異世界最強戦士、転生先で戦うことを禁じられる

Wataru

文字の大きさ
8 / 28

異世界最強、テストで赤点を取る

しおりを挟む
 答えは、出なかった。

 どうすれば徳が積めるのか。
 どうすれば異世界に帰れるのか。

 考えれば考えるほど、
 この世界は俺の基準から、遠ざかっていく。

(……帰れないなら)

 ふと、そんな考えが頭をよぎる。

(ここで、生きるしかないのか)

 それは、諦めに近かった。



 数日後。

 教室の空気が、妙に重かった。
 理由は一つだ。

「テスト、返すぞ」

 担任の声と同時に、
 教室のあちこちで、ため息が漏れる。

 俺の席にも、無造作に答案用紙が置かれた。

 ――赤。

 見事なまでの赤点だった。

 問題を思い返す。
 公式? 年号?
 知らない。

 異世界で剣を振るっていた時間に、
 この世界では、文字と数字を積み上げていたらしい。

「城崎」

 担任が、俺を呼んだ。

「このままだと、留年だぞ」

「……そうですか」

 淡々と答えると、
 担任は少しだけ、言葉に詰まった。

「いや、もう少し危機感をだな……」

(危機感)

 殴られることもない。
 命を取られることもない。

 だが――
 この世界では、それが「致命傷」らしい。

(……力より、点数か)

 変な世界だ。



 席に戻る途中、
 ふと、隣の席が目に入った。

 彼女のテスト用紙。

 ――九十点台。

 一瞬、見間違いかと思った。

(……高すぎるだろ)

 俺の赤点と、あまりにも対照的だ。

 視線に気づいたのか、
 彼女は少しだけ慌てて、答案を伏せた。

「あ……ごめん」

「いや」

 俺は正直に言った。

「どうして、そんな点が取れる?」

 彼女は一瞬、考えるような顔をしてから、
 肩をすくめた。

「たまたま、運が良かっただけだよ」

 即答。
 だが、嘘だと分かる。

(運で九十点は取れない)

 俺は少し間を置いてから、続けた。

「……教えてもらえないか」

 彼女が目を瞬かせる。

「何を?」

「勉強」

 教室が、ほんの一瞬だけ静かになった気がした。

 異世界で、誰かに頭を下げることはなかった。
 力があれば、それでよかったからだ。

 だが、ここでは違う。

 剣は使えない。
 拳も意味がない。

 必要なのは――
 知識だ。

「俺、この世界のこと、何も分からない」

 それは、ほとんど本音だった。

 彼女は、しばらく俺の顔を見ていたが、
 やがて、ふっと笑った。

「……私でよければ」

 軽い口調。
 重たい意味は、ない。

 だが、その一言で、
 胸の奥に、奇妙な感覚が残った。

(頼る、か)

 力を使わず、
 命を救うわけでもなく、
 正義を振りかざすわけでもない。

 ただ、教えてもらう。

 それだけのことなのに。

(……これは、徳じゃないよな)

 そう思いながら、
 なぜか少しだけ、肩の力が抜けていた。

 異世界に帰る道は、
 まだ見えない。

 だが――

 この世界で、
 生き方を覚える道は、
 ようやく、見え始めた気がしていた。

 修行は、形を変えて、
 まだ続いている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...