蒼すぎた夏

三日月の夢

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episode2 真綿のような

episode2-3

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「もうすぐ後期の授業が始まるね」
「うん、だから平日は来られないかもしれない。司書の講義のレポートがたくさん出るんだ」

 うちに来ることもあるけれど、知哉さんの部屋のほうが広くて過ごしやすいから、基本的には知哉さんの部屋で会っている。外食や、飲みにも連れていってくれる。優しくて、本当に好きだなと思う。

「あの、……知哉さん」
「ん?」

 ご飯を作って食べて、一緒に後片付けをしていた。

「あの……」
「ん、何? どうした?」

 水でれた手をいて、知哉さんはこちらを見る。

「えっと、その、……知哉さんが、……好き」
「……」
「あ、あの、ちゃんと言ってなかったなって、ずっと思ってて。『お願いします』としか言ってないなって……」

 くすっと笑って、「ありがとう」と知哉さんは言う。
 洗い物の続きをしようとシンクをのぞいたら、後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「わ!」
「俺も飛鳥が好きだよ。大好きだ」

 八月最後の土曜日で、「泊まっていかない?」と言われた。その『泊まる』には、別の意味も含まれていることはわかっている。

「……うん」
「飛鳥が嫌なことはしないから」
「……うん」

 交代で風呂に入って、知哉さんのベッドに初めて寝た。寝室は薄暗くしてもらう。
 何度かキスはしているけれど、こうして寝ながら上からキスされるのは初めてだ。たまに舌も触れる。

「飛鳥……、好きだよ」
「んっ……」
「かわいいな」

 借りて着ていた部屋着を脱がされて、首筋、鎖骨さこつ、胸へとキスが下りていく。

「ん、……あっ」

 優しく胸に何度もキスされる。
 知哉さんはベッドサイドからボトルを取った。

「ローションだよ。痛くしたくないから。でも痛かったら言って」
「うん」

 ぐいっと足を上げられて、少しずつ指が入ってくる。そのうち足は知哉さんの肩にのせられていて、あいているほうの手で前のたかぶりをこすられる。
 後ろが深くなると怖くて前がえて、そうすると前を気持ち良くさせてくれて、また後ろを慣らして。それを繰り返していた。

「痛い?」

 首を横にふる。嘘じゃなかった。いつの間にかちょっと気持ちいいと思っていて、そのうちやめてほしくないと思っていて、今はもっとしてほしいと思っている。

れてもいい?」

 首を縦にふる。

「痛かったらやめるから、ちゃんと言ってね」

 知哉さんはするするっとゴムをつける。
 指が抜かれて代わりに知哉さんがいってきた。

「あぁ、……あ、……やっ」
「痛いかな」
「だい、じょぶ……」

 多少の痛みは我慢した。

「んっ、……んん」
「挿いった」

 暗がりの中、目の前に知哉さんの顔がある。
 知哉さんは「好きだよ」と言って、唇が重ねられ、知哉さんの下半身はちょっとずつ動き始めた。

「んっ、んっ、あっ、んっ……」
「ごめん、俺だけ気持ちいいかな」
「んっ、……俺も、……気持ち、い、ぃ」

 せまいところに無理に入っているのだ。それはもちろん痛みはある。でも、痛気持いたきもちいいというのか、やめてほしい痛さではない。

「知哉さ、ん……、あっ、んっ」

 しがみついて、硬い肉欲を受け入れていた。

「あっ、……気持ちいい」

 どうして気持ちいいのか気付いた。興奮した前の昂ぶりを、知哉さんが握って動かしているからだ。その動きは、後ろを打ち付ける動きと連動している。

「あっ、あっ、……んっ、あん」

 もう、前がいいのか後ろがいいのかわからなくなっている。たぶん両方気持ちいい。

「あぁ、たまに中がきゅってなるから、いっちゃいそうになる……」

 知哉さんはいとおしそうにくちづけてくる。
 しがみつく。痛いからじゃなくて、もっと欲しくて。

「んっ、んっ、あっ、あぁ……」
「飛鳥……、好きだ」
「んっ、知哉さ、ん、すき、……んっ、すき、……あっ、気持ちいい」

 ずっとこうしていたい。

「あ、あん、……んっ」

 目の前が白くなってくる。限界かもしれない。

「知哉さん、……も、いっちゃう」
「ん、俺も……」

 そこからの、ひと突きひと突きが気持ちよくて、どのひと突きでいっちゃうか、もうギリギリだった。

「んっ、や、あ、んんっ」
「飛鳥……」
「あ、いく、……や、いく、……いっちゃう、あぁ……」

 自分でする時とは比べものにならないくらい気持ちいい射精だった。

「ん……」

 ゴムでへだたりはあったけれど、知哉さんが放ったのがわかった。

「痛くなかった?」
「初めはちょっと。でも、気持ちよかった」
「よかった」

 知哉さんに抱かれることができてよかった。この人でよかった。そう思った夏の終わり。

 ――あ。

 夏休みだから日付の感覚がなくなっていた。今日は八月二十五日。火気厳禁の海辺で花火をした日。北嶋とふたりで線香花火をした日。北嶋と、……キスをした日。
 夏休み最後の土曜日だったからなのに、どうして同じ日に知哉さんとセックスをしたのだろう。
 別に嫌だとかそういうことではない。ただ、こうして思い出って、塗り替えられていくのだなと思った。



 ――峰。何読んでんの?
 えっ、北嶋?
 目が覚めた。知哉さんが隣に寝ている。カーテンの隙間から朝陽あさひが射し込んでいる。
 初めてのセックスをして、初めて一緒に迎えた朝に北嶋の夢を見るなんて。
 ――峰セレクト? 聴きたい。
 ――峰の、そういうところが好き。
 今、どうしているのだろう。こんな朝に考えることではないけれど。
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