50 / 58
第三章 鳥籠詩
七話 不快
しおりを挟む
◇
渚は幼い頃から兄にべったりだった。
大きくなるにつれて、周りからはブラコンなどと言われたりもする程、兄に付き纏う日々。
土日も大型連休も、友達より兄と出掛ける日の方が多かった。
だが渚が高校生の頃、兄が関東の大学に進学してしまい離れ離れとなる。
渚もついて行きたい気持ちはあったが、そこまでの決断に踏み切れず結局は見送る形となった。
けれどまた、別の理由もあって渚は関西に引き留まった。
魂鎮メの連中に一泡吹かせてやる事だ。
幼い頃から聞かされ続けて来た、関東にはもの凄い祓い屋の一族がいると。
まるで自分たちが劣っているかのような言い回しに、渚は当時から不快感を覚えていた。
関東なんかどうでもいいのに、関西にまで話を持ってくるな。
そんな感情が、会った事もない人間に対してどんどん強くなっていった。
渚は魂鎮メを心底疎ましいと思っていた。
「ねえ、あんたの服ってボーイッシュ過ぎない?サイズはいいんだけどさ、持ってる服偏り過ぎでしょ」
「うっさいわ!22にもなるとこれくらいがちょうどええねん!」(※個人の見解です)
お好み焼き屋から帰り、渚と芽唯は明日の為の準備をしていた。
カナリア炭坑に行く為の準備である。
渚の家からは多少の距離を要するので、予定では二日に掛けて向かう。
なので着替え等を鞄に詰め込んでいるところであった。
「ホンマ、あんたは口を開けば文句ばっか。芸能人はホンマに性格悪くなるんちゃうか」
「ま、そうかもね。そのせいかは微妙だけど、メンバーとも上手くいかなかったし、LOVE※のリーダーって言っても憎まれ役でしかなかったし。どうでもいいけど」
芽唯は右手をひらひらさせて他人事のようにそう言った。
けれど続け様に、今度は渚の意表を突くような言葉を言ってくる。
「でも私が気兼ねなく本音で話せるのって、夜御坂さんとあんたくらいだから」
「……なんや自分、調子いい事言いおるやないか。ウチに惚れでもしたか?」
ドヤ顔でそう言ったはいいが、その場の勢いで出た言葉だった。
だから渚は流されるとばかり思っていたのだが。
「そうかもね。あんた、百合に抵抗ないんでしょ?」
「え?いや、ゆーたけど」
四つん這いでこちらへと近づいて来る芽唯に、渚は不覚にも心臓が高鳴り出してしまう。
芽唯の顔が間近に迫った。
やはりトップアイドルだけあった、端整で綺麗な顔立ち。
妖艶さを覗かせるのは、アメジストの瞳。
「顔が赤いわよ?渚――」
そう言って芽唯は渚の顔に触れて来た。
ピクリと反応したが、それ以上動く事が出来ない。
「……ちょ、あかんて。ウ、ウチには愛する彼氏が……」
「浮気、しちゃおっか?」
芽唯の唇がゆっくりと渚の唇に近づいて。
渚はそんな場の空気に流され、とうとう目を閉じた。
「――ぷっ、あははっ!もう、冗談だってば」
「……へ?」
渚は呆けた顔で芽唯を見る。
当の本人は腹を抱えて笑っていた。
「あんた、意外と流されやすいタイプだったのね。そんなんじゃまだ、彼氏とキスもしてないんじゃない?」
プルプルと渚の全身が震えだす。
そうして勢いよく芽唯へと手を伸ばした。
「……芽唯コラーー!!」
「あははっ!痛いって!」
渚は芽唯の頬を思いっきりつねった。
渚は魂鎮メの人間を心底疎ましいと思っていた。
でもそれは、まだ出会っていなかったからだ。
出会ってみれば案外、愉快なもので。
例え性根が捻じ曲がっていたとしても、好ましいくらいには思えたのだ――。
渚は幼い頃から兄にべったりだった。
大きくなるにつれて、周りからはブラコンなどと言われたりもする程、兄に付き纏う日々。
土日も大型連休も、友達より兄と出掛ける日の方が多かった。
だが渚が高校生の頃、兄が関東の大学に進学してしまい離れ離れとなる。
渚もついて行きたい気持ちはあったが、そこまでの決断に踏み切れず結局は見送る形となった。
けれどまた、別の理由もあって渚は関西に引き留まった。
魂鎮メの連中に一泡吹かせてやる事だ。
幼い頃から聞かされ続けて来た、関東にはもの凄い祓い屋の一族がいると。
まるで自分たちが劣っているかのような言い回しに、渚は当時から不快感を覚えていた。
関東なんかどうでもいいのに、関西にまで話を持ってくるな。
そんな感情が、会った事もない人間に対してどんどん強くなっていった。
渚は魂鎮メを心底疎ましいと思っていた。
「ねえ、あんたの服ってボーイッシュ過ぎない?サイズはいいんだけどさ、持ってる服偏り過ぎでしょ」
「うっさいわ!22にもなるとこれくらいがちょうどええねん!」(※個人の見解です)
お好み焼き屋から帰り、渚と芽唯は明日の為の準備をしていた。
カナリア炭坑に行く為の準備である。
渚の家からは多少の距離を要するので、予定では二日に掛けて向かう。
なので着替え等を鞄に詰め込んでいるところであった。
「ホンマ、あんたは口を開けば文句ばっか。芸能人はホンマに性格悪くなるんちゃうか」
「ま、そうかもね。そのせいかは微妙だけど、メンバーとも上手くいかなかったし、LOVE※のリーダーって言っても憎まれ役でしかなかったし。どうでもいいけど」
芽唯は右手をひらひらさせて他人事のようにそう言った。
けれど続け様に、今度は渚の意表を突くような言葉を言ってくる。
「でも私が気兼ねなく本音で話せるのって、夜御坂さんとあんたくらいだから」
「……なんや自分、調子いい事言いおるやないか。ウチに惚れでもしたか?」
ドヤ顔でそう言ったはいいが、その場の勢いで出た言葉だった。
だから渚は流されるとばかり思っていたのだが。
「そうかもね。あんた、百合に抵抗ないんでしょ?」
「え?いや、ゆーたけど」
四つん這いでこちらへと近づいて来る芽唯に、渚は不覚にも心臓が高鳴り出してしまう。
芽唯の顔が間近に迫った。
やはりトップアイドルだけあった、端整で綺麗な顔立ち。
妖艶さを覗かせるのは、アメジストの瞳。
「顔が赤いわよ?渚――」
そう言って芽唯は渚の顔に触れて来た。
ピクリと反応したが、それ以上動く事が出来ない。
「……ちょ、あかんて。ウ、ウチには愛する彼氏が……」
「浮気、しちゃおっか?」
芽唯の唇がゆっくりと渚の唇に近づいて。
渚はそんな場の空気に流され、とうとう目を閉じた。
「――ぷっ、あははっ!もう、冗談だってば」
「……へ?」
渚は呆けた顔で芽唯を見る。
当の本人は腹を抱えて笑っていた。
「あんた、意外と流されやすいタイプだったのね。そんなんじゃまだ、彼氏とキスもしてないんじゃない?」
プルプルと渚の全身が震えだす。
そうして勢いよく芽唯へと手を伸ばした。
「……芽唯コラーー!!」
「あははっ!痛いって!」
渚は芽唯の頬を思いっきりつねった。
渚は魂鎮メの人間を心底疎ましいと思っていた。
でもそれは、まだ出会っていなかったからだ。
出会ってみれば案外、愉快なもので。
例え性根が捻じ曲がっていたとしても、好ましいくらいには思えたのだ――。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる