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SCENE1
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まだ、帰ってこない。少し待ちくたびれた俺は、ため息をついて、意味もなくスマホの画面をスライドしたり、ゲームアプリを開こうとしてやっぱりやめたりする。ガードレールにもたれさせていた足腰も疲れてきた。
せっかく、同じマンションに住んでる凌太やリーダーもいないの確認して、俺自身の予定もバッチリだったのに、これだもんなあ。
キャップ越しに頭ガリガリかいて、一瞬タバコ吸おうと思ったけど、ここはマンションの前。携帯灰皿なんか持ってねえ。またため息ついて、ぼんやりスマホの画面を眺める。
村田、そろそろ稽古も佳境なんだろうな。今日もびっちり稽古か、それとも飲みか。飲みだろ、たぶん。あのメンバーでの飲み、正直うらやましいわ。
今が夏の初めでよかった。用が用だから事前に連絡できねえ。もうこうなったら、何時間でもこうしてここで待って……いや、不審者だと思われて通報されたら困るな。
俺は道路の向かい側にある小さな公園に移動することにした。誰もいない、遊具もない殺風景な公園。村田が帰ってくるのを見逃さないように、マンションの入り口が見える場所を探し、花壇の縁に座る。もうこの時点で充分不審者だ。なにやってんだろう、俺。なんだか笑えてくる。
まあ、もう夕方で薄暗いし、まだまだ役者としてマイナーな俺に気づくヤツなんていないだろう。そう思って、手土産のつもりでコンビニで買ったビールを一本開ける。待ってました! と言わんばかりの元気のいい音。
やれやれ、空回ってるなあ。俺みてえだわ。
なあ、知ってんだぞ凌太。俺だってそれぐらい自覚してる。だけど、どうにもなんねえんだ。好きなもんは、好きなんだ。
俺は村田が好きだ。知りあってからずっと、なによりも欲しいものであり続けている。きれいで、目が離せない。
最初に意識したのは、声。ある日大学の教室で、耳どころか心まで引っ張られるような、穏やかで深みのある美声を聞いた。声の主はと探すと、美声にふさわしいきれいな顔が目に飛びこんできた。それが村田純だった。
ココア色のなめらかな肌に、くっきりした二重で大きくて、まつげの長い瞳。形よく整った、薄い唇。黒々とした髪は長めに伸ばされていて、柔らかそうで。もし村田が女だったら、俺は次の瞬間にはアタックを始めていただろう。
つまりほとんど、一目惚れだった。でも男だし……。最初はそう思ってたけど、講義の時に村田を見れば見るほど、声を聞けば聞くほど、欲しくなっていった。仲よくしたくてもなかなか打ち解けてくれないところも、開けにくい箱みてえで、そそるポイントだった。
とうとう二年の春には、村田と同じ演劇サークルに入った。もっと村田に近づきたいっていう不純な、あるあるな動機だったから、最初は正直演劇なんてどうでもよかった。俺の顔につられて寄ってくる女達も、どうでもよかった。
大ちゃんに性愛レポートとか言われてる恋バナはみんな、気が向いた時に寄ってきた女を相手にしているだけで、村田を忘れようと思って頑張った時期もあったけど、やっぱりダメだった。女はいい匂いがして柔らかくて、嫌いじゃない。でも、なんかのきっかけですぐに冷める。飽きる。やっぱり俺は村田がいいやって、思っちまう。
欲しいって気持ちだけが強くなっていく。でも、村田に好きだって言えそうな感じには、なかなかなれなくて。俺にしてはかなりの苦戦だった。初めて男を好きになったせいか、どうにもうまくいかない。そうこうしてるうちに、新入生の一人として凌太が入ってきた。
凌太はなぜか村田に気に入られて、たちまち仲よくなった。俺は同じサークルに入って一年経っても、相変わらず常に少なくても一メートルぐらい、距離を取られてる気がしてたってのに。凌太は毎週村田に呼ばれて、飲み明かしてるっていうじゃねえか。
もう、言えそうな感じとかムードとか気にしてる場合じゃねえって焦って、速攻村田にコクった。
え、日置君これなんかの罰ゲーム? 村田は困った顔でぼそぼそ言って、ちょっと笑った。カンペキ冗談だと思われて、終わった。
部室で、夕方だった。西日が俺達を責めるように射していた。
チョコレート色の頬が夕日に照らされてつややかで、うまそうで。ぱさぱさ音をたてそうなまつげが、ちょっと潤んだ瞳に影を落として、きれいだった。
あの頃からずっと、俺にとって村田はきれいで、欲しいものだった。俺とは違いすぎて、目が離せなかった。
せっかく、同じマンションに住んでる凌太やリーダーもいないの確認して、俺自身の予定もバッチリだったのに、これだもんなあ。
キャップ越しに頭ガリガリかいて、一瞬タバコ吸おうと思ったけど、ここはマンションの前。携帯灰皿なんか持ってねえ。またため息ついて、ぼんやりスマホの画面を眺める。
村田、そろそろ稽古も佳境なんだろうな。今日もびっちり稽古か、それとも飲みか。飲みだろ、たぶん。あのメンバーでの飲み、正直うらやましいわ。
今が夏の初めでよかった。用が用だから事前に連絡できねえ。もうこうなったら、何時間でもこうしてここで待って……いや、不審者だと思われて通報されたら困るな。
俺は道路の向かい側にある小さな公園に移動することにした。誰もいない、遊具もない殺風景な公園。村田が帰ってくるのを見逃さないように、マンションの入り口が見える場所を探し、花壇の縁に座る。もうこの時点で充分不審者だ。なにやってんだろう、俺。なんだか笑えてくる。
まあ、もう夕方で薄暗いし、まだまだ役者としてマイナーな俺に気づくヤツなんていないだろう。そう思って、手土産のつもりでコンビニで買ったビールを一本開ける。待ってました! と言わんばかりの元気のいい音。
やれやれ、空回ってるなあ。俺みてえだわ。
なあ、知ってんだぞ凌太。俺だってそれぐらい自覚してる。だけど、どうにもなんねえんだ。好きなもんは、好きなんだ。
俺は村田が好きだ。知りあってからずっと、なによりも欲しいものであり続けている。きれいで、目が離せない。
最初に意識したのは、声。ある日大学の教室で、耳どころか心まで引っ張られるような、穏やかで深みのある美声を聞いた。声の主はと探すと、美声にふさわしいきれいな顔が目に飛びこんできた。それが村田純だった。
ココア色のなめらかな肌に、くっきりした二重で大きくて、まつげの長い瞳。形よく整った、薄い唇。黒々とした髪は長めに伸ばされていて、柔らかそうで。もし村田が女だったら、俺は次の瞬間にはアタックを始めていただろう。
つまりほとんど、一目惚れだった。でも男だし……。最初はそう思ってたけど、講義の時に村田を見れば見るほど、声を聞けば聞くほど、欲しくなっていった。仲よくしたくてもなかなか打ち解けてくれないところも、開けにくい箱みてえで、そそるポイントだった。
とうとう二年の春には、村田と同じ演劇サークルに入った。もっと村田に近づきたいっていう不純な、あるあるな動機だったから、最初は正直演劇なんてどうでもよかった。俺の顔につられて寄ってくる女達も、どうでもよかった。
大ちゃんに性愛レポートとか言われてる恋バナはみんな、気が向いた時に寄ってきた女を相手にしているだけで、村田を忘れようと思って頑張った時期もあったけど、やっぱりダメだった。女はいい匂いがして柔らかくて、嫌いじゃない。でも、なんかのきっかけですぐに冷める。飽きる。やっぱり俺は村田がいいやって、思っちまう。
欲しいって気持ちだけが強くなっていく。でも、村田に好きだって言えそうな感じには、なかなかなれなくて。俺にしてはかなりの苦戦だった。初めて男を好きになったせいか、どうにもうまくいかない。そうこうしてるうちに、新入生の一人として凌太が入ってきた。
凌太はなぜか村田に気に入られて、たちまち仲よくなった。俺は同じサークルに入って一年経っても、相変わらず常に少なくても一メートルぐらい、距離を取られてる気がしてたってのに。凌太は毎週村田に呼ばれて、飲み明かしてるっていうじゃねえか。
もう、言えそうな感じとかムードとか気にしてる場合じゃねえって焦って、速攻村田にコクった。
え、日置君これなんかの罰ゲーム? 村田は困った顔でぼそぼそ言って、ちょっと笑った。カンペキ冗談だと思われて、終わった。
部室で、夕方だった。西日が俺達を責めるように射していた。
チョコレート色の頬が夕日に照らされてつややかで、うまそうで。ぱさぱさ音をたてそうなまつげが、ちょっと潤んだ瞳に影を落として、きれいだった。
あの頃からずっと、俺にとって村田はきれいで、欲しいものだった。俺とは違いすぎて、目が離せなかった。
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