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39ピンクのスカーフ

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今日あった嫌なことを忘れるためにもベッドに潜る。
静かな部屋は、気を紛らせることが出来ない。心がずっとセオルド様を責め続ける。

「これは、ダメだわ」

冷静になればなるほど気持ち悪い。
ベッドから出てすぐに使用人部屋に向かう。

「お嬢様、どうしたのですか?今日は体調が悪いと伺いましたが…」

「ごめんなさい、メアリー。まだ陽も出ているし掃除でもしているわ。いつもの道具借りるわね」

箒、塵取り、モップに雑巾がバケツに入っている。

「それは私的には助かりますけど、ダイニングと廊下からお願いできますか?」

「わかったわ」

不思議なもので身体を動かしていてもまだセオルド様の事がよぎる。
ゴミをセオルド様だと思う、取る。床の傷、シミ、汚れ、セオルド様だと思う。

無言でゴシゴシと磨く。
サッサとゴミを集め捨てる。

不思議とスッキリしてきた。
納得は出来ないけど、ちょっとあの人のことなんてどうでもいい…と思えてきた。
もう関係ないし、会わないし、同情もしない、ただの気持ちの悪い人、サッサと集め捨てて、後に残らないよう磨く。

どんどん綺麗になっていく。ゴミをとれば汚れが気にならなくなっていく。

そんなものよ…
もう少し会話があったら…そんな事考えない、これも汚れ。
これからセオルド様はどうなってしまうのだろう…これも汚れ。

どれぐらい掃除をしていたのか、気づけば日が暮れていた。

母様も今日の事を言う事はなかった。家族と食事をして、きちんと笑う事も出来た。
明日から馬車が無い事をどうしようかと考えながら眠りについた。




「へぇ~、あなたが私を追い出した子なの。平ー凡ー。うーん、部屋の中も寂しいわね。どう考えても注目を浴びるって感じじゃないわ。嫌だわ~おかしいわね、こんな子に負けるなんて。でもこれから私の代わりはあなたになるのかしら?負け犬の遠吠えと思って最後呪いましょうか、それとも乗っ取りましょうか…それも面白いわね。あなたの身体で今度こそ確実にみんなから搾り取って、フフフ幸せになりましょうか」

頭の上で空気が擦り合わせるような音。
「ん?」

目を開けたのか、開けてないのかもわからない暗い世界にピンクのふわふわと揺れているスカーフ。

「どこかで見たような」


「そうでしょうとも、私は有名人だからね!あなたは見た事もない子ね。磨けばどうにかなるかしら?もう少し肉付きを良くして、本当にあなた貴族?髪なんて箒じゃない!どうしたらこんなになるのよ。手入れも何もしていない雑草ね。仕方ないか、もうちょっと良い素材の令嬢にいきたいけど、まぁ彼らとの関係性もあるし、怨みがあるからね。あなたは消えてね。良かったわね、この私があなたになってあげるわ。フフ、怖くて話せない?

…目が合っているわよね。
嘘よ!
やだわ、この子、私のこと見ることも出来ないなんて、心外だわ!全く私に興味がないってこと、無関心?姿さえも意識してないってこと…あり得ない。他の女生徒だって羨望も妬みも怨みも私はみんなの欲を集める存在よ!
なんてことよ!私、凄く、すご~く有名人ですけど!生徒会メンバーをメロメロにしちゃった悪女ですけど。見てよ私を、認識してくれなきゃ、気づいてもらわなきゃ降霊も呪詛も出来ないじゃない!」

何か頭の上から空気がごちゃごちゃして、揺ら揺らして話しているみたいに聞こえるけど、何言っているのかわからない。

「何だろう?これは夢?気持ち悪い。空気って掃除出来るかしら?」
両手で頭の上の空気が歪んだところを懸命に払った。

「はあ!?やめなさいよ!」

なんか空気の塊が動くみたいで、そしてピンクのスカーフが揺ら揺らして気味が悪いのに振り払う手にスカーフが絡まってしまった。

「ウワッ、気持ち悪い~」
慌て振り払って、スカーフを床に落とした。

「嘘っ!痛い!あ、最後の楔っ」




「おはよう~ティアラ嬢」
響く声。

あぁ、この軽い感じ悪魔がいる。まだ朝食前だよ。

「おはよう~」
と庭あたりで騒いでいるのを2階の窓から確認すれば、やっぱりシリル殿下…
何故こんな朝早くに!!

慌てて着替えると、床にピンクのスカーフが落ちていた。
「何これ?こんなの知らない…
どこかで持ってきちゃった?」

どうしようか?

あぁ、悪魔の声が軽やかに響いて聞こえてくる。
窓を開けて、
「すみませーん、もうしばらくお待ちください」
と言った。手に持っていたピンクのスカーフは、スルッと手から抜け、全く風もないのにふわっと飛んでいく。

「庭に落ちたかしら?後で洗えば良いかしら、それよりも急がないと」

軽く髪を解かし、顔を洗って玄関に向かえば、やはり慌てた姿の両親と執事にメイドと鉢合う。

執事が玄関を開ければ、笑顔満開のシリル殿下がフリルのついた衣装で手を振っていた。
母様なんて驚いて一緒に手なんか振っているし。

「やぁ、おはよう。気持ちのいい朝だね。今日は君いやビルド侯爵にプレゼントだよ。これ!」
と手を広げた。

「これ?」
と首を傾げた。

「わからない?これ」

「ん?」

「もう、ティアラ嬢ったら、馬車!これあげる。もうじきトリウミ王国に行くから、私用の馬車いらないからさ、あげるよ。ふふふ、なんと馬付き。嬉しい?ねぇ嬉しい?」
と無邪気な感じを出してくるシリル殿下。

昨日考えていた馬車問題が解決した。
「うれしい」
と思わず言ってしまった。

「そりゃ良かった、無印だからここら辺に侯爵家のマークつけなよ。あぁ良かった。いい事したな。では私のお願い聞いてもらってもいい?」

あぁーーーー
またかーーー
出たよ、お願いという命令!!

「なんて顔しているのさ、全く。パーツは良いのに目立たないのは、敢えて地味推ししているとか?まぁいいや、今日は私とデートに行こう。それがお願いだよ。じゃあ、早速ビルド侯爵、ティアラ嬢をお借りします。この馬車好きに使ってね」
とウインクした後、私の手を取る。

その流れる動作は美しい。あれよあれよの内に王族用の馬車に乗り込んだ。

もうすっかりピンクのスカーフのことは忘れていた。
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