒ですよ。正確にはその原料ですね」
「酒の原料……あ、お米! 時代的にも土地的にもほぼ間違いなくお米のお酒! んで、スズメはお米を食べる……てことは……」
「はい。最初に八岐大蛇のギフテッドになったのはマーチェではなく稲でしょう。植物がギフテッドになるのは珍しいですが例があります。おそらくその時八村が近くにいたはずです。その稲をマーチェが食べ、その結果稲のギフテッドを倒したと判断され、マーチェがギフテッドになった。これならマーチェが自分のオーナーを知らなかったことも説明がつきます」
「まずギフテッドになったのがマーチェちゃんじゃなかったのね。しかも植物がギフテッドってのは盲点だったけど……これで全部謎は解けたわ。『オールイン』あんたのギフトは、八岐大蛇よ」
瞬間、部屋の電灯が消えた。
いや、そうではなく。
光がすべて吸収された。
何に?
鈍く輝く、人の背を軽く超す剣に。
それは目に留まらぬ速さで八村に突き刺さった。
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