市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ

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文化祭編

第9話

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「というか、なっちゃんも水臭いね~。なんで何にも話してくれなかったのさ? いつノロケ話が聞けるのかなって、楽しみにしてたのに」
「だ、だってそんな……こんなこと、おおっぴらに話せないじゃないか」

 翔太はたまたま偏見のない人だったが、他の人もそうとは限らない。「男同士でつき合うなんてキモい!」とか「現役教師と生徒の交際なんてけしからん!」と思う人は、山のようにいる。

 急に不安になってきて、夏樹はこっそり翔太に聞いた。

「……あのさ。翔太が気付いたってことは、他の人たちも薄々感付いてるのかな」
「んー……まあ、噂にしてる人はいるかもね。でもなっちゃんがハッキリ認めない限りは大丈夫じゃないかな?」
「……そうか?」
「そうだって。こういうのは決定的な証拠を掴まれない限り、とぼけ続ければなんとかなるもんだし。先生だって、なんだかんだで言い訳上手だから……なっちゃんが気を付ければ多分バレないと思う」

 俺が気を付けなきゃいけないのか……と思ったけれど、確かに一番ボロを出しそうなのは自分かもしれない。以後、注意しよう。

 キチンとネクタイを結び直し、夏樹は翔太と校舎裏の離れに向かった。

 普段は滅多に来ることのない(というか、ぶっちゃけ初めて来た)場所には、確かにこぢんまりとした和風の建物があった。小さいけれど決して貧相ではなく、ほのかな品格が漂っている。

(これが茶室か……)

 初めて訪れた場所なのに、不思議と身体に馴染むような気がする。日本人のDNAに組み込まれている「和」の心が、静かに刺激されるような感覚がある。

 茶道ってハードルが高いと思ってたけど、俺……意外とこういうの好きかも……。

「おっ! やっと来たな。準備できてるぞ~」

 タイミングよく市川が茶室から出て来てくれた。いつものジャージ姿ではなく、ちゃんと着物に袴を纏っている。
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