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第4話

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 ぶらぶらと町を歩きながら上を見上げる。ゲノム学園には空はない。太陽も昇らないし、雨も降らない。いつも同じ天気、同じ気温、同じ湿度に保たれている。自然な変化などない。

 だから夜でも、月や星は見られない。夜っぽく照明が落とされるだけだ。地下にある施設だから仕方ないとは思うけれど、こういうところは少々味気ない。

(外に出たら、もっと大きな空を見られるんだろうな……)

 昼には済み切った青空。夜には満天の星。灰色に曇った空や、日の入り前の夕焼けも見てみたい。

 だけど一番見たいのは、雨上がりに時々見られるという七色の……。

「ナンバーフォウ、夜間外出。警告一回目」

 突然背後から女性の声が聞こえて来て、フォウはビクッと肩を震わせた。驚いて後ろを振り返ると、そこには膝丈程度のロボットが音もなく佇んでいた。

 ロボットと言ってもヒト型ではない。白い円筒状のボディーを持ち、それが三六〇度回転する仕組みになっていた。移動は戦車のようなキャタピラで行っており、足場の悪い場所でも進入できるようになっているらしい。頭部には全方位カメラが搭載されていて、その横から伸びる赤いヘッドランプが自分を指し示していた。

 先程の声は、このロボットからの機械音だったのか。

 フォウは愛想笑いも交えて適当に答えた。

「あ、すみません。今すぐ戻りますんで」

 そう言ってみたけれど、ロボットの警告音は止まらなかった。キャタピラを動かし、ボディーの側面から射出型の小銃を出してくる。

「ナンバーフォウ、夜間外出。警告二回目」
「え? いや、ちょっと待って……」

 そんなすぐに警告二回目とか言われても困るんだけど……。

 というかこのロボット、小銃なんて内蔵されていたのか。本当に撃ってくることはないだろうけど、ちょっと外出していただけで威嚇してくるとか、随分物騒なプログラムを組まれている。自分が代わりにプログラムを書き換えてやりたい。

 心の中でツッコミを入れていると、すぐさま次の警告音が聞こえて来た。

「ナンバーフォウ、夜間外出。警告三回目。累積三回により射殺します」
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