蒼すぎた夏

三日月の夢

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episode3 傷をたどれば

episode3-1

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「なぁ、彼女でもできた?」
「え?」

 同じ司書の講義を取っている友達――よく合コンに誘ってくる――が聞いてきた。

「ちょっと雰囲気変わったなって」

 ではないけれど、肯定しておけば合コンに誘われなくて済むかもしれない。

「うん」
「やっぱりかぁ」

 喜んでくれるというより、参ったなという表情だ。

「ん?」
「いや、峰って、文学部の女子から人気あんの、知ってた? 英米文学の子たちから、次は絶対合コンに連れてこいって言われてたんだよー」

 少し気付いてはいた。中学、高校の頃は、自分みたいなおとなしいタイプは教室のすみにいて目立たないけれど、大学生になると何故か『草食系』とか言われ、モテ始める。
 高校まではスポーツができて明るいやつが、人気があったから。それこそ北嶋みたいな。
 大学の友達には言えないけれど、知哉ともやさんと出会ったバーでも、よく声をかけられていた。おとなしそうな明らかな『受け』と見られ、『攻め』タイプの人が寄ってくるのだ。

「大学の子じゃないよな?」
「うん」
「バイト先とか?」
「うん、まあ」
「そういう秘密主義っぽいとこ? それがいいらしいよ。女ってわかんねーよなぁ」

 心の中を友達に見せない癖は直らない。



 入っている文藝ぶんげいサークルの友達にも聞かれた。

「もしかしたら峰って、恋人できた?」

 本をたくさん読んでいるからか、色んな考え方、生き方をしている人がいるということに敏感なのか、『彼女』ではなく『恋人』という言葉を選ぶ。自分もそうだ。
 サークルの友達のほうが好感がもてて、少しだけ心の内を話す気になる。

「うん、よくわかるね」
「なんか幸せそうに見えた」
「そう」
「どんな人なの?」
「うん、年上。社会人」
「へぇ」
「だから大人だし、すごい優しい」
「ふーん。いいな」


 * * *


「今週は大学どうだった?」

 土曜日に知哉さんの家に泊まりにきた。

「うーん。あ、友達に『恋人できた?』って聞かれた。ふたりも」
「そうなんだ」
「だから、年上ですごい優しい人って言った」
「年上で優しいから、だからカップのことはいいのに」

 知哉さんは笑う。
 洗い物をしていて、マグカップをひとつ割ってしまったのだ。だから明日、一緒に買いに行くことになっている。知哉さんが買ってくれると言うけれど、割ってしまったのは自分だから、自分で買いたかった。

「でも」
「気にしなくていいのに。ま、でも、一緒に食器見に行くの、楽しみだな」
「うん」
「いいのあったら、他にも何か買い足そうよ」
「うん」



 秋晴れの日曜日、雑貨屋がたくさんある街に来た。ここは大きな文具屋というのか画材屋というのか、絵の具とかを扱う有名な店があるから、そのせいかおしゃれなイメージのある街だ。ふたりで色んな店を見て回る。さすがに手をつないだりはしないけれど、仲良く食器を選んだり、こういうデートのようなことを、知哉さんは嫌がらずにしてくれる。

「ここで決めちゃう?」
「うーん、せっかくだからもうちょっと見てみたい」
「うん。でも夕方から天気くずれるって言ってたからそれまでには決めちゃおう」
「あ、そっか。台風来てるんだっけ」
「うん。今はすごい良い天気だけどね」

 次の店へ向かうことにして外へ出る。
 雲の様子を確認するために空を見上げて、前を向いた時、心臓を鷲掴わしづかみにされたような感覚になった。

 ――北嶋?

 ちょっと大人っぽくなっているけれど、北嶋だった。向こうもこちらを見ている。
 街の時間が止まったように、お互い足を止めて見つめ合う。
 でもすぐに違和感を覚える。
 北嶋が見ているのは自分ではない。それに気付く。

 ――知哉さん?

 隣にいる知哉さんを見ると、同じように足を止めて北嶋を見ている。

れん……?」

 知哉さんの口から北嶋の名前がつぶやかれた。

「廉!」

 知哉さんは北嶋にけ寄る。何が起こったのかわからなくて、そこから動けなかった。
 何やら言葉を交わしていて、「飛鳥あすか、ちょっとこっち」と知哉さんが呼ぶ。
 恐る恐る近付いた。

「飛鳥。弟の廉。久しぶりに再会したんだ」

 ――弟……?

「峰飛鳥くんっていって、えっと、……俺の恋人」

 北嶋に紹介される。「いいよね、弟だから。本当のこと言って」と知哉さんが言う。
 北嶋と目が合っている時間は、一、二秒のはずだったのに、永遠のように感じた。
 そして北嶋は言った。

「初めまして」

 え……、覚えて、ない?

 ――俺、ずっと気になってたんだけどさ。
 ――峰アスカのアスカって、どっちの漢字? 明日あしたのほう? 飛ぶ鳥のほう?

 名前を聞いても思い出さないの?

 ――峰の、そういうところが好き。

「あの、……北嶋、だよね?」

 エッと驚いたのは知哉さんだ。

「あ、高校の時、同じクラスで」
「え! そうなの?」

 すごい偶然だねと知哉さんは嬉しそうに言う。

「……ごめん、覚えてないや。俺、中学と高校、何度も転校してて」
「あ、……そうだよね。確か、来てから五ヶ月くらいでまた転校したんだよね。それに俺、クラスであんまり誰とも話さないおとなしい生徒だったから」
「転校生は目立つけど、転校生にとってはクラスのみんなを把握はあくするのってけっこう時間かかるからね」

 知哉さんがフォローしてくれる。
 夏の終わりの海でキスしたことも、北嶋にとってはたいした出来事ではなかったんだ。

「廉、時間ある? 話したいからちょっと喫茶店でも行かない?」
「うん」
「あ、知哉さん。じゃあ俺は先に……」
「廉。飛鳥も一緒にいいよね? 俺の大切な人なんだ」
「もちろん、いいよ」

 近くの喫茶店に三人で入る頃には、空は少し曇り始めていた。
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