言葉少なめヒーローの、優しさ短編集

Wataru

文字の大きさ
1 / 6

守る対象が、私だっただけ

しおりを挟む
 夜の回廊は静まり返っていた。
 灯りは最小限に抑えられ、月光だけが道を示していた。

 私は、いつものように欄干に手を置いた。
 風が冷たい。遠くで城門が閉まる音がした。

 彼は、そこにいる。
 振り返らなくても分かる。

 足音を立てない護衛は、いつも同じ距離に立つ。
 近すぎず、遠すぎず。
 命令された位置から、一歩も外れない。

 けれど、いつからか気づいてしまった。
 私が眠れずに夜を歩くときも、
 誰にも知られずに泣いた夜も、
 必ず彼はそこにいた。

 声をかけることはない。
 慰めることもしない。
 ただ、何かが近づけば、必ず先に動く。

 ――守られている。

「……ねえ」

 声を出すと、彼はわずかに視線を向けた。
 それだけで、返事はない。

 それでも、私は言葉を続けた。

「あなたは、何も言わずに、いつも私を見守っていてくれるわね」

 彼の表情は変わらない。
 でも、視線は外さなかった。

「あなたに気持ちがなくても」
 一度、言葉を区切る。
 これ以上踏み込めば、何かが変わると分かっていた。

 それでも。

「こうして、側にいてくれるのが……嬉しいの」

 夜風が、間を通り抜ける。
 長い沈黙のあと、彼は低く言った。

「勘違いするな」

 声は冷たい。
 でも、拒絶ではなかった。

「守る対象が、貴様だっただけだ」

 それだけ言って、彼は視線を戻す。
 まるで、それ以上の言葉は不要だと言うように。

 胸の奥で、何かがほどけた。

「……わかってる」

 私は、小さく息を吐いた。

「それでいい」

 それ以上、何も言わなかった。
 言えば、壊れる。
 聞けば、線を越えてしまう。

 彼は、私の護衛で。
 私は、守られる姫で。

 それ以上でも、それ以下でもない。

 けれど、その関係が続いている限り、
 私は独りではない。

 夜が明ける頃、彼は変わらずそこに立っていた。
 昨日と同じ距離で、同じ姿勢で。

 何も変わらない日常。
 それが、なぜか救いだった。

 私は歩き出す。
 振り返らずに。

 彼がいることを、
 疑う必要はなかったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

一途な恋

凛子
恋愛
貴方だけ見つめてる……

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

好きな人と結婚出来ない俺に、姉が言った

しがついつか
恋愛
グレイキャット伯爵家の嫡男ジョージには、平民の恋人がいた。 彼女を妻にしたいと訴えるも、身分の差を理由に両親から反対される。 両親は彼の婚約者を選定中であった。 伯爵家を継ぐのだ。 伴侶が貴族の作法を知らない者では話にならない。 平民は諦めろ。 貴族らしく政略結婚を受け入れろ。 好きな人と結ばれない現実に憤る彼に、姉は言った。 「――で、彼女と結婚するために貴方はこれから何をするつもりなの?」 待ってるだけでは何も手に入らないのだから。

処理中です...