朝起きてトイレに行く日常

我輩吾輩

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朝のトイレ

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 私は朝が苦手だ。寝起きは髪がボサボサだし、なんかぼっーと、疲れた感じがして、だるい。
 だから、目が覚めて体を動かすのも一苦労で、学校が昼から始まればいいのにって本気で思ってる。
 今日は一段と寒い。冬真っ盛りといった感じで、布団から出られる気がしない。
 カーテンが閉まっているから、部屋の中は薄暗い。ほのかに明るみがあるから朝だってことはわかるけど、眠気が覚めるにはほど足りない。
「スマホ、使うか。」
 スマートフォン、文明の利器。つい触ってしまう。あんまりよくないとは思ってるんだけど、仕方ないよね。
「えーっと、今は何時かな?」
 6時半、まだ全然間に合う、二度寝しても大丈夫なくらい。
 スマホのロックは指紋認証、左手の親指をホームボタンにくっつけて、パスワードが解除される。
「はぁ、眠いなぁ。」
 せっかくスマホを開いたけど、やっぱりまだ眠い。夜眠るのは大変なのに、なんでこんなに眠いんだろう。
 タイマーを30分後にして、もう一回寝ることにする。
 左手の人差し指、画面を閉じようとして精一杯伸ばす、すると、スマホがするりと手から抜け落ちて、
「いたっ。」
  顔に当たる。結構痛い。
「ついてないなぁ。」
 瞼をゆっくり開けて、天井を見る。
「見知った天井だ。」
 安心感がある。旅行とか、そういうイベントってやっぱり楽しいけど、知らない天井はなんか怖い。日常が遠ざかってる気がして、毎日続くと思っていたものが急に消えたような感じがして、なんか背筋にぴくって、寒気が通る。
「あの天井っていつからあるんだろう。」
 もともとは木だったはずだ。きっとアマゾンの奥地で鬱蒼と生い茂る木々の一つだったに違いない。それがある日切り倒され、見知らぬ港まで運ばれて、こうして我が家の天井にある。
「うーん、なんかそれってどうなんだろう。」
 なんか疑問に思う。でも、それがなんなのかはわからない。
「そもそもあれって木なのかな。」
 どう見ても木にしか見えないけど、最近は木に似せた感じに家を作るのが流行ってるっていうし、もしかしたら違うかも。
「って、我が家は築六十年のボロ屋だったんだ。」
 最近の流行りなんて関係ないか。って、八十年前ならアマゾンからじゃなくて近くの山から持ってきた木なのかも。
「もしかして、あの山?」
 小学校の頃、ハイキングをしていたあの山、家に帰るまでが遠足だって言われたすぐ後に転んだっけ。
「懐かしいなぁ。」
 だんだんと昔のことは記憶から薄れてくる。あの遠足だって、ほんとはもっといろんなことがあったはずだけど、今覚えてるのは転んだことと、あと、友達のみぃちゃんと一緒にお弁当を食べたこと。
「みぃちゃん、もう起きたかな。」
 私より全然真面目だし、もう起きてるかも。
「連絡してみよ。」
 スタンプを送る。
『起きてるー?』
「って、何私はスマホを開いてるんだ。」
 二度寝をすると決めたじゃないか。
 スマホを閉じて、目を瞑る。

ジリリリリリリッ
 
「もう30分たったのか。」
やかましく鳴り響くアラームを止める。
「二度寝しようと思っていたのに。」
 変なことばかり考えていて、全く眠れなかった。
「もうそろそろ起きようかな。」
 布団から立ち上がろうとして、
「寒い。」
 潜り込む。
「まだ大丈夫だし、もう少しだけ。」
 朝は寒い。布団は暖かい。これは二度寝するのも仕方ない。
 まぁ、今二度寝したら絶対に起きられないから寝ないけど。
 スマホを開き、動画を見る。おすすめ動画って、いいよね。偶然か必然か、面白い動画がたくさんある。
 今日はどこかの外国の滝の映像が出てきた。水の流れる音が心地よい。
「なんかトイレ行きたくなってきた。」
 トイレ、部屋から出て階段を降り、そこからリビングを通り抜けてようやくトイレがある。
「まだ、我慢できる。」
 違うおすすめ動画を見る。可愛い猫の動画だ。癒される。うっ、尿意が、いや、まだ我慢だ。
「大丈夫、私、まだ耐えられる。」
 犬の動画を見る。尻尾を振る様子がとても可愛い。次の動画を見る。犬が水の中を泳いでいる。随分と綺麗な水だ。どこにあるんだろう。水がばちゃばちゃと、飛び散っている。
「そろそろ、我慢の限界。」
 立ち上がり、ゆっくりとドアの前まで行く。
「ふぅ、寒い。」
 パジャマが防寒着としての役割を全く果たしていない気がする。
「布団が恋しい。」
 ドアを開け、階段を降りる。一歩一歩が私の体を揺らす。
「大丈夫、大丈夫だからね。」
 お腹をそっと撫でる。
「ひぃ、ふぅ、みぃ。」
 やっと降り終えた。
 トイレはもうすぐだ。
「トイレトイレ。」
 弟が、階段の上から、トイレの名をいう。
「私が先ダァ!」
 全力で走る。リビングにいた両親が、ちょっとびっくりした様子でこっちを見る。
「俺が先だ!」
 階段を駆け降りる音が聞こえる。
 それを尻目に、私はトイレのドアを開けた。
「残念、私の勝ちだよ。」
 こんな日常。
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