6 / 9
・・・
しおりを挟む
もうこれ以上続ける気はなくなってたけど、俺らしくいたかったからそう言った。このまま、時間が止まっちまえばいい。柄にもなく、そんなことを思う。
とてつもない安らぎは、とてつもないせつなさとイコールで。
まだ、来るのは早いよ。そう言っても、ひたひたと迫ってくるのをやめない。
ただ抱きあう。それだけで、うれしくて苦しくてせつなくて幸せになれると知った。でもそれも、この場限り。一歩踏み出すことをしなければ、まだ人を想う幸福を味わっていられたのに、もうそれもできない。
恋バナを性愛レポートなんて言われても当然だ。俺は人の愛し方を、間違えていたんだから。
ふいに村田が、身体を起こした。思わず抱きしめてた腕に力をこめる。これでおしまい、なんて嫌だ。まだしばらく、こうしていたい。
「行くなよ……」
見上げた横顔は、やっぱりきれいで。村田はなだめるように唇だけで笑い、タオルケットを身体にかけると横になった。
「……ごめんな、重ねる方法これしか思いつかんくて」
重ねる方法? と淡い声で聞き返すのに、人生、とだけ言った。
人生。じんせい。ジンセイ。やっかいな言葉だ。重くなったり軽くなったり、どうにでも化ける。
「好きだったよ、純ちゃん」
なんとなくこれまで呼べなかった下の名前を、これっきりのつもりで口にした。この一言で、いろんなものと訣別する。しなきゃならない。
「好きだった。マジで好きだった」
呪文のように繰り返す。腕は村田を離したがらない。あったかいそのぬくもりが、ひりひりと心にしみる。
村田は、応えない。呪文が違ってたから、箱は開かない。気づきたくなかったから見えないふりをしてた、残酷な現実。
「俺明日早いから、もう寝るよ。お前も寝な」
ああきっともう、こんなに苦しい幸せは、二度とない。
とてつもない安らぎは、とてつもないせつなさとイコールで。
まだ、来るのは早いよ。そう言っても、ひたひたと迫ってくるのをやめない。
ただ抱きあう。それだけで、うれしくて苦しくてせつなくて幸せになれると知った。でもそれも、この場限り。一歩踏み出すことをしなければ、まだ人を想う幸福を味わっていられたのに、もうそれもできない。
恋バナを性愛レポートなんて言われても当然だ。俺は人の愛し方を、間違えていたんだから。
ふいに村田が、身体を起こした。思わず抱きしめてた腕に力をこめる。これでおしまい、なんて嫌だ。まだしばらく、こうしていたい。
「行くなよ……」
見上げた横顔は、やっぱりきれいで。村田はなだめるように唇だけで笑い、タオルケットを身体にかけると横になった。
「……ごめんな、重ねる方法これしか思いつかんくて」
重ねる方法? と淡い声で聞き返すのに、人生、とだけ言った。
人生。じんせい。ジンセイ。やっかいな言葉だ。重くなったり軽くなったり、どうにでも化ける。
「好きだったよ、純ちゃん」
なんとなくこれまで呼べなかった下の名前を、これっきりのつもりで口にした。この一言で、いろんなものと訣別する。しなきゃならない。
「好きだった。マジで好きだった」
呪文のように繰り返す。腕は村田を離したがらない。あったかいそのぬくもりが、ひりひりと心にしみる。
村田は、応えない。呪文が違ってたから、箱は開かない。気づきたくなかったから見えないふりをしてた、残酷な現実。
「俺明日早いから、もう寝るよ。お前も寝な」
ああきっともう、こんなに苦しい幸せは、二度とない。
0
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
キミがいる
hosimure
BL
ボクは学校でイジメを受けていた。
何が原因でイジメられていたかなんて分からない。
けれどずっと続いているイジメ。
だけどボクには親友の彼がいた。
明るく、優しい彼がいたからこそ、ボクは学校へ行けた。
彼のことを心から信じていたけれど…。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる