統合失調症の俺が確かに世界を救った話

成葉弐なる

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第1章 救世篇

2 テレパシー

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『はい……?』

 唐突にした亜翠みずきの声に驚いて空き家の中を見回す。
 しかし空き家の中には廃材のようなものが転がっているだけで誰もいない。

「え? どういうこと??」

 混乱して俺は辺りを見回すが、またしても誰も居ない。
 まさか念話……!? そんな馬鹿な。
 そう思いながらも、俺は亜翠さんへ再び話しかけるように念を送る。

『亜翠さん……?』
『はい。えーっと、私確かに亜翠みずきですけど、これは一体?』

 亜翠さんも何やら分からず混乱しているようだった。
 しかし確かにアニメやゲームで聞き慣れた彼女の声がする。

『な、なんなんでしょうね? 急に亜翠さんの声が聞こえてきて……』
『そうなんですね。私も同じです……あの……それで貴方は、小日向拓也さんですか?』
『え!? あ、はい。そうです小日向拓也です』

 亜翠さんに尋ねられ、思わず俺は名を名乗った。
 しかし、何故亜翠さんが俺の名前を知っているのか。

『そうなんですね! なんだか変な感じですけど、よろしくお願いします!』
『はい! よろしくお願いします……!』
『えっと、じゃあこれはテレパシーってやつでしょうか?』
『どうなんですかね……えっと亜翠さんは今どこに?』
『私は今、東京の自宅です』
『そうなんですね……俺も……まぁ自宅といえば自宅ですね』

 5分もかからない場所にある空き家の前なのだが、それは置いておくことにした。

『えーっと、私、小日向さんに急にどこからか話しかけられて、それで返事をしたんですけど……』
『そうなんですね。確かに俺、亜翠さんに届け! と思って念じたかもしれません』

 それは確かにそうだ。
 確かにそうだけれど、本当に届くなんて……いや、まだそうとは限らない。俺は最近妄想に支配されていたのだから、これも統合失調症の症状の幻聴なのではないか?
 そう思い浮かぶが、亜翠さんと話すのが楽しすぎて俺はそのことを一旦忘れることにした。

 空き家の前にいるのも寒いし、眠いしということで、俺は家に帰り自室へと行く。
 その道すがらも亜翠さんと『テレパシーなんですかね?』とうだうだと話をした。
 そして自室へと着き、ベッドに寝転がると亜翠さんと本格的に話を再開する。

『それで、小日向さんはどうして私にテレパシーを送ってきたんですか?』
『いや……運命の相手だと思って……』
『運命の相手……?』

 話せば長くなる。この数週間の間に醸成していた俺の妄想の内容を掻い摘んで話すことにした。

『俺、革命のレヴォルディオンっていう自作ロボット小説を書いてるんですけど、そのロボット小説には実は8人のヒロインと結ばれることが救世主に本当になる条件って裏設定があって……』

 滔々と自作小説の設定を語る俺。
 亜翠さんはそれに、『へぇ……』と相槌を打ちながら聞いてくれた。

『でも何故8人なんです?』

 亜翠さんが不思議そうに聞いてくる。

『それは、サーストンの幾何化予想とかポアンカレ予想って知ってます?』
『聞いたことくらいは……』
『そうですよね。コンパクト3次元多様体は、幾何構造を持つ8つの部分多様体に分解されるって話なんですけど、自分も数学的な部分はさっぱり分かって無くて……ただこの現実の空間がコンパクトな3次元閉多様体だと考えた時、サーストンの幾何化予想とかポアンカレ予想みたいに、8種類の基本的部分に分割できるんじゃないかって思ったんです。それでラノベ的にもハーレムにする必要性もあったので、8人のヒロインってなったんですけど……』

 数学的部分は微塵も分かっちゃいないが、俺の小説の裏設定ではそのようになっていた。

『へぇ……それでその8人の内の一人が私だと?』
『はい……! レヴォルディオンでは織田信子ってキャラになるんですけど……』
『織田信子……どんなキャラですか?』
『義理の弟を溺愛している姉キャラで、胸がでかい秀才です!』
『そうなんですね! お姉さんキャラ得意ですよ!』
『あはは。まぁそういうわけで、小説に合わせて運命の相手は8人いる! みたいなことを考えてまして……』
『なんだ! じゃあ私だけじゃないんですねー!?』

 からかうように言われ、気恥ずかしくなる俺。
 そんな俺の心情を察してか、亜翠さんが提案してきた。

『それじゃあ、他の7人も呼んでみましょうよ』
『え……?!』
『だって、救世主になるには8人必要なんですよね?』
『まぁ小説の設定的には……』
『じゃあ、私以外にもテレパシーが届くかもしれないじゃないですか!
 やってみましょうよ! 他には誰かいるんです?』
『ええっと、他には矢張やばりみさおさんとか……』
『操ちゃん! 後輩です! 連絡先も持ってるし問題ありません。明日辺り家に呼んでみます!』

 その後、俺は俺にとっての8人が誰になるかを軽く話した。
 そうして数十分が過ぎ、テレパシーを終えることになる。

『じゃあ、今日はもう遅いですし、また明日の夜に!』
『はい! お疲れ様でした』

 話を終え、俺はこのテレパシーでの会話が本当か嘘かはたまた妄想かも分からないまま、そのままベッドで眠りについた。



 翌日の夜、午後8時過ぎ。
 俺はベッドに寝転がると、亜翠さんに仕事が終わったかどうかを確認する念話を送ることにした。

『こんばんは、亜翠さん。お仕事終わりましたか?』
『あ! 小日向さん! はい! 今日の仕事ちゃちゃっと終わらせて来ました! それと……約束通りに連れてきましたよー!』
『え!? まさか矢張さんですか!?』
『はい! いま隣にいるので、私と同じように話しかけて見てください!』

 そう言われ、俺は矢張さんに話しかけることにした。無論、テレパシーでだ。
 アホらしいと思いながらも、声優さんの声がする人々と話すことはとても楽しくて、俺は矢張さんとも話せたらきっと楽しいに違いないと思っていた。

『あの……矢張さん! 小日向と言います。おはようございます!』

 するとすぐに返事が来た。

『え……!? えっと、どうもおはようございます。矢張操と申します』

 やはり、アニメやゲームでもはや聞き慣れた美しい声がした。
 矢張操さんは亜翠みずきさんや俺から5、6学年下の今25歳の声優さんだ。
 誰が聞いてもヒロインのように聞こえる美しい声で、そして歌も上手い。
 彼女が歌った初のアニソンである、この世界が終わるとしてもという曲は俺の一番のお気に入りの曲だった。

『ちょっと待ってね、いま矢張さん混乱してるみたい』

 亜翠さんがそう言ってきて、俺は少しの間待つ。
 そうして数分すると、亜翠さんが『説明は一応しといた!』と俺に言った。

『あ、あの小日向さん……? 私テレパシーで話すなんて今まで一度もやったことありませんけれど、届いていますか?』

 矢張さんがこちらを窺うような声で俺に聞く。

『はい……! 届いてますよ。矢張さんですよね?』
『はい。矢張操です……えぇ!? 本当にテレパシーなんてできるんですね!』
『そうみたいですね。俺も驚いてます』

 そんな話をしていると、亜翠さんが『驚くなかれ拓也くん!』と割り込んできた。

『え? どうしたんですか亜翠さん』

 俺は不思議で亜翠さんに尋ねる。

『実は~もう一人ウチに連れてきてます!』
『え?!』
『あの……!』

 俺が驚いていると、もう一人の声がした。
 そしてその声には余り聞き覚えがなかった。

『声優の香月伊緒奈って言います! おはようございます! え? これで良いんですよね亜翠さん……!?』
『え? 香月伊緒奈さんって言えばあのバハロニア戦記の香月さんですか!?』
『はい! その香月です! って、え!? テレパシーって本当にできるんですね!?』

 香月さんは驚いているようだ。
 いや、矢張さんが居るっていうから、もしかしたらとは思ってはいた。
 けれど若手の超人気声優である香月伊緒奈さんまで、亜翠さんの家に来ているだなんて、誰が思い浮かべるだろう。
 香月さんは有名どころで言えば、バハロニア戦記というファンタジー戦記アニメで主役の女の子を演っている声優さんだ。
 矢張さんとは同学年で仲が良く、この間まではラジオ番組を一緒にやっていたはずだ。
 しかし俺は香月さんは厳密に言えば推しではなかったので、普段どういう声で喋るのかを余り知らなかった。ただ、声優アーティストとしてもデビューしている香月さんが、アニメのタイアップで歌った曲のMVを一度だけ見たことがあり、その時、とても可愛い好みの顔をしているなと思っていたくらいだ。だが俺はまとめブログでMVを見たあの時、思わずぶっさと思ってもいないことを書き込んでしまったことを思い出していた。

『というわけで、今ウチには矢張操ちゃんと香月伊緒奈ちゃんの二人が来てまーす! 二人共落ち着いて! これはきっと凄いことだよ』

 亜翠さんがそう宣言し、混乱しているであろう後輩声優の二人を落ち着かせている。

『亜翠さん、矢張さんは分かりますけど、どうして香月さんも呼んだんですか!?』

 俺がそう問うと、亜翠さんは『え? だって昨日話した時、声優さんの中では顔は好みだって言ってたじゃん!』と俺を責めるように言った。

 確かにそんなことを口走ったかもしれないが、しかし香月さんのことはアニメやゲームで声を知っているくらいで何も知らない。いや……Twitterでロボ好きみたいな話を見たことがあったっけ。それなら俺と気が合うのかもしれない。

『それと私、休憩時間に革命のレヴォルディオン読んでみたんだけどさ。メインヒロインの八枷声凛ちゃんって私のイメージ的には香月伊緒奈ちゃんだったんだよね! 拓也くんはどう思う?』
『どうって……確かに香月さんの普段の声がこれなら、八枷には合うかもしれませんけど……』
『でしょ!』
『でも別にレヴォルディオンのキャラの声優さんが俺の運命の相手ってわけではないと思いますけど……?』
『そうなの?』

 亜翠さんが不思議そうに聞いてくる。

『はい。俺、レヴォルディオンの刀道先輩の声は熊野彩さんがピッタリだって思ってますけど、別に熊野彩さんのこと個人的に好きってわけじゃないですから!』
『ふーん。愛紗は熊野さんなんだ? 確かに熊野さんの可愛い演技とクール演技って愛紗の普段とパイロット時にピッタリかもね!』
『ですよね! だから愛紗は熊野さんだなってずっと思ってて……』
『でも運命の8人じゃないんでしょ? なら熊野さんは置いといて! 今は操ちゃんと伊緒奈ちゃんのことね!』

 そうだ! 二人にはこの亜翠さんとの会話はたぶん聞こえていないから、わけが分からないだろう。

『ねぇ拓也くん。二人にも聞こえるようにグループ会話みたいなことは出来ないかな?』
『どうでしょう……一応やってみますね』
『うん! よろしく!』

 俺は亜翠さんに言われるがまま、テレパシーを矢張さんと香月さんの二人にも届くように念じた。

『亜翠さん、矢張さん、香月さん……聞こえますか?』
『うん、私は聞こえるー』

 亜翠さんが真っ先に答える。

『私も聞こえます!』

 矢張さんが答え、そして香月さんも『はい! 聞こえる!!』と答えた。

『おぉ……! テレパシーでグループ会話出来てる!? 私の声も聞こえる二人共!?』
『はい。矢張ですが、亜翠さんのお声も聞こえます!』
『うんうん、亜翠さんと操の声聞こえるよー』

 と3人が確認をし、グループ通話ならぬグループテレパシーは出来ているようだった。

 そこへ、香月さんが口を開いた。

『あの、小日向拓也さんって呼びにくいから、たっくんって呼んでも良いですか?』
『おーいいねー。私も拓也くんって呼ぶのなんか他人行儀だったからそうしよっかな』

 亜翠さんが賛同し、矢張さんも『はい。わたしもたっくんって良いと思います!』と賛意を示す。

「じゃあ、たっくん! 何か良くわからないけど、とりあえずよろしく!」

 と香月さんが元気よく言った。
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