水着の紐が解けたら

五織心十

文字の大きさ
1 / 1

しおりを挟む


 それは、私が大学に進学して初めての夏を過ごしていた、とある暑い日の出来事___



「え、えぇぇぇぇぇ!? 嘘でしょう…!?」

 自宅マンション前の道端にて。たった今、スマホに通知されたメッセージの内容に、私は控えめながらにも叫ばずにはいられなかった。

 何故なら今日は友人達と海へ遊びに行く約束をしていた……が、まさかの全員ドタキャンという事態発生。
 こっちは出掛ける準備万端で、意気揚々と自宅を出たばかりだというのに……。
 悲しくも、この日の為に新調した水着やサンダルは、その出番を失くしてしまったのである。

「そんなぁ……」

 肩を落とし、がっくりと項垂れる。
 テンションはだだ下がりだ。楽しみにしていた分、その反動はすこぶる大きい。

 海への未練は、そう簡単には消えそうになかった。

「行きたかったな……」


「___どこに?」

 不意に返って来た返事に、一瞬空耳かと疑う。
 声のした方へと振り向けば、そこには思わぬ人物が立っていた。

「よっ! 久しぶりだな!」
「え……お、お兄ちゃん…!?」

 驚くことに___その人は昔、同じマンションに住んでいた、五つ上の幼馴染だった。


 兄弟のいない私は、彼を”お兄ちゃん”と呼んで慕っていた。幼い頃は毎日のように遊んでもらっていた記憶がある。
 お兄ちゃんが大学進学を機に家を出てしまって、就職も地元ではなかったことから、顔を合わせることもなくなり、それ以来すっかり疎遠になってしまった相手。
 当時私は中学二年生だった。だから約五年振りの再会…?

「よく、私だって分かったね…?」
「ん? だってお前、全然変わってねぇし」
「ひどっ! そんなことないもん!」
「あはは! ほら、変わってねぇ」

 白い歯を見せ、すごく楽しそうに笑うお兄ちゃん。その顔を見てたら、さっきまでの鬱々とした気分が、少し晴れたような気がした。

「で? 暗い顔してた理由は?」

 ひょいっと私の顔を覗き込んでは、そう尋ねて来るお兄ちゃん。
 どうやら気付かれていたらしい。昔からお兄ちゃんに隠しごとはできなかったもんなぁ、私…。

 私はお兄ちゃんに事の経緯を全て話すことにした。
 すると、お兄ちゃんは唐突にこう言ったのだ。

「行くか?」
「え?」
「海」





***





「___海だぁぁ!!!」

 天気のいい今日は、まさに海日和。たくさんの人で賑わう海辺で、潮風の匂いを胸いっぱいに吸い込む。

「おーい、はしゃぎすぎて迷子になるなよ~」
「はーい!」

 子供扱いされても、今の私なら素直に聞き入れちゃう。だって、諦めていた海に、お兄ちゃんが連れて来てくれたのだから…!
 嬉しすぎて、私の頬は緩みっぱなしだ。

 早速、上着を脱いで水着姿になる。

 そんな浮かれた私の様子を、お兄ちゃんは持って来たビーチボールに空気を入れながら、横目で見ていた。
 そのあまりにも刺さる視線が気になって、私は聞いてみた。

「えっと、お兄ちゃん?」
「ん?」
「その……なんか、変…?」
「え? いや………育ったなぁと思って」

 お兄ちゃんの視線が下がる。そこは……私の、胸。

「…っ!? お、お兄ちゃんのえっち! スケベ!」
「悪ぃ、悪ぃ、だってよ、あのポッコリ腹出してた時のお前を知ってるからさぁ」
「いくつの時の話してるのさ!?」

 胸を隠すように腕をクロスさせたが、一度意識してしまえば、なんだかそれはもう意味のないようなことに思えて…。

「もう! お兄ちゃんなんて知らない!」
「あ、おい!」

 恥ずかしさから、私は一人でその場から離れてしまった。





「お兄ちゃんのばか…」

 賑わうビーチをトボトボと一人で歩く。ほんのり顔が熱を持っているのは、照りつける太陽のせいだけではきっとない。
 さっきの一件で、何だか自分の体がとても恥ずかしいもののように思えてしまう。上着を置いて来てしまったことを心底悔やんだ。

 単純に海に連れて来てもらえたことに喜んでいた、さっきまでの自分には、もう戻れそうない。
 当たり前のことを今更ながらに気付かされてしまった___私達はもう、お互い子供ではないのだと___

「自分だって、全然……」

 ふと、さっきまで一緒にいたお兄ちゃんの姿を思い浮かべる。
 私の記憶の中のお兄ちゃんより高くなった背、大人びた顔、そして引き締まったカラ___

「なにを! 思い出してるの! 私っ!!」

 発火寸前の頭を冷やすには、随分と時間が掛かりそうに思えた。





「そこのお姉さーん、一人でどうしたの~?」

 必死に熱を冷まそうと奮闘している最中、その様子があまりにも不審だったのか、見知らぬ男性二人が私に話しかけて来る。

「困りごと? なんか落とした? 俺ら一緒に探そーか?」
「てか、こんなところにいつまでも突っ立ってたら、熱中症で倒れちゃうよ~」
「ねぇ、良かったら俺らの店に寄ってかない? お姉さん美人だから、一本サービスしちゃう!」
「え? あの…っ!?」

 言葉を発する暇もなく、グイグイと距離を詰めて来る二人組に、私はどうすることも出来ずにいた。
 成す術もなく、肩を抱かれそうになる___

「ちょっと待っ…!」
「うちのに、何か用ですか」

 突如、グイッと腕を引っ張られて、気付いたら大きな背中に庇われていた。

 ___この感じ、すごく覚えがある。

「え、あ、いやぁ、俺らは別に…」
「えぇと…お姉さん、困ってるっぽかったから~…」

 しどろもどろに答える男達から、私を守るように立ち塞がるこの人は___
 
「それはどうも。 もう俺がいるんで大丈夫ですから」

 いつだって、私のピンチには必ず駆けつけてくれた、私の大好きなお兄ちゃんだった。





「___アホ!」

 お兄ちゃんの第一声はそれだった。

「勝手にいなくなるやつがあるか! これじゃあ何のためについてきたのか…!」
「ごめんなさい…」

 大人になってもあの頃のまま、変わらず怒られている自分が情けないことこの上ない。
 見た目だけが変わって、中身は何も成長していないじゃないか。
 あの頃よりもずっと、なんでお兄ちゃんが今怒っているのかが、ずっと身に染みて分かるのに___

 お兄ちゃんに、心配かけちゃった…。

 目に見えてショボーンと落ち込む私に、お兄ちゃんはそれ以上何も言わなかった。
 その代わりに俯く私の名前を呼び、顔を上げさせると、私の両頬を左右に引っ張った。

「いいか、絶対俺のそばから離れるなよ」
「ひゃい」
「よし、じゃあ行くぞ」

 今度は私の手を引っ張って___

「ほら、遊ぶんだろ?」
「…! うん!」



***



 お兄ちゃんは宣言通り、全力で私と遊んでくれた。
 お兄ちゃんが膨らませてくれたビーチボールを海の浅瀬で投げ合いっこなんかして。
 年甲斐もなくはしゃぐ二人は、まるで幼き日に戻ったみたいだった。

 楽しくて、時間が経つのも忘れていた。
 途中、ボールが私の手を弾き、あらぬ方向へと飛んで行ってしまう。
 夢中になって追いかけると、そこは___想像よりも随分と深い海の中だった。

「っ!」

 海に浮かぶボールをキャッチできたことに喜んだのも束の間、足の届かない場所まで来てしまっていたことにそこでようやく気付く。
 パニックになって溺れかけたその時、すかさずお兄ちゃんは私を追いかけて、抱き留めてくれた。

「おいっ! 大丈夫か!?」
「う…、お、お兄ちゃぁぁん」
「はぁぁ……ったく、……本当にお前は目が離せないな…」

 よしよし、と、子供をあやすように、頭を撫でてくれるお兄ちゃんにしがみつく。
 お兄ちゃんは私が落ち着くまで、ずっとそうしてくれていた。



「ん……なんだ、あれ……?」

 ふと、お兄ちゃんが呟く。
 少し落ち着いてきた私は、お兄ちゃんの視線の先を追いかけた。
 そこには、今さっき掴んだはずのビーチボールと一緒になって浮かんでいる、布のようなで___
 すごく見覚えのあるそれに、私は絶叫した。

「え、え…えぇぇぇぇ!? あ、あれっ、私の、パンツっ!?」
「は…、は…はぁ!?」

 抱き合ったまま狼狽える二人。
 水面に浮かぶアレは、紛れもなく私の水着のパンツだ。

「な、なんであんな紐にしたんだっ!」
「だって友達が…!」

 そう、新調した水着は紐で結ぶタイプの物だった。それがどうやら、さっきの拍子に解けてしまったようで…。

 ___と、いうことは、今の私は___?

「っっんぐ!」
「こらバカ! 騒ぐな! 人が集まるだろ!?」

 悲鳴を上げそうになった私の口をお兄ちゃんの肩が塞ぐ。
 幸いにも、この状況に気付く距離にいる人はいなかった。

 お兄ちゃんは私を胸に引き寄せたまま、腕を伸ばしてすかさずソレパンツを回収する。

「はぁっ……よし。ほら、支えてやるから、どうにか…」
「えっ…いやっ、手、離すとか無理っ…! だめっ…!」

 僅かに生まれた二人の隙間が、地に足が付かないことへの恐怖感を煽る。
 私はお兄ちゃんの首に両腕を巻き付けて、必死にしがみついた。

「おい! 引っ付くな! 離せ!」
「いーやー!」
「お前、今の状況分かってんのか!?」

 この時のお兄ちゃんがどんな表情をしていたかなんて、私は知らない。
 ただ必死に、無我夢中で、しがみついていた。

「はぁぁぁぁぁ……ふざけんなよお前っ…」

 盛大な溜息を付いたお兄ちゃんは、半ばヤケクソになっていた。

「おいコラ、履かせてやるから足開けオラ」





「ふっ…ん…ぁっ…」

 海の中で、お兄ちゃんの手が、私の下半身に触れる。
 極力触れないようにしてくれているけれど、やっぱり他人に、しかも水の中でパンツを履かせようだなんて、難易度が高すぎた。

「エロい声出すな、アホ…」
「出してない、も…んっ!」

 パンツがお尻の割れ目に食い込んで、反応せずにはいられなかった。

 お兄ちゃんはそんな私に焦ったのか、水着の紐を引っ張ってしまう。
 すると布がもっと食い込んで、私の秘められた箇所を思いっきり刺激する。

「あっ! んぁあっ…!」
「っ…!」


 ___どのぐらいの時間、そうしていたのか分からない。
 けど、とてつもなく長い時間、そうしていたような気がする。

 ようやく水着があるべき場所へ身に付けられた時には、二人の息はあがり、海の中にも関わらず、身体は十二分に熱を持っていた。

「その顔じゃ…戻れないな……」

 私の顔を見て、お兄ちゃんはそう呟いたのだった。





「どうしてくれんだアホ」

 私は今、誰もいない岩陰に、お兄ちゃんの手によって阻まれていた。
 太陽の光を遮るように私に覆い被さるお兄ちゃんの顔は、余裕がなさそうで…頬を真っ赤に染めていた。

「えっと…」

 俯いた私の視線に映るのは、お兄ちゃんの水着の中で固く主張するソコ……。
 それを目にして、赤くなるなという方が無理な話。
 自分はお兄ちゃんよりも更に顔を火照らせているだろう。

 さすがの私も、今この状況を理解できないほど、バカじゃない___


 私はお兄ちゃんの手に触れて、恥ずかしさから上目遣いで顔を見た。

「もう……子供じゃないもん…」

 そう、私達はもう、子供じゃない___





 お兄ちゃんの少しカサついた唇が、首筋を辿る。
 熱い吐息も相まって、くすぐったさの中に、何か別の感覚が体を走る。
 心臓は壊れそうなほどドキドキしているのに、どこか心地よく感じるそれ。
 私は完全に身を委ねていた。

「……確かに、子供じゃないな」

 お兄ちゃんがそう呟いたのと同時に、胸を覆っていた布が、はらりと砂の上に落ちる。
 お兄ちゃんは器用にも、水着の紐を口で解いてしまったのだ。

 青空の下、お兄ちゃんの目の前で晒された胸に、私は恥ずかしさでいっぱいだった。

「や…見ないで……」
「その顔、反則」
「んっ」

 二人の唇が重なる。吸い付くようなキスに、呼吸も忘れてただひたすらに酔い痴れる。
 まさか、ファーストキスをこんな格好で経験するなんて…。

「考え事?」
「っんぁ…!」

 ツーっと、お兄ちゃんの指が私の腰を優しくなぞった。
 その拍子に開いた唇から、熱い舌が差し込まれる。
 どんどん深くなっていくキスに、私はついて行くだけで必死だった。

「ふぁっ…」
「苦しい?」
「ん…へーき…」
「…なら、もうちょっとだけ、いい?」
「へ…? っんぁ!」

 ベロッと首筋を舐められて、変な声が出てしまった。

「……しょっぱい」
「あ、あたりまえじゃん、海で泳いでたんだもんっ…」
「うーん……でも、こっちは甘い気がする…」
「え…ぁっ…!」

 今度は胸の頂をペロっとされる。
 さっきより一層甘くなった声に、お兄ちゃんは悪戯な笑みを浮かべた。

「やっぱり」
「な、ば、ばかぁ!」
「誰がバカだって?」
「あっ! だめぇ!」

 まるでお仕置きをするかのように、胸の先端をちゅうぅっと吸われる。
 もう片方の胸は、お兄ちゃんの大きな手のひらでやわやわと揉まれた。
 お兄ちゃんに好きに弄られた私の胸は、中心を上向きにツンと尖らせ、主張を強めていく。
 それに気づいてるお兄ちゃんは、そこを優しく、でも執拗に攻めて来た。

 胸への刺激に意識を集中させていると、今度は下腹部に手が移動した。
 両胸への刺激はそのまま、お兄ちゃんの指が水着の上から恥丘をなぞり、そのままシュルッとパンツの紐を解いてしまう。

「あ…」

 私を隠すものは全て取り払われ、照りつける太陽の下、お兄ちゃんの目の前で生まれたての姿を晒す。
 咄嗟に大事な部分を隠そうと腕を伸ばしたが、両手首を掴まれ、それは叶わなかった。

 裸を熱い視線で見下ろされ、私の頭は沸騰寸前だ。

「お前…いつからこんなエロい体になったんだ?」
「え、エ…!?」
「後ろから見てもエロい腰してるし、胸だって水着から零れてしまうんじゃないかってハラハラしてた」
「そ、そんなこと…」
「男は皆、お前のこと見てたよ」

 耳元でそう囁かれ、全身がカアッと熱くなる。
 確かに変な人に絡まれたりはしたけど、それ以外はずっとお兄ちゃんのことしか考えてなかったから、全然気づかなかった…。

 お兄ちゃんも、私のこと見て、ドキドキしてたってこと…?

「知らなかった、お前がこんなに…」 
「んっ」

 唾液で濡れた唇にチュッとキスが落ちる。

「やらしい顔して」
「ぁっ」
 
 固くしこり立った乳首に、フゥーっと息がかかる。

「感じやすくて」
「んぁぁっ!」

 誰も触れたことがない秘部に、くちゅ…と、太い指が沈む。

「ぐちょぐちょに濡らす女だなんて」

 優しく触れてくる指や唇とは裏腹に、はっきりといやらしい言葉を並べ立てられ、私の口からは自分でも聞いたことのない艶っぽい声が零れた。
 そのせいで羞恥心は余計に煽られ、私の心はいっぱいいっぱいだ。

「わ、私は、お兄ちゃんがそんなえっちぃ人だなんて知らなかったっ…!」
「男は皆そういうもんだ」
「開き直るの!?」
「てか、こんな野外で素っ裸のお前に言われてもなぁ…」
「脱がせたのお兄ちゃんじゃん!」
「その俺に感じてるのはどこの誰だ?」
「ひゃんっ♡」

 私が一つ言い返せば、的確に私の弱い性感帯を攻めて来るお兄ちゃん。
 どうやったって、お兄ちゃんの方が一枚上手。私には、もう感じることしか許されない。

 指が、卑猥な音を立てて私の中をかき回していく。
 いつの間にか太ももを伝うほど、大量に溢れ出ていたえっちな蜜をお兄ちゃんは器用に絡めとり、私の隠された花芽をグリグリと刺激し始め___

「あっそれっだめぇっ…♡!」
「なんで? こんなに体ビクビクさせて、声もさっきよりエロくなってるけど?」
「あっ、そんな、ことぉ…♡」
「俺に嘘付けると思うなよ?」
「あ、ゃっ、ぁあぁぁンっ♡♡」

 止まらない愛撫に頭の中が真っ白になって、私は気絶しそうだった。
 それが絶頂と呼ぶことをこの時の私は知るはずもなく___


「ホントにお前…可愛いな……」
「ふぇ…?」

 トロンとした瞳でお兄ちゃんの顔を見上げる。
 その表情は、紛れもなく『男』の顔をしたお兄ちゃんで___

「ごめん、挿入れないからちょっとだけ手伝って」
「!」

 お兄ちゃんは私の体を反転させ、目の前の岩に両手をつかせると、後ろから覆い被さって来た。

「お、お兄ちゃ…んぁっ♡!」
「そのまま、足、閉じて」

 お兄ちゃんの熱くて固い棒が、股の間に差し込まれる。
 腰を引かれた状態で言われたままに足を閉じると、太ももに挟み込んだそれは、私の秘部を擦るように激しく動き出した。

「あっアっ、おにぃ、ちゃん…!」
「やめて欲しくなかったら、声、我慢して?」
「ふっ、ぅっ、ンんんっ…♡!」
「ふっ…いい子だな…」
「~~~~!!!!」

 声を必死に抑え込もうと頑張る私の様子に、それ以上の行為を許されたと認識したお兄ちゃんは、そのまま動きを加速させる。

 私の秘部はこの上なく蜜で濡れそぼり、お兄ちゃんの肉棒の滑りをまるで助長させているよう。
 その度に互いの肉がぶつかり合って、パン!パン!と音を鳴らし、その反動で私の両胸は揺さぶられる。

 ギラつく太陽の下、汗を流し激しく快楽を求めあう私達。
 いつ誰が通るかも分からない場所で、全てを晒し、気持ちいいことをただひたすらに繰り返す。

 気付けば足元には大きな水溜りができていた。
 それは二人の汗と私の溢れ出た蜜が生み出したもの。

 ふと頭の中を過ったのは、まるでその光景がお漏らしでもしたかのようだということ___
 背徳感と快楽の狭間に誘われた私は、無意識の内に足に力を込めていた。

「お前っそれっ…っく!!」

 お兄ちゃんの苦しそうな声が聞こえたと同時に、びゅるるっと白い液体が飛び散った。



 二人の荒い呼吸だけが響き渡る。
 クラクラする意識の中で、後ろからぎゅうっと抱き締められ、なんとなくキスかな…と思って顔を向けると、お兄ちゃんの視線は二人の足元を見ていた。

「…? どうしたの…?」
「ガキの頃を思い出すなって…」

 まさか___

「お前、よくお漏らししてたよなぁ…」
「ちょ、それっ思い出すの禁止っ!!」

 言うまでもなく、たった今放たれた精液をも混じり合った足元のそれは、先程よりも一回り大きな円を描いていた。
 私はこの光景を一生忘れることはないだろう。

 この夏、誰にも言えない二人だだけの秘密が、またできてしまったのだった。





***





「疲れたぁぁ、お兄ちゃんおんぶ~」
「へいへい」

 すっかり陽が傾いた頃、私達は帰路を辿っていた。
 ヘトヘトになってしまった身体は、もう一歩も歩けないほど疲弊しきっていた。
 ___その理由は、恥ずかしすぎて言えないけれど。

 お兄ちゃんは文句も言わず、黙って私をおぶる。
 そんな体力が残ってるお兄ちゃんに疑問を抱きつつも、私は敢えてそれを口にはせず、大人しく甘えた。

「よかったか?」
「へ?」

 大きな背中に身を任せていると、お兄ちゃんは私にそう聞いて来た。
 返答に困って何も言えずにいると、お兄ちゃんは噴き出して笑ったのだ。

「ふはっ……海が楽しかったか、って意味で聞いたんだけど? ナニを思い出したのかなぁ? ん?」
「っ~~~!? バカ!」

 からかわれたことに気付き、お兄ちゃんの肩を後ろからポカポカと殴る。
 しかし残念ながら、今の私は戦闘力ゼロである。

「また一緒に来ような」
「…エッチなことしないなら、いいよ」
「それはお前次第だろ」
「もうあんな水着着ないもん!」
「それは残念だなぁ」

 ケタケタと笑うお兄ちゃんとの会話は、内容は変われど、ただの『兄妹』だった頃のノリそのままだ。
 そのことに安堵しつつも、どこか釈然としない自分がいる。

 なんだか、私だけが意識しているみたい…。

 お兄ちゃんのいつも通りの態度が悔しくて、私はちょっとした意趣返しがしたくなった。
 だからわざと胸を押し付けるような格好で抱き着いて、耳元で囁いてみたの。

「お兄ちゃんが、ちゃんと結んでくれるなら……着るよ?」
「………お前、覚えとけよ」

 来年は、もっと熱い夏になりそうな予感がする___



 Happy Summer End♡


イラスト:邪十
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

幼馴染みのアイツとようやく○○○をした、僕と私の夏の話

こうしき
恋愛
クールなツンツン女子のあかねと真面目な眼鏡男子の亮汰は幼馴染み。 両思いにも関わらず、お互い片想いだと思い込んでいた二人が初めて互いの気持ちを知った、ある夏の日。 戸惑いながらも初めてその身を重ねた二人は夢中で何度も愛し合う。何度も、何度も、何度も── ※ムーンライトにも掲載しています

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鬼より強い桃太郎(性的な意味で)

久保 ちはろ
恋愛
桃太郎の幼馴染の千夏は、彼に淡い恋心を抱きつつも、普段から女癖の悪い彼に辟易している。さらに、彼が鬼退治に行かないと言い放った日には、千夏の堪忍袋の緒も切れ、彼女は一人鬼ヶ島に向かう。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

処理中です...