うちの猫は液体です

秋葉夕雲

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第一章

第49話 暴走

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 まぶたが泥でも塗られたように重い。
 胸がずきずきと痛む。
 呼吸をするとひゅーひゅーと空気が漏れているような音がする。
 でも。
 起きなければ。
 その理由は。

「か、け……げほ、げほ」
 床に横たえられた葵はまず態勢を横にした。咳き込むと赤い液体が口からこぼれる。
「血? この年で吐血するなんて……」
「あお……皆本さん? 気が付きましたか?」
 葵が見上げると……誰かがいた。もっともそれは葵にとっていつものことだ。顔を見合わせてもわからないから思考して誰かを推測する。
 服、声、前後の状況。
「五月?」
「……はい」
 その時五月は自分の表情がないことと、彼女の体質に少しだけ感謝した。一瞬とはいえ自分が誰だかわからなかったことにここまで衝撃を受けるとは思わなかったのだ。
 だからこそ顔を覚えてもらうにはどうすればいいかとも反射的に考えてしまっていた。
 葵はきょろきょろと室内を見回してから疑問を口にした。
「あれ? さつまは?」
「それは……狙撃手を追って……」
 がばりと立ち上がり……葵はそのままよろめく。
「無茶をしないでください! 傷が治ったばかりなんですよ!」
 五月はクローゼットにあった上着を着せてくる。服の胸あたりに穴が開いておりこのまま外に出歩くのは淑女と呼べそうになかった。
「いや、そもそもなんで私生きてるの?」
「八岐大蛇のギフトをあなたが奪ったんです。それで、忠一があなたのギフトを強化して起動させたようです」
「そうなの? 忠一ちゃんにお礼を言わなきゃ……」
「いえ、彼は……もう、会話できません」
 その一言で葵はおおよその事情を察した。
 倒れて、呼吸のためだけに脈動するラットに近寄り、忠一をそっと抱く。
「ありがとう。あなたのおかげで助かった」
 しばし、時間が流れる。
 そこで葵は妙なことに気づいた。
「ねえ。指の怪我が治ってないんだけど」
「おそらく、胸の傷を治すのにギフトの効果をすべて使い切ったのでしょう。代償はわかりますか?」
「全然。禁酒ならありがたいけど……とりあえずしばらくは八岐大蛇のギフトを使えないと思ったほうがよさそうね。それで、さつまはどこ?」
 その質問に答えたのはアポロだった。
「言いにくいのですが、どうやら暴走しているようですワン」
 素早く、でも急ぎすぎないように窓の外に向かって視線を巡らすと、巨大な水の猫がいた。
「ねえ。暴走しているとギフテッドってどうなるの?」
「わかりません。私も教えられていませんので……良い結果にならないことは間違いないでしょう」
「多分気づいていると思うけど私の代償は出血。もう血は止まっていても暴走は続くの?」
「おそらく。暴走したギフテッドは距離の制限や代償を必要としなくなるらしいです。血が止まっているかどうかは関係ありません」
「止める手段はあるの?」
「はい」
「よし。それじゃあ行くわよ。ごめんね忠一ちゃん。少しだけそこにいてね」
 忠一をそっとソファに横たえてから、たんっと大窓から飛び出す。もちろん雨でびしょぬれになるが気にしない。
 五月とアポロもそれに続く。
「具体的な作戦はあるんですか?」
「ない。だから教えてください。お願いします」
 いきなり敬語になった五月にやや面喰らいながらも説明する。
「簡単です。オールインに成功することです」
「なるほど。能力が消失するから暴走も収まる。……でもそれだと私はあんたに不利になるってことね。……まあいいわ。アクションを起こせるの? さつまは敵じゃないけど」
「暴走状態ですから攻撃されかければ私がオールインできるはずです。それに、一応これも預かってます」
 五月は一枚の紙を取り出した。
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