星屑の時計塔で恋をする

ねこぴー

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老いることも、死ぬことも。だから人は、美しい。

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 霧深い街の外れに、その時計塔はあった。
 ――異世界に迷い込んだ私、雪乃(ゆきの)が最初に見つけた建物だ。

「この世界で、生きていくんだな……」
 無意識に呟いた瞬間、カラン、と塔の扉が開き、金色の髪をした青年が顔を出した。

「君、こんな時間に何してるんだ? ……あぁ、人間か。珍しいな」

 この世界は人間よりも、精霊や魔物が主役らしい。
 青年――リアンと名乗る彼は、時計塔の管理人だと言った。

「宿はない。だが、ここで寝てもいい」
 無愛想だが、どこか優しい。私は頷いた。



 翌朝、塔の上から見た景色は息をのむほど美しかった。
 リアンが言う。

「この街は“時”が止まっている。時計が正しく動けば、人々の魂も再び進むんだ」

 その言葉に、私は好奇心を覚えた。
 どうやら、塔にある時計が壊れ、街全体が半年前から同じ日を繰り返しているらしい。
 ――ミステリーだ。

「修理できるの?」
「できないさ。壊したのは“死を恐れる魔女”だからな」

 死を恐れる魔女? 私の脳裏に一人の人物が浮かぶ。
 昨夜、市場で見かけた黒いローブの少女。
 何度も同じ日を繰り返し、決して老いない彼女――。



 夜。
 私は勇気を出して魔女の元へ向かった。
 すると、待っていたかのように彼女は言う。

「あなたも死にたくないでしょう? この世界にいる限り、歳は取らない。だから壊したの」

 ――不老不死。確かに、魅力的かもしれない。
 でも、リアンの言葉が頭をよぎる。

「時を止めたら、もう恋だって進めないぞ」
 昨日、彼が冗談めかして言った台詞だ。

「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ」
 私の口から自然と出た。
 魔女は驚き、少しだけ目を潤ませた。

「あなた、誰かを好きになったのね?」
「……多分、そう。リアンって人」

 そう言うと、魔女は時計の針を動かす呪文を解いた。
 塔の鐘が鳴る――カン、カン、カン……世界が動き出した。



 リアンは私を見て笑った。
「お前、すごいな。魔女を説得するなんて」

「ただ……好きな人と、同じ時間を過ごしたかっただけ」
 言った瞬間、顔が熱くなる。
 リアンも頬を赤らめ、「変な人間だ」と笑った。

「でも、いいかもな。生きて、老いて、最後は消える――そんな時間を、お前と過ごしてみたい」

 星屑が舞う夜。
 時計塔の針は静かに進み続ける。
 異世界の恋は、こうして動き始めた。



<完>
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