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65日常

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サクラさんが捕まって、一か月が経った。
彼女がどうなったかは、私達には告げられていない。留学生という部分があるらしく、退学、停学などの話も聞かない。ミンネは、元気を取り戻し登校して今は、サクラさんが来る前の雰囲気に教室内は戻った。

所謂、私は、一人ぼっちじゃない。
私を悪く言っていたクラスメイトは行き場を無くしたみたいに小さくなっている。弁明として、サクラさんに黒魔術で操られていたと言っていたけど…

「でも、本当にティアは変わったよね。半年前とは、大違いだよ」
とミンネが言う。
「確かに知り合いが増えたけど、そんなことはないよ」
と答えると、みんなとんでもないと手を振る。
「もう、見た目が洗練されていて…まず、顔の血色も良くなって、肌も髪も綺麗になったわ!羨ましいほど!」

「本当に~、こんなお綺麗な方なんて知らなかったですもの」
とクラスメイトに言われて、
…少し複雑。

確かに、シリル殿下の贈り物のおかげで肌もガサガサからしっとり玉のような美肌に。髪も毛先がゴワゴワの広がった箒から、艶のある真っ直ぐに伸びた髪に変化した。
…高い物は、それだけ価値があると身をもって知ることになった。

人って見た目で言われ方が大きく違う事を感じる。今はしっかり、身分というか侯爵家みたいな扱われ方をしている。未だに家の中での仕事もしているのだけど、我が家も余裕が出てきて、料理人に来てもらうことになったのは、嬉しい出来事だ。

みんなから手のひら返し的な扱いに憤ったけど、前まで見た目を気にする余裕もないほどだったのだから、侮られて当然。名前だけの侯爵家…私でも言っていたのだから、私自身が踊らされることなくしっかりしようと思う。

「違うわよ、ティアが綺麗になった原因は、想いを寄せる人がいるからよ~」
とミンネが笑いながら言う。

何を馬鹿な!
全くあの日の聖女イベントから、シルベルト様との仲をがっつり疑われている。

「違うから」
と言っても、
「いやいや、サクラが掴みかかった時、シルベルト様は、段の上から飛び降りて、ティアの元に駆けつけたからね。台本にないから慌てたんだろうね。周りに騎士がいるのに!本気で王子様だったからね!かっこよかったわよね~、はぁ、見れなかったのが残念なくらいよ。サクラを倒したティアが、怪我をしないように一瞬で抱き上げたシーンなんて、今思い出しても、歓声あげてしまうわ。あれを見てしまったら、もうね、不釣り合いなんて誰も思えないよ。本当に白いドレスが聖女みたいで王子様に抱き抱えられている、その時ふわッとベールが上に舞ったのよ。一枚の絵だったんだから~」
と興奮しながら話すミンネに、クラスメイト達もみんなうっとり頷く。

「ねぇ、聞いて、いつもこの話になると夢の世界にみんな行って私の話聞いてくれないでしょう?本当に色々誤解があるのよ!」
と言ってもみんな溜息をついたり、また各々の世界に行ってしまった。

そう、こんな感じで、私とシルベルト様は、『公認の仲』みたいなみんなの認識に変わってしまった。

乙女達の妄想は歯止めがきかない。

カミューラ様は、退学を取り消されたのにまだ学園には来てない。今までの事、ロフト公爵と共に謝罪の行脚に行っているとイリーネ様がおっしゃっていた。

その時の私が凄く不思議な顔をしたらしく、
「全く相変わらず失礼な子ね!私は、謝る行為はしていませんから。ちょっと嫌味を言ったり、私の認識のゴミを捨てたり、少し扇子を振り回して踊ったりしている程度よ。全くカミューラ様たらどうしてしまったのかしら?すっかり気落ちしてしまったのよ」
と遠くを見るように寂しげな顔をしていたけど、私を見てプリプリ怒っていた。それでも、事あるごとに仲間内を紹介してくれたり、お茶会に誘ってくれたり、お茶会の催促されたり、なんだかよく話す間柄になった。

「いたわね、ティアラ様。話を聞かせてくれるかしら?」
とバタバタと早足で横から入り込むのはブランカ先輩。なんでも本を書くそうだ。今は、取材と証拠集めに走り回っているらしい。

「それよりもブランカ先輩、先生が探してましたよ。テストを受けてないって」
と言えば、
「まぁ、そうね。でもね、テストより情報よ。情報はナマモノ、明日には形を変えて真実から遠くなるかもしれないわ」
と宣言してまた去っていく。

「卒業する気ないのかしら?」



そして本日は、本当の聖杯のお清めの日。

私とミンネ達王宮の使者様から招待状を受け取った令嬢とその姉妹や友人が参加していた。

本物の聖杯は、銀製のとてもシンプルな円錐形の形の物で、高さも15センチ程度。もちろん花瓶みたいでもなく、私達が持っていたコップみたいなのでもなかった。

台座の上に綺麗に並べられていて、中身は何も入っていない。司教が何かを読み上げ始めた。聖女はいない。数人のシスター達が祈りを捧げている。
そして扉からゆっくり教会の方達が台座に向かい歩き、両手の中の水をゆっくりと聖杯に捧げ満たしていった。

また司教が読み上げていく。シスター達はずっと動かず祈りを捧げているようだ。

何かが起きるわけではないのに、ただ威厳とか粛正とかを感じる空気がそこにはあった。
聖杯を司教達が持ち上げ、扉に歩いて行った。最後の一人が出ていくと扉が閉まり、読み上げていた司教が、

「本日はありがとうございました。速やかにお帰りください」
と終了を告げられた。

「はぁ、終わったわね。私語禁止とか言われなくても話せる雰囲気じゃなかったわね」
とミンネに言われ、
「確かにね」
と答えた。

「じゃあ、約束のカフェに行きましょうか?」
というと、ミンネは、困った顔を少ししてから、
「うーん、ティア。ちょうどお迎えが来ているわよ」
と言われ、
「ミンネ、予定が出来たの?」
と聞くと、
「違う、違う、私じゃなくてティアの方ね。いってらっしゃい、お姫様」
とミンネの指す方角を見ると、

「すまない、ミンネ嬢、予定を変えてしまったんだな」
教会の外に出て立っていたのは、シルベルト様。

「ティアラ嬢も突然すまない、中々事後処理が終わらなくて、ここまで長引いてしまった。留学生なのでトリウミ王国とのやり取り、サクラ嬢の扱いが大変で学園にも行けなかった。ティアラ嬢もかなり関係していたから、しっかり説明しないとと思っていたのだけど…今から時間があるかな?」
と言われ、ミンネを見る。手を振るミンネ。そして、歩き始めて去っていってしまった。

「はい」

「では、もし良ければ、屋敷に招待したいのだが?あまり話を聞かれたくないから…迷惑だろうか」
と言われると、確かにカフェで話すような話ではないだろうな。

魔法具とか気になるし、しかしレイヤード公爵家に行くって何となく違うようなと考えているうちに、信じられないぐらい大きなお屋敷、薔薇のアーチが見える庭園、玄関前に何人も使用人が並び、馬車から降りた世界は私が知らない世界でした。
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