ドリーム博士の黄金の薬

夢咲まゆ

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第20話

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「この試験管を、『博士が今一番好きな人物』のフィギュアに変えてください」
「あー!」

 見ていられなくなって、直人は目を逸らした。

 こんなもの知ったところでロクなことにならない。もし自分のフィギュアになったら意識してしまうし、違う人物だったらそれはそれでショックだ。どちらにせよ、今までと同じ態度で博士に接することが難しくなってしまう。

 だから止めたのに……と嘆いていると、

「吉田さん、吉田さん」
「見ない! 俺はそんなの見ないからね!」
「いえ、それが……予想と全然違う結果になっちゃったんです」
「聞こえません。何も聞こえません」
「だからそうじゃなくて……吉田さんでも他の人でもないんですよ」
「えっ……?」

 直人は恐る恐る純に目をやった。彼が手にしていた試験官は、確かに『ある人物』のフィギュアに変わっていた。

 でもこれは……この人物は……。

「……博士だね」
「博士ですよね……」

 丈の長い白衣を纏った、ひょろりとした青年。小奇麗にすればハンサムに見えるはずの顔には、だらしない無精ひげが生えており、いつも研究所で見ている博士の姿そのものだった。

 この結果には、純もやや困惑しているようだ。

「まさか、博士が一番好きな人物って博士自身だったんですか!?」
「……まあ、そういうことになるね」
「ええ~? じゃあ、とんでもないナルシストってことじゃないですか!」
「いや、そういう意識はないと思うよ。ただ博士は研究以外のことは眼中にないから、他人のことが目に入らないだけで……。だから必然的に自分が一番になる」
「そういうものなんですか……?」

 純は未だに納得できていないようだが、直人は少しホッとしていた。

(……やっぱり博士は博士だね)

 ある意味、一番安心できる結果だ。余計な気を揉まずに済む。

「純くん。そのフィギュア、もらっていい?」
「あ、はい……どうぞ」

 直人は『博士フィギュア』を受け取り、それを大事にポケットにしまった。

(これ、後で博士にプレゼントしてやろう)

 そう考えたら、自然と笑みがこぼれた。

「……吉田さん、なんだか嬉しそうですね?」
「そう? 別になんでもないよ」

 ……今日も研究所は平和だ。
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