53 / 141
第一章
第49話 暴走
しおりを挟む
まぶたが泥でも塗られたように重い。
胸がずきずきと痛む。
呼吸をするとひゅーひゅーと空気が漏れているような音がする。
でも。
起きなければ。
その理由は。
「か、け……げほ、げほ」
床に横たえられた葵はまず態勢を横にした。咳き込むと赤い液体が口からこぼれる。
「血? この年で吐血するなんて……」
「あお……皆本さん? 気が付きましたか?」
葵が見上げると……誰かがいた。もっともそれは葵にとっていつものことだ。顔を見合わせてもわからないから思考して誰かを推測する。
服、声、前後の状況。
「五月?」
「……はい」
その時五月は自分の表情がないことと、彼女の体質に少しだけ感謝した。一瞬とはいえ自分が誰だかわからなかったことにここまで衝撃を受けるとは思わなかったのだ。
だからこそ顔を覚えてもらうにはどうすればいいかとも反射的に考えてしまっていた。
葵はきょろきょろと室内を見回してから疑問を口にした。
「あれ? さつまは?」
「それは……狙撃手を追って……」
がばりと立ち上がり……葵はそのままよろめく。
「無茶をしないでください! 傷が治ったばかりなんですよ!」
五月はクローゼットにあった上着を着せてくる。服の胸あたりに穴が開いておりこのまま外に出歩くのは淑女と呼べそうになかった。
「いや、そもそもなんで私生きてるの?」
「八岐大蛇のギフトをあなたが奪ったんです。それで、忠一があなたのギフトを強化して起動させたようです」
「そうなの? 忠一ちゃんにお礼を言わなきゃ……」
「いえ、彼は……もう、会話できません」
その一言で葵はおおよその事情を察した。
倒れて、呼吸のためだけに脈動するラットに近寄り、忠一をそっと抱く。
「ありがとう。あなたのおかげで助かった」
しばし、時間が流れる。
そこで葵は妙なことに気づいた。
「ねえ。指の怪我が治ってないんだけど」
「おそらく、胸の傷を治すのにギフトの効果をすべて使い切ったのでしょう。代償はわかりますか?」
「全然。禁酒ならありがたいけど……とりあえずしばらくは八岐大蛇のギフトを使えないと思ったほうがよさそうね。それで、さつまはどこ?」
その質問に答えたのはアポロだった。
「言いにくいのですが、どうやら暴走しているようですワン」
素早く、でも急ぎすぎないように窓の外に向かって視線を巡らすと、巨大な水の猫がいた。
「ねえ。暴走しているとギフテッドってどうなるの?」
「わかりません。私も教えられていませんので……良い結果にならないことは間違いないでしょう」
「多分気づいていると思うけど私の代償は出血。もう血は止まっていても暴走は続くの?」
「おそらく。暴走したギフテッドは距離の制限や代償を必要としなくなるらしいです。血が止まっているかどうかは関係ありません」
「止める手段はあるの?」
「はい」
「よし。それじゃあ行くわよ。ごめんね忠一ちゃん。少しだけそこにいてね」
忠一をそっとソファに横たえてから、たんっと大窓から飛び出す。もちろん雨でびしょぬれになるが気にしない。
五月とアポロもそれに続く。
「具体的な作戦はあるんですか?」
「ない。だから教えてください。お願いします」
いきなり敬語になった五月にやや面喰らいながらも説明する。
「簡単です。オールインに成功することです」
「なるほど。能力が消失するから暴走も収まる。……でもそれだと私はあんたに不利になるってことね。……まあいいわ。アクションを起こせるの? さつまは敵じゃないけど」
「暴走状態ですから攻撃されかければ私がオールインできるはずです。それに、一応これも預かってます」
五月は一枚の紙を取り出した。
胸がずきずきと痛む。
呼吸をするとひゅーひゅーと空気が漏れているような音がする。
でも。
起きなければ。
その理由は。
「か、け……げほ、げほ」
床に横たえられた葵はまず態勢を横にした。咳き込むと赤い液体が口からこぼれる。
「血? この年で吐血するなんて……」
「あお……皆本さん? 気が付きましたか?」
葵が見上げると……誰かがいた。もっともそれは葵にとっていつものことだ。顔を見合わせてもわからないから思考して誰かを推測する。
服、声、前後の状況。
「五月?」
「……はい」
その時五月は自分の表情がないことと、彼女の体質に少しだけ感謝した。一瞬とはいえ自分が誰だかわからなかったことにここまで衝撃を受けるとは思わなかったのだ。
だからこそ顔を覚えてもらうにはどうすればいいかとも反射的に考えてしまっていた。
葵はきょろきょろと室内を見回してから疑問を口にした。
「あれ? さつまは?」
「それは……狙撃手を追って……」
がばりと立ち上がり……葵はそのままよろめく。
「無茶をしないでください! 傷が治ったばかりなんですよ!」
五月はクローゼットにあった上着を着せてくる。服の胸あたりに穴が開いておりこのまま外に出歩くのは淑女と呼べそうになかった。
「いや、そもそもなんで私生きてるの?」
「八岐大蛇のギフトをあなたが奪ったんです。それで、忠一があなたのギフトを強化して起動させたようです」
「そうなの? 忠一ちゃんにお礼を言わなきゃ……」
「いえ、彼は……もう、会話できません」
その一言で葵はおおよその事情を察した。
倒れて、呼吸のためだけに脈動するラットに近寄り、忠一をそっと抱く。
「ありがとう。あなたのおかげで助かった」
しばし、時間が流れる。
そこで葵は妙なことに気づいた。
「ねえ。指の怪我が治ってないんだけど」
「おそらく、胸の傷を治すのにギフトの効果をすべて使い切ったのでしょう。代償はわかりますか?」
「全然。禁酒ならありがたいけど……とりあえずしばらくは八岐大蛇のギフトを使えないと思ったほうがよさそうね。それで、さつまはどこ?」
その質問に答えたのはアポロだった。
「言いにくいのですが、どうやら暴走しているようですワン」
素早く、でも急ぎすぎないように窓の外に向かって視線を巡らすと、巨大な水の猫がいた。
「ねえ。暴走しているとギフテッドってどうなるの?」
「わかりません。私も教えられていませんので……良い結果にならないことは間違いないでしょう」
「多分気づいていると思うけど私の代償は出血。もう血は止まっていても暴走は続くの?」
「おそらく。暴走したギフテッドは距離の制限や代償を必要としなくなるらしいです。血が止まっているかどうかは関係ありません」
「止める手段はあるの?」
「はい」
「よし。それじゃあ行くわよ。ごめんね忠一ちゃん。少しだけそこにいてね」
忠一をそっとソファに横たえてから、たんっと大窓から飛び出す。もちろん雨でびしょぬれになるが気にしない。
五月とアポロもそれに続く。
「具体的な作戦はあるんですか?」
「ない。だから教えてください。お願いします」
いきなり敬語になった五月にやや面喰らいながらも説明する。
「簡単です。オールインに成功することです」
「なるほど。能力が消失するから暴走も収まる。……でもそれだと私はあんたに不利になるってことね。……まあいいわ。アクションを起こせるの? さつまは敵じゃないけど」
「暴走状態ですから攻撃されかければ私がオールインできるはずです。それに、一応これも預かってます」
五月は一枚の紙を取り出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる