言葉少なめヒーローの、優しさ短編集

Wataru

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無口な彼

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 失恋して、落ち込んでいた日。

 私は、いつも通り明るく振る舞っていた。
 笑って、冗談を言って、
 何もなかったみたいに過ごした。

 誰にも、気づかれなかった。

 ――彼以外。

「……どうした?」

 放課後、廊下ですれ違ったとき。
 それだけ、低い声で言われた。

 立ち止まって、振り返る。

「え?」

「いつもと、違う」

 それ以上、何も言わなかった。

 理由も、決めつけも、なかった。
 ただ、そう見えた、という顔。

 私は、一瞬、言葉に詰まった。

「……別に」

 そう返したつもりだった。
 でも、声が少しだけ掠れていた。

 彼は、何も聞かなかった。

「そうか」

 それだけ言って、
 視線を逸らした。

 慰めも、追及もない。
 でも、立ち去りもしなかった。

 その言葉で、
 胸の奥が、静かに崩れた。

 誰にも見せなかった顔を、
 見抜かれたことより。

 見抜いても、
 踏み込まなかったことが、
 たまらなく優しかった。

「……ありがとう」

 小さく言うと、
 彼は一瞬だけ頷いた。

 それで終わりだった。

 次の日も、
 彼はいつも通り無口で、
 私はいつも通り笑っていた。

 でも。

 あの日から、
 世界が少しだけ違って見えた。

 分かる人は、
 分かる。

 それだけで、
 人は、また前を向ける。
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