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冒険の準備

宿屋にて

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灯花とうか、話がある」
 宿屋に着いてすぐ、僕は灯花とうかの部屋に来ていた。
「な、なななななんでござろう?」
 机に置いたカバンを整理していた灯花とうかの眼は、∞の字を描くように泳いでいる。
「いや、別にもう怒ってないから普通にしててくれ」
「ほ、本当でござるか?」
 ダラダラと冷や汗を流したまま灯花とうかは身構えている。
「うん。本当」
「ふぅ~!良かったでござるぅ」
 安堵する灯花。
 怒られる事をした自覚があるということは、例の件に関してほぼ確実にクロと考えて良いのだろう。
 僕は呆れのため息をつきつつベッドに座る。
「少し気になった事があってさ。カガリの性別って"男"なんだよな?」
 あの時"年頃の乙女"が駄目な事をカガリに投げたのであれば、きっとそういう事なんだろうと思ったけど。
「あ~、カガリ氏の性別でござるか。実は拙者もよく分かってないのでござる」
 意外にも灯花が出した答えは"不明"だった。
「なんで?泉の近くにいた時に水浴びしたんだったら見たんじゃないのか?」
 恐らく、最初の半日間は僕の目が覚めるまで泉付近で待っていたはずだ。
「交代で見張り番をしていたでござるから、二人同時に水浴びはしてないのでござる」
 あぁ、そうか。
 そう言えば、寝ている間に体温が下がらないようにしないとそのまま死ぬって話だったな。
「今になってよくよく考えると、死にかけてたんだな僕……」
 もし、そんな時に森に居た盗賊に襲われでもしていたら……。今頃、あの動物のエサだったかも知れない。
「2日半も面倒見てくれてありがとな。カガリにも改めてお礼しないと……」
 特に後半の2日間はカガリも想定外の延長戦だっただはず。
 カガリの不足を補う為に受けた儀式だったのに必要の無い余計な労力を使わせてしまった。
「……そう言えばどうやって僕を暖めてたんだ?」
「そりゃあ、拙者が一肌脱いで直接……軽いジョークなのでゴミを見るような目はやめて欲しいでござる」
「実際は?」
「実際は体温が下がり続けてたのは最初だけで、あとはカガリ氏の聖法イズナで特に変化も無く安定していたでござる」
「そうか……」
 だいたい想像通りだった。じゃないと灯花と交代でカガリも一肌脱いだことになるし。
「でもでも~、拙者としては一肌脱いでも一向にかまわないというか~」
 シュルシュルと衣擦きぬずれの音がしたかと思うと、灯花が服のリボンを外していた。
「なぜ脱ぐ?」
「脱ぐのに理由が必要でござろうか?……脱衣完了CAST OFF!」
 そう言ったと同時に灯花は着ていたものを脱ぎ捨てて一瞬で下着姿になった。
「お前バカだろ!?」
 ここで部屋から逃げようとして灯花に背中を向けたのがまずかった。
「ぃよいしょ~っ!」
 背後から腰に両手を回されて……気付いた時にはベッドにうつ伏せ状態に投げ倒された後だった。
「御用でござる!」
「捕まるようなことしてるのはお前だ!」
 抵抗しようにも両肩を抑えられて虚しくもがく事しかできない。
「無駄無駄無駄ァでござる!”夏の福岡45人抜き”は伊達じゃないっ!」
 何を言ってるのかまったくわからん!
 両肩にかかっている体重が少しずつ動いたかと思ったら背中もしっかりと抑えられてしまった。

「逃がさんでござるよぉ~♪」

 そして灯花の声が耳元で聞こえる。吐息が耳にかかり身体は密着状態。背中に布越しの柔らかい感触を感じた途端とたん、自分の顔が真っ赤になっていくのがわかった。

 ドサッ

「え、二人共なにして……」
 扉の方を見るとそこにはカガリが立っていた。
「いや、これはえっと……。違うんだ!」
 何も知らない人から見れば、ベッドの上で半裸の女が男にまたがっているという破廉恥はれんち極まりない光景である。
「ユウの部屋に行ったんだけど誰も居なくて……。隣から激しい音が聞こえて心配で慌てて開けちゃって……。じゃ、邪魔しちゃったね!」
「いや、ちょっ、待っ」
 ごめんね!と言って、僕の弁解?を聞く前にカガリは扉を閉めた。
「バカ灯花!どうするんだよこれ!?」
「ん~、だいたい計画通りでござるな」
「は?」
 フッと身体が軽くなる。
「カガリ氏女の子説がある以上は異世界あるあるハーレム展開は危惧すべき重要事項。正妻ポジを印象づける為の一手は成功でござる」
 僕がさっきとは別の理由で起き上がれないでいるのに、灯花はシレッとベッドの端っこに座る。
「こんなことして明日どんな顔すれば良いんだよ……」
「……何食わぬ顔?」
 こいつに聞いた僕がアホだった。
「もてあそぶような真似しやがって」
「んん?拙者は今からでもウェルカムでござるよ?」
「うるさい!疲れたからここで寝る!灯花は僕の部屋で寝ろよ!」
「了解でござる!……気が変わればいつでも壁ドンで呼んでね♪」
 そう言って、灯花は素早く部屋を出ていった。
「いや服は着ていけよ!」
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